第161話情報屋セロス

227日目


商人に偽装してアズチの町に来たので、朝から商家を回り交易品を売りながら需要のある品などの聞き込みをおこないます。

どうやらオダ帝国まではまだ日本の品である酒類や石鹸やシャンプーなどは流入していないようでそれらの品を見せてもアズチの商家での反応はイマイチでした。


とはいえ、バイルエ王国で異世界人である日本人の故郷の物で大変人気があり、さらに一部の金持ちの間で流行している品と言い、酒類を試飲させると、イマイチだった反応に変化が現れます。


数軒ある大きな商家に酒類とジュース、そしてシャンプーにリンスや石鹸を売り、バイルエ王国では風呂と言うのが大人気で最近出来た公衆浴場に人が殺到していると噂も流しておきます。


うん、これだけ大きな商家に日本の品を卸しておけば日本人まで少しは届くだろうな。

日本の品を目の前にしてオダ帝国に居る日本人がどういう反応をしてどういう行動に出るか…。


そんな事を思いながらも、その後町を散策し、夕方には宿に戻り怪しい男のセロスが来るのを待ちます。

それにしてもこのアズチの町は、慣れないと迷子になるな。

他の国の首都は入り組んだ街並みだけど、アズチの町は道がどこも同じように作られていていから、同じ場所を何度も通っている感覚だし、掘りが多いから、裏道なんかを通ると掘りで行き止まりとかざらだしな。

よく考えて造られている城下町だ、人間が攻め込むとなると、かなり厄介な造りの町だし一見普通だけど、戦時には防衛設備に早変わりしそうな構造物らしきものもあるし、本当にアズチは日本人が設計したとしか思えないな。

やぱり町を知れば知るほどカズサノスケって人が何者なのか気になって来る。


とはいえ、うん、夕飯まだだから腹減ったな…。

セロスの話が長いと夕飯食べ損ねそうだけど、今から外に食事行って入れ違いになるのも面倒だし。

そう思いながら宿の部屋でダラダラしていると、宿の従業員が来客が来たことを伝えに来ます。


宿の一階にある酒場に行くとセロスは席を確保し既に何かを飲んでいます。

「ずいぶんと余裕だね」


そう声をかけるとセロスはこちらを見てニヤリと笑います。

「お兄さん、俺を誰だと思ってるんだ?」


そう言うセロスの座る席の向かいに腰を下ろし、給仕の女性にエールと夕食になりそうなものを頼みます。

「じゃあ調べた情報を教えてもらえる?」

「ああ、まずはオダ帝国を興した初代皇帝のカズサノスケの事だが、どうやら異世界人って話だ」


「そうか~、異世界人なんだ、でもカズサノスケ=オダって人は知らないんだけど」

「やっぱりな、お兄さんも異世界人か、まあそれは後回して、カズサノスケって言うのは何でも異世界の官職名らしくて、本当の名前はノブナガ=オダって言うらしくてな、異世界ではオダ=カズサノスケ=ノブナガと名乗ってたようだな」


「だったら最初からオダ=ノブナガって名乗ればいいのに、昔の人の考える事って分からんな。 それでどうやってこの世界に来たの?」

「さあな、そこまでは分からん、だがカズサノスケが現れた頃この辺りは別の名前の国で他国からの侵略で風前のともし火だったそうだ、そこに突然カズサノスケが現れて他国の進攻を跳ね返し、その後一領主となり、そしてのちに国王を排除し、近隣の国も併呑し一代で帝国と名乗るまでの国土を得たってわけだ」


「そっか、その後に通貨製造してヌスターロス大陸で流通する通貨を統一したんだ。 だけどその後は二代目、三代目と代を重ねるごとに領土は減り今の領土になったってとこだ」

「まあそういう事だな。 だが現在の皇帝ラナール=オダはヌスターロス大陸の統一を狙ってるって話だ。

とはいえ真偽の程は分からんがな」


「そんなに野心家なの? そもそもそれだけの兵力なんてあるの?」

「野心家なのかどうかは分からんが兵力があるのは確かだ、なんせオダ帝国は貨幣の発行をしているし交易も盛んだから財力にものをいわせて多くの兵士を養ってるからな。 それにこれも噂でしかないが、伝統的に使用している門外不出の武器もあるらしい」


「へ~、その辺までは流石に調べられないか…。 まあ商業を重視してるのは町を見て周って確かに感じたけど、まさか本当に織田信長が転移していた可能性がここまで高いとはね…」

