第42話 繁殖爆発 2
「ビンゴ!」
2時間ほど巡航速度で南東に飛んだところで俺は飛びバッタの大群を見付けた。
「いたね」
「いたな」
「多分2万匹くらいかな」
アリスがざっと見渡してそう言った。戦闘用A.I.だ、こんなことは実に速いし、正確だ。
飛びバッタは緑のものなら何でも食う。まして変異種だ、木まで根っこだけにされていた。人を襲うことはなくても、人間の居住地に入り込めば大厄災だ。根こそぎ食われて、後には荒れ地が残る。そして、おきまりの飢饉だ。モネタでさえ建設初期に襲われて、やっと根付き始めた農地を更地に変えられたことがある。2百年余りも前のことだ。その時は
今朝の200匹は先触れか、そうだとするとこの飛びバッタの群れは西に進むのかもしれない。いやこの辺りを食べ尽くせば、緑の残っている方へ進む。必然的に西だろう。西へ向かえばヤルガがある。ヤルガ周辺の農地は飛びバッタにとってご馳走だろう。平原の野生の草花や木に比べれば柔らかくて滋養に富む。おそらく根っこまで食い尽くされるだろう。
2時間弱巡航速度で飛んだからヤルガから約500km、飛びバッタの1日の飛行距離が50kmとして、この群れがヤルガにたどり着くのに10日余りだ。どうする?俺は自問した。
この世界へ来て、初めて縁を持った人たちが暮らす街だ。街の最有力貴族家とはトラブっているものの、カラズミド商会のアレン・カラズミドや傭兵のゴルディ・ベルナティス、お節介焼きのダンツィーノ爺さん、宿の女将さんなどの個人的な知己も居る。貴族以外で俺に接してくれた街の人々は気のいい人たちだった。命をかけてなんていう気はさらさらないが、ちょっとした手間で役に立てるなら動いてもいい。11騎の飛竜騎士もよく訓練されているように見えた。自分とアリスだけではこの群れを相手にするのはしんどいが、11騎の飛竜騎士とそれを補助する地竜騎士が居れば飛びバッタを殲滅することは出来るだろう。問題はどうやって、ヤルガの竜騎士達を動員するかだな、まあ、やってみるか。俺は方針を決めるとヤルガの方へ引き返した。
――――――――――――――――――――――――――
私は竜舎に居るのが好きだ。飛竜達が世話をされ、餌を貰い、のんびりと自分の場所でくつろいでいる。そんな中に入っていって、自分の飛竜――ロクスと名付けた――にもたれかかる。ク~とロクスが甘えたような声を出す。
竜騎士は、竜と意思疎通が出来なければならない。勿論、人間同士で話すような複雑なことは出来ない。しかし、その背に乗って、飛び上がり、直進し、スピードを上げ、スピードを下げ、左右に旋回し、下降する、こういったことを自在にやるには自分の意志を正確に竜に伝えなければならない。地上を走る地竜ならば手綱で意志を伝えることも可能だろう。しかし、空中を3次元で機動する飛竜はもっと複雑な意思の伝達が不可欠だった。
竜と意思疎通が出来、飛行魔法が使える、という飛竜騎士の資格を満たすのはそう簡単ではないのだ。意思疎通を出来るだけスムーズにするために、という口実で時間があれば竜舎へ出入りしていたが、実のところ、飛竜の側にいるのが好きというのが第一の理由だった。
面倒な書類仕事をやっと終わらせ、いそいそと竜舎のロクスの元を訪れた私の耳に、すれ違った竜舎の世話係の呟きが聞こえた。
「あれは、誰だ?」
「えっ?」
吊られて私も、目の上に手をかざして上空を見ている世話係の視線を追った。上空を悠々と旋回している飛行魔法の遣い手が居た。
「誰、いったい?」
飛行魔法の遣い手は少ない。半分は竜騎士になっている。だからヤルガの飛行魔法の遣い手は皆互いに顔見知りだ。当然私も全員を知っている。ヤルガの空は解放されていない。平時には自由には飛べないのだ。あらかじめ許可を得なければならないし、その許可証の署名欄には私の名もある。今日飛行を申請している魔法使いが居たかしらと思った瞬間、愕然とした。
――あいつだ!!――
声に出していたようで、
「な、何ごとでしょうか?」
世話係の男が私の剣幕に驚いたように聞き返してきた。
この魔力パターンは、ジャンポール兄様を翻弄したあの魔法使いのものだ。政庁から正式の命令が来てから3人1組で交代させながら、ヤルガの周辺を広範囲にパトロールさせた。何の手がかりもない、と言う報告を受けて、もう近くには居ないかもしれないと思いかけていたところだ。
それが、悠然とヤルガの空を飛んでいる!舐めるな!!
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