第19話 商隊の男達
「てっ、てめえ誰だ!?」
今頃になってやっと俺に気づいた山賊の1人が怒鳴った。ああ、こいつは確か首領格の奴だ。俺は返事もせずに、首領の声に反応して俺に対して槍を構えた奴に無造作に近づくと、槍のけら首を掴んで引っ張った。男は前のめりにつんのめって蹈鞴を踏むところを頸に手刀を落とすと伸びてしまった。ここまでの間、何も出来ないのだからのろまと言うよりない。
「殺っちまえ!」
首領が叫んで、男達が次々に襲いかかってきた。真面目にやれ!と言いたくなるほど隙だらけの動きで。腰のナイフに手を触れることもなく、素手で山賊達全部をたたき伏せるのに5分かからなかった。
護衛の、――多分傭兵だろう――(山賊達に比べると一応揃いの革鎧を着て、多分その下に鎖帷子を着込んでいる)男達が唖然として俺が山賊達をたたき伏せるのを見ていた。
「やったね」
アリスが降りてきてハイタッチをして、また俺の顔の周りをふよふよと飛び回り始めた。
「手応えのない奴ばかりだったけどな」
俺が護衛の
「あんた」
呼びかけると眼に戸惑いがあった。俺が喋ったことで周りで槍を握り締め直している男もいる。呼びかけられた男はきょとんとした顔で俺を見返してきた。
――あっ、しまった。こっちの言葉じゃない――
俺は少し慌てた。聞く方はアリスと同調していればアリスがほぼリアルタイムで翻訳してくれる。既にアリスの語彙にある言葉は勿論、語彙にない言葉も論理の流れと、語彙にある言葉からの推測で90%以上の正確さで訳して俺に送ってくれる。アリスが言語解析専用A.I.なら99%以上の正確さになるのだが、戦闘用A.I.に付属している初級ソフトなら90%で仕方が無い。言語方面の能力は比較的低い。
『また何か失礼なことを考えたよね』
『いや、そんな……』
『フンだ』
話すのは、自分で言語構造を理解し、言葉を当てはめなければならない。つまりアリスの能力を当てに出来ないって事だ。もう一度やり直し。
「俺、迷う、……町、行く」
自分を指さしながら、迷子で町まで連れて行って欲しいと言うつもりの言葉を俺は口に出した。勘の悪い男だ、こんなに一所懸命に話しているのに意を察することが出来ない。
遅れて2台目の車から出てきた男が近づいてきた。首領格の山賊を相手にしていた男だ。大柄で、昔は結構荒事をやったのではないかと思われるがっしりした体格の男だった。ひげに白いものが混じり始めているところを見ると50半ばだろう、腹に贅肉がつき始めているが、腰に吊した剣に違和感がないし、歩く姿勢は軍の経験を思わせた。よく見ると揃いの鎧を着けている護衛の男達より上等な服を着ている。
「ベルナティス君」
呼ばれて、傭兵の頭と思われる男が姿勢を正した。
「はっ」
「その方が助力してくれたんだろう?山賊を退けるのを」
男はまだ気を失ったまま倒れ込んでいる山賊達を見回しながらそう言った。
「……はっ、ま、まあその通りです」
「かなり押し込まれていたから、助けて貰ったわけだな?」
ベルナティスと呼ばれた男は悔しそうに唇を噛んで頷いた。男が俺の方を向いた。
「助力、感謝しますぞ」
「あっ、い、いえ。助ける、俺も、……満足」
ええい、くそ!なかなか言葉が出てこない。横でアリスが聞き耳を立てて語彙を収集している。
「しかし、珍しい鎧ですな、初めて見ました。あなたの出身地ではそんな鎧が使われているのですかな?」
俺の着ている装甲戦闘服、ヘルメットは確かにここに居る男達の着ている鎧とは全く違っていた。
「あ、……はい」
「さっき小耳に挟んだ所では、迷っていらして、町へ連れて行って欲しいとおっしゃっているように聞こえましたが……」
「は、はい、その、……通り」
「それではヤルガまでご一緒しましょう。あなたのような腕利きが加われば道中さらに安全になるでしょうし」
「カラズミド様、こんな正体の分からぬ奴を」
ベルナティス傭兵が注意を促すのに、
「大丈夫ですよ、ベルナティス君。私の勘は滅多に外れない、この方は安全だと勘が教えてます」
言われてベルナティスは口を噤んだ。カラズミドと呼ばれた男が俺に近づいてきた。右手を出して、
「アレン・カラズミドと申します。ヤルガの町でちょっとした商会を営んでおります」
こっちにも握手という習慣はあったのだなと思いながら俺は差し出された手を握り返した。
「アヤト、よろしく」
「アヤト様と言われますか。よろしくお願いします」
俺の横に浮かんでいるアリスを見て、
「従魔を持ってらっしゃるのですな。しかしピクシーとは珍しい」
そこまで言って、
「ようし、ちょっと手間取ったが出発するぞ」
このカラズミドというのが商隊の
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