幕間
エピローグ(プロローグ) ゲヘナの向こう側にて
……そうして、人をやめたオレはただひたすらどこでもない場所で星が流れゆくのを眺めていた。目を閉じて世界を探れば、オレと同じ可能性に至れそうな因子を持った人は宇宙全体にはそれなりにいたから、戯れに運命に介入して力を分け与えてやったりもした。そのどれもがオレには至らず、オレは安堵にも嫉妬にも似た複雑な感情で彼らが人としての生を全うして魂が輪廻の渦に還るのを眺める。はじまりはなく、終わりもなく、時間の流れにすら逆らって存在することができたオレに見つけられないものはなかった。
それなのに、探しても、捜しても、兄貴と同じ魂の形をした人はどこにもいない。まるで魂そのものが完全に消えてしまったかのように。宇宙を巡る魂の総量は常に一定で、ある星で増えたり減ったりしても輪廻は保たれる、ということをオレは識っていたから、それはとても不可解な現象だった。
ひとつ、オレには仮説があった。魂の循環する輪廻の渦。かつてオレ達が
もう一つ、オレには仮説があった。魔道の原理だ。あの星の人々は魂を燃やす、なんて表現していたけど、魂は万能のエネルギーなんかじゃない。燃やし続ければ当然火は消える。だから輪廻の渦そのものからエネルギーを引き出すのが魔道の本当の原理なのだ、ということを識っている今のオレだからこそわかる可能性だ。もしも、輪廻の渦からの供給を得ずに魂そのものを本当に燃やすことができるとしたら? きっとそうすれば魂は輪廻の渦に還ることなく消えることが可能だろう……認めたくないことだが、つまりは。オレは兄貴に勝ち越されたのだ。永遠に。オレが何度生まれ変わろうと、全能の存在になろうと、手の届かない場所に行ってしまった。これは、兄貴からの勝利宣言だった。
「あは……っははははは!」
その程度のことで、諦められるかよ。
それからオレは、ずっとずっとずっと、宇宙の始まりと終わりを数えきれないほど繰り返すだけの時間を捜して、やっとある星を見つけた。あるいは、それはオレが人を辞めた次の瞬間のことだったのかもしれないけれど。そんなことはどっちでもよかった。見つけた。それだけが事実だ。
その星は恒星でもないのに、宇宙の孤独な闇に僅かばかりの灯りを投げかけていたから目を惹いたのかもしれなかった。オレは戯れに感覚の先を伸ばし、その星を視る。
ああ、傑作じゃあないか。
オレはその星をきょろきょろと観察し、ある因子を持った少年の魂の裡にそっと根を下ろした。その瞬間から、少年はオレで、オレは少年だった。とはいえ、オレの全てを注ぎ込めば少年がはち切れて壊れてしまうことはわかっていたので、オレは静かに少年の裡でただその日常を眺めている。そして、少年がオレを欲し、目を合わせた瞬間に笑って、オレの旅はようやく終わるのだ。
「みつけた」
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