「ほぅ、お兄さんの住んでた異世界ではそんなに有名な人物なのかい?」


「そうだね、かなり有名かな。 軍事の才能、内政の才能、どれをとっても信長が居た時代では右に出る物は居ないかもね」

「それほどとはな、なら俺が仕入れた情報もあながち眉唾ものじゃなかったって事だ」


そう言ってセロスは自慢げな顔をしてグラスに入った酒を飲み干してお替りを注文します。


「それで、カズサノスケの話はわかったけど、オダ帝国に居る日本人の方はどうだったの?」

「ああ、それだが正確な人数は分からないが概ね100人ぐらいは居るらしい」


「概ね100人? 領土が狭いから転移者はもっと少ないかと思ったけどかなり多いね、それでどんな人間とかがいるとかは?」

「それだが、ハッキリ言ってこの短時間では調べきれなかった。 だが妙な噂があったな」


「妙な噂? なにそれ」

「ああ、冒険者が話していたんだが、異世界人と思われる人間がなんか長い棒のような物を獲物に向けた直後にパンッ! って音がして次の瞬間には獲物が死んでいたとか、まあ魔法のたぐいかもしれんが」


長い棒のような物ね…。

どう考えても銃だよねそれ、オダ帝国初代からの技術か今回転移した人間の技術か。

とはいえ自分が知ってる国で銃は見かけて無いから今回転移した日本人がもたらした可能性が高いな。

火縄銃なら多少、銃について知っていれば簡単に作れそうだし、詳しい人間ならライフリング刻んで命中率とか高めていそうだな。

まったく厄介な物を…。


そう思いながらセロスの目の前に金貨を10枚ほど置きます。

「おいおい、お兄さんこれはなんだよ?」

「今回仕入れた情報の代金だが少なかったか?」


「いや、少なくはない、むしろ多すぎて驚いているんだ」

「そうか? 俺としては妥当と思ったから金貨10枚、10万レンを出したんだがな」


何を驚いているんだという顔の自分とは正反対にセロスは予想以上の大金に驚いてすぐに金貨をしまおうとしませんが、しばらくすると恐る恐る金貨に手を伸ばし財布に入れて懐にしまいます。


「お兄さんは何者なんだ? どう考えても普通じゃないだろ?」

「それを聞いてどうするの? まあ知りたければ隠すことでも無いから教えるけど個人的には時間をかけてもっとオダ帝国に居る日本人の事を調べて欲しいから教えたくないんだけどね」


「それは…。 余計な事を聞いたら消すって事で?」

「いやいや、そんな物騒な事はしないよ、ただ自分の情報をオダ帝国に売る可能性があるから他の情報屋を探すだけだね」


「そうかい、じゃあ俺は何も聞かないぞ、それでもっと時間をかけて調べるって具体的にどんな事を調べるんだ?」

「そうだね、転移して来た日本人の中には好戦的な戦闘に特化した人間や、何らかの技術を持っている人が居るはずなんだよね、その辺の人間を調べてもらいたいかな。 まあ可能ならば町で偶然を装って接触したいからよく行く店とかあれば知りたいかな」


「そうかい、それなら俺でも可能そうだな。 引き受けるが時間はそれなりにかかるぞ?」

「ああいいよ、ただ自分はオダ帝国を出るから出来れば情報が手に入ったらバイルエ王国の外務卿のロ二ストさんに頼んで自分と連絡を取ってもらえる?」


「バイルエ王国の外務卿? そんな人に俺が会えるわけないだろ」

「普通だったらね、だからこれを渡しとくし、ロ二ストさんには話を通しておくから大丈夫」


そう言ってロ二ストさんに充てた手紙をセロスに渡します。

呆気に取られているセロスは震える手で手紙を受け取りしまいます。


「因みに自分はマサト=タケウチって言うから、バイルエ王国の城の衛兵にもマサト=タケウチに押し付けられた仕事で来たと言って手紙を見せれば大丈夫だからよろしくね」

「ああ、分かった、じゃあ一通り調べたらバイルエ王国に行って外務卿に繋ぎを取るが、マサトはこれからどうするんだ?」


「自分? 自分は転移魔法で明日の朝にバイルエ王国に行ってロ二ストさんに話を通してそれからドグレニム領に行くかな」


そういって予定を伝えるとセロスは分かったと言って席を立ち去っていきます。


さて、明日の朝宿にオダ帝国の衛兵が乱入して来てもいいようにラルには影に戻ってもらっておいていつでも転移魔法で逃走できるようにしておこう。

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