第164話統治の拠点

233日目


本日は、前回の進攻で奪取した、国境付近の砦に転移をし、バルタとハンゾウ、そしてゴブリン達を招集し、二ホン砦へ帰還させる作業を行います。


バルタ率いる騎馬ゴブリンの機動力と10匹単位で集団戦闘をおこなうゴブリンの前に脅威となる魔物は居なかったようで、損害も無く、むしろホブゴブリンが増えている状態ですので、どうやら占領地の魔物の間引きは成功だったようです。


ゲートを開き、ゴブリン達を二ホン砦に帰還させ、砦で復興の指揮を執る内政官とグレームさんと打ち合わせをします。


「マサト殿、この地を統治するには、今ある3つの町のどれかを拠点にするには不便すぎますので何か方策を考えないと、統治に支障が出ますが」


そう口火を切ったグレームさんの言葉通り、占領した土地のドグレニム領側は農村が多く町は無く、反対にバイルエ王国が占領した土地の方に町がある為、どうしても農村部の統治と、プレモーネとの位置関係など、今後不都合が出てきそうとの事です。


「言われてみれば確かに、行政を行う場所の位置関係がアンバランスだよね、グレームさん的にはどうこの問題を解決する?」

「そうですね、領主様のご意向を確認しないと何とも言えませんが、方法の一つとして新たに町を作るのがよろしいかと思いますが」


「町ね、それでどの辺に町を作るの?」

「町を作るとしたらこの砦の辺りが最適かと、ややドグレニム領寄りに位置していますが、ここに町を作り行政を行う拠点にすればスムーズかと思われますが…」


「てことは、グランバルさんの判断次第って事?」

そうグランバルさんに聞くと、その通りとうなずき、他の行政官も同様の意見なのか一様に頷きます。


「じゃあここに町を作っちゃおう。 町を囲む壁は作るから、砦を中心に町を作れば防衛機能のある町になるからよくない?」

「そ、それは…。 領主様の許可は取ってあるのですか?」


自分が町を作っちゃおうと言い出すと、皆さんは驚いたように自分の顔を見ます。

「まあグランバルさんの事だから、統治に必要な事だから文句は言わないだろうし、自分が町を囲む壁を作るんだったら金がかからず行政拠点が出来て金を使わずに済んだって言うだろうから大丈夫だよ」


そんな自分の言葉に、行政官の一人が一応書状を書いてグランバルさんへ報告をするとの事でしたが、書状のやり取りとか時間がかかるので、グレームさんと行政官の一人を連れて、プレモーネにゲートを開き、グランバルさんの所に許可を取りに行きます。


領主館の執務室では、相変わらず書類の山に囲まれたグランバルさんですが、自分達が入室すると書類仕事を中断し、差し出した地図を眺めながら、グレームさんの報告を聞いています。


「それで、教国が対バイルエ王国用に築いた砦を中心に新たに町を作るという事か?」

「左様でございます。 一から土地を選び町を建設するよりも費用も時間も削減できますし、何より統治をおこなうにあたり既存の町では不都合すぎます」


そんなグレームさんの言葉を聞きながらグランバルさんは地図を眺めながら、思案をしています。

暫くして、考えが固まったのか、グランバルさんは顔を上げて町づくりを了承し、グレームさんに一任する旨の指示を出しましたので、その後大まかに話を詰めて執務室を後にします。


「それにしてもグランバル様は即断即決と言うか頭が切れるというか、一度使節団としてお会いして話をしましたが、ここまでとは…」

グレームさんがそう言いながら廊下を歩いていますが、そんなにべた褒めするほどなのでしょうか?

確かに頭は切れるし、即断即決する人ですが、そんなにべた褒めするほどの人って認識は無いのですが…。


そんな事を思いながらもゲートを開き砦に戻ると、その後は内政官とグレームさん達が町の構想を練り上げ始めます。


「じゃあ自分は町の外壁を作ってきますんで」

そう言い残し自分は外に出て砦を中心に半径1キロぐらいで円になる様に外壁を作成していきます。


とは言え今回はタダ働きなので、カウア達に手伝ってもらい、錬成術と土魔法を併用し掘を作りそこで出た土を盛って外壁とします。


うん、これは外壁っていうより土塁だな。

まあ土塁の外側は後々、グレームさんが石でも積んで石垣にするでしょうから、今回はこれで良しとしとこう。


234日目


昨日は新しく町を作る予定の場所に堀と土塁作りをし、ほぼ完成をさせたので、後の事はグレームさんと内政官の人達に任せ、プレモーネに戻ります。


それにしても元ウェース聖教国の宰相とまで言われたグレームさんが、教会内部の権力闘争に巻き込まれず、民政に力を注いでたら国は滅びなかっただろうに、教会の人達は、そんな事も考えず権力闘争に明け暮れるって、金と権力に魅入られるとその辺は頭から抜け落ちるのかな?

教皇を含む幹部もグレームさんを重用してたみたいだけど、間違いなく力の使い処を間違えてるね。

だって今のグレームさんなんか生き生きとしてる感じするし。


そんな事を思いながらも自宅で寛ぐ前に、補助魔道具を設置して日本とのゲートを繋ぎます。


ゲートを開き声をかけると、対策室の皆さんが一斉にこちらを向き、鈴木さんが声をかけてきます。

「武内さん、アズチの町に居る日本人の情報は分かりましたか?」

「いや、そんな直ぐには分かりませんよ、ていうか開口一番それってどうなんですか?」


そう自分が半分呆れながら答えると、鈴木さんをはじめ対策室の皆さんも少し肩を落とした感じです。


「ていうか何かあったんですか?」

「ええ、政府が異世界転移を公表したんですが、噂が噂を呼んで今ニュースなんかで推測情報が事実かのように報道されていて収拾がつかない状態なんです」


「あ~、それで日本人の情報などや、公表できるような情報が欲しいという事ですか…」

「そうです、前回頂いた金属は現在分析中ですから公表は出来ないですし、そうなると日本人の情報が一番いいんじゃないかと」


そういう鈴木さんに、これを言って良いのか一瞬悩みましたが、とりあえず懸念事項を伝えます。


「鈴木さん、申し訳ないですけど、自分達が把握してる日本人は4~500人居るか居ないかですよ? 既に死亡している人も居ますが、不明者があと29500人程は居るって事です。 そんな状況で把握している人の情報なんて公表したら火に油を注ぎませんか?」


「確かにその通りですが、政府としては武内さんからの情報を元に広大な大陸へバラバラに転移させられている為、現状把握できている人は限られていると公表するとの事です。 また行き来が出来ない為に政府から捜索を行う事が出来ない事や現地の情勢が現状少しの刺激で戦争に発展する事なども公表予定です」


鈴木さんはそう一気に政府の方針を話しましたが、どうやら把握している日本人の個人情報は公表しないとの事です。

「それならもう一つ追加情報良いですか? ついでに少し引っかかることもあるんですけど」


そう自分が声をかけると、鈴木さんをはじめ対策室の全員がまだ何かあるのか?

という顔でこちらを見ます。


「この前渡した地図ありますよね、その地図に記載されているパルン王国ってあるでしょそこで反乱が起きてるんですよ」

「パルン王国…。 この国ですね? それがどうかしたんですか?」


「ええ、その反乱の首謀者が日本人との情報があります。」


自分がそう言うと全員が驚きの表情を浮かべ、何人かは頭を抱えています。


いや、皆さん自分に対してジト目を向けてますけど、自分は何もしてないですよ。

なんで自分が悪さしてるかのような目を向けられるの?


うん、不条理だ…。

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