その花の名は

みぐだしょ

第1話

面白い男、それが馬取エリザが礼三郎・サライ・アームストロングに感じた最初の感情であった。聖白薔薇学院高校で頂点を極める彼女は自分に何の興味を持たない人間を初めて見たのだ。


エリザはその日も取り巻きを連れ廊下を歩いていた。その偉容に不良たちすら道を開けた。

「おい、きみ、どきたまえ」

エリザは取り巻きの言葉を聞きその”どかない人間”とやらをみた。金髪の男だ。学生服のボタンを開け赤いシャツを見せている。そもそも制服はブレザーなのだが。

「まったく!校則違反だろ!だれだ!きみは!?」

「うん?俺は礼三郎だぜ。道いっぱいに広がって歩いて邪魔じゃないか?」

その男、礼三郎は逆にこちらを咎めた。

「まあまあ、落ち着きなさい」

「エリザさま!」

エリザは手で取り巻きを制止しながら礼三郎の前に躍り出た。

「綺麗に染めてますね。我が校は髪の脱色は禁止なのだけれども」

「地毛だぜ、これは。親父の遺伝だな」

「まあそうでしたの」

長い犬歯がエリザの口からのぞかせる。これもエリザのうまれもつ高貴さの一つである。彼女は吸血鬼なのだ。古代の血を多く発現させた長命の遺伝的形質、吸血特性。この血統の高貴さの象徴を見せつければ彼も少しは反省するだろう。

「じゃあな、道は開けて通るべきだぜ」

礼三郎はそれにすらなんの興味を持たず素通りしようとしたので逆に彼女が焦った。

「どうしてです?」

「ん?」

実際こんなに関心を持たれなかったのは初めての経験だった。この自分を特別な存在だと思わないものがいるとは。

「秋那さんが待っているから、俺はいくぜ」

秋那とは彼の一年上、アームヘッドで伝説を作った存在だった。

その秋那さんがいなくなるのは数ヶ月後のアームヘッド最終反乱でのことだった。


その日、学校の屋上で礼三郎は星空をぼうっと眺めていた。無意識に彼を追っていたエリザはそれを見つけて追っていった。エリザはそれに見惚れていた。彼女はそれに気づくとハッとした。自分が逆に誰かに見惚れるなんてことがあるとは。

「どうした?」

礼三郎がこちらに気づいた。彼の姿には出会った頃にはなかった陰がこびりついていた。きっと私の知らない修羅場をくぐり抜けていたに違いない。エリザはそう思った。最終反乱の日、エリザはほかの人たちと共にシェルターに隠れその自然災害が去るのを待っていた。でも礼三郎は違ったのだ。その嵐に自ら立ち向かい、それを退け、なにかを失った。その圧におされ言葉を失っていた。

「その花、なんていうんだぜ?」

礼三郎が気を遣ってエリザの服についている花の紋章について尋ねた。

「この花の名はエーデルワイスよ」

これは私の大切な思い出のはなし。

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