君が望むストーリー④




―――自分と似た容姿って、よくよく思えば興味を惹かれないものか。


綴自身に置き換えてみればそれは当たり前の話だった。 隣人に興味を抱く変わった人は稀有だ。 アイドルだったり、外国の人だったり、自分とは違うものに興味を惹かれるのが自然なこと。

公園へ辿り着くと二人は昆虫探しを始めた。 昆虫にあまり詳しくない綴からしてみれば、簡単に見つかるだろうと思ったがそうはいかない。 

いるのは地面を歩き回る蟻やトンボくらいで、昆虫らしい昆虫はなかなかいなかった。 ようやくシエルがカブトムシを発見し大はしゃぎしていたが、今はもう別の虫に興味が移っている。


「綴! 見て見て! 綺麗な虫が取れた!」

「おー、モンシロチョウか」

「同じ形の虫があっちにたくさんいるよ!」

「向こうには花畑があるからな」


シエルは綴の手の平を見ながらキョトンとした表情を浮かべた。


「あれ!? さっき僕が取ったカブトムシっていう昆虫は?」

「返した」

「何で!?」

「俺が一人で飼えるわけがないからな。 だから自然に返したんだよ」

「えー。 手懐けて僕のものにしようと思ったのに・・・。 カブトムシは見た目がカッコ良くて強そうだったのになぁ」


―――手懐けて僕のものに、って・・・。

―――生き物に対する認識がやはり違うのか。


「ここら辺はもう何度も往復したから憶えたよな? 俺は広場のベンチで待っているから、満足したら戻ってこい」

「はーい!」


元気よく返事をすると、シエルは子供のように駆けていった。


―――俺と大して年齢は変わらないというのに、精神年齢低過ぎだろ。

―――あぁ、そう設定をしたのは俺か・・・。


手を洗いベンチに座ると、鞄からノートパソコンを取り出した。


「さてと、小説の続きでも書くか」


図書館でメモを取った参考ノートを見ながら自分の小説を書き進めていく。 それから数十分後、シエルが戻ってきた。


「綴、何それ? 本よりも文字が小さいね」

「昆虫は満足したのか? これは家にあるデスクトップパソコンに似たようなものだよ。 ノートパソコンって言って、持ち運びがしやすいんだ」

「へぇー! あの大きな箱がこんな小さな姿に! もしかして、新しいストーリーでも考えていたの?」

「あぁ、シエルが主人公の小説もちゃんとこのパソコンに残っているぞ」


シエルが隣に座り、画面を覗き込んでくる。


「わぁ、凄い! そう言えば、綴が書いた他のストーリーがどんな話なのか気になっていたんだ! 読んでいないから分からなくて。 他のストーリーも、僕みたいに悲しい終わり方なの?」

「いや、そうとは限らないけど・・・」

「なら折角だからさ! 他のストーリーの人の心の声を聞いてみようよ!」

「もしかしてここへ召喚する気か?」

「そうしたいけど、流石にここでは魔力がなさ過ぎてできないからね。 でも脳内で意思疎通くらいならできると思うよ! ねぇ、まずは誰の心の声を聞きたい?」


突然の話は信じがたい内容だったが、これまでのことを考えれば冗談を言っているのではないと分かった。 

もっとも小説の設定でシエルに書き物の登場人物と話せる力はないため、今の状態だからこそ使えるのだろう。


「え、じゃあ・・・」


どうせなら他の人の小説から選んでみようと思い、WEBを眺めているとシエルが適当に指を差した。


「じゃあこの人にしよう!」


“ゆーり。”という作者の『生きる意味と死ぬ意味と』というタイトル。 綴は全く心当たりのない作者であったが、シエルが選んだのならそれでいいのだろう。 

どうやらキャラクターは樹亜という名前で、主人公ではなく悪役のような役割。 シエルはブツブツと言い始め、相手と意思疎通をしている。 準備が整ったのか、綴の脳内にも声が聞こえ始めた。


「誰?」

「あ、繋がった! ねぇ、突然だけど今の自分って幸せ?」

「はぁ? そんなわけないでしょ! 目覚めたら私一人だわ。 こんな未来なんて想像していなかった。 最低、最悪よ!」


それだけで一旦終わり、シエルは綴に真剣な顔を見せた。


「ほら綴! この人も、ストーリーの終わり方に満足していないじゃん!」

「そりゃあ完全悪役のキャラに聞いたら、もちろんそう返ってくるだろ!」

「じゃあ他の人にも聞いてみる!」


同一作者のページからスクロールして選んでいく。


リオン「・・・俺は複雑かな。 アンジュとずっと一緒にいられるのはいいけど、アンジュとエルフがあまりにも仲よさそうにするから・・・」(『スプーキーハロウィン』より)

玲太「僕は幸せだよ。 確かに目が見えないのは大変だけど、それ以上に今は大切な人を得ることができたから」(『盲目な恋』より)

夏々「・・・私は、どうだろう。 お兄ちゃんがいなくなって今でも寂しい。 でも真咲がいてくれるから、一応頑張れている感じかな」(『音を頼りに』より)

零真「幸せだよ! 泰牙とずっと一緒にいられるから! 両親を亡くしたのは確かに辛いけど、それは泰牙も同じ。 だからもう泣かないって決めたんだ」(『刑務所で繋がる縁』より)

夕樹「幸せじゃないから! 光冴様の熱愛報道がまだ全然おさまらないんだけど!? 俺の想いが、光冴様に伝わるのはいつ!?」(『不幸な笑顔』より)


一通り聞き終えシエルは一息つく。


「とまぁ、こんな感じかぁ・・・。 ストーリーの結果に満足している人も、していない人もいる。 難しいなぁ・・・」

「それが普通だよ」



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