__タイムトラベル__ (701文字)

ある天才科学者Mは言った。


本は時間を超え、場所を超え、未来の私たちに情報を届けてくれる。

これは一種のタイムトラベルであり、「情報」という次元は物理の制約から解き放たれ、である我々の「意識」まで到達することが出来るのだ。


この原理を反転すれば、物理的に人間が過去へ行くことは不可能であるが、

ある条件下でを与えれば、意識を過去に飛ばし、過去の情報次元にアクセス可能だというのである。



私はこの天才科学者Mの助手である。

Mの理論については、私は概要までは分かるものの、人間の発想を超えるその理論を完全に理解するのは不可能であった。

まさに、「現代の相対性理論」である。



今宵、私の意識を使って、過去へのタイムトラベル実験が行われる。

実験が成功すれば、私が人類初のタイムトラベラーとなるのである。



私はベッドの上で仰向けになり、実験の準備に取り掛かるMの様子を見ていた。

Mはいくつものケーブルが接続されたヘッドギアのようなものを、私の頭に装着させた。

私はMに質問した。

「このヘッドギアから脳に電子的な刺激を送るのでしょうか?」

Mは答えた。

「いや、これは脳波の測定に使うものだよ。」


次に、Mはレーザーが私の額にあたりっぱなしになるようにポインターを固定した。

私はMに質問した。

「このレーザーを使って脳に刺激を送るのでしょうか?」

Mは答えた。

「いや、これは体温の測定に使うものだよ。」


次に、Mは薬1粒と水の入ったコップを差し出した。

私はMに質問した。

「これも測定に使う為の薬でしょうか?」

Mは答えた。

「いや、これは睡眠薬とLSD溶液だよ」



私はたちまち、宇宙誕生以前の次元までトリップしてしまうであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る