第13話 魔法の確認

「本当にフェアリー・テイルだな」


 俺が呟いた。


「でも、なぜだろう?」


 独り言だったが、それにアリスが反応した。周囲を見回しながら、


「あのね、魔力素が濃いみたいなの、ここは」


「魔力素?」


「うん」


 なぜ特異宙域で魔法が使えるかという疑問に答えるため、仮定されたものだ。それで説明できることが多いため実在とされてた。その後実際に研究所の連中がそれを測る方法を見いだして存在が証明された。しかし、かなり大げさな装置が必要で、アリスのような小型A.I.にできることではないはずだった。

 魔物から取れる魔結晶は魔力素の塊とされている。通常宙域では只の石ころ――ただし綺麗な宝石――のくせに、特異宙域だと様々なエネルギー源になる。


「魔力素の濃度を感じることが出来るのか?アリスは」


「ボクの初期スペックじゃないけどね。ここに来てからそうとしか言えないものを感じるんだ」


「へえ~」


「だって、アヤトだって飛行魔法がものすごく伸びたじゃない。濃くなった魔力素の所為だと思わない?」


 そういえばそうか。確かに飛行魔法だけでなく、空気中から絞り出す水の量も以前より多いし、火を付けるための発火の温度も高くなっている。慌てて調節したくらいだ。以前と同じ温度にするのに1/5くらいに絞らなければならない。


「どれくらい濃くなっているんだ?」


「う~んとね、体感で50%増かな?」


「50%?」


 周囲の魔力素濃度が1.5倍になれば使う魔法の威力がその4乗、約5倍になる。


「うん、だから、アヤトも新しい魔法が使えると思うよ」


 アリスの言葉に新しい魔法が使えるかどうか試して見ることにした。


結果:念動力が大幅に向上していた。例えば足下にある石を十分に攻撃的な速度で飛ばすことが出来る。500gくらいの物なら初速700m/s、有効射程1kmになる。以前は100gくらいが精々だった。もっと軽い物なら初速が上がる。そして100mくらいの距離なら百発百中だった。尤も形によっては、空気抵抗のため急速に速度が落ちるし命中精度も悪くなる。

 アリスと魔力同調出来る距離が10mから30mに伸びていた。念話の距離も1kmになっていた。大気中の水蒸気から水を絞り出す魔法では、今まで1Lを出すつもりの力で5L の水が出た。あっという間に周囲の気圧が低下し――水蒸気の圧がなくなった所為だ――強風が起こって大変だった。また発火の魔法では種火にするつもりの木の枝が一瞬で灰になってしまった。これらはなんとか調節できたが、僅かに魔力を込めるところで細かな調節をするのは結構大変だった。

 俺ががっかりしたのは、アリスが獲得したような遠隔攻撃魔法は高速高熱弾――空気を圧縮して高速で飛ばすやつだ――も雷撃も出来なかったことだ。この2つは遠隔攻撃手段として優れている。高速水流は10mも離れると威力が激減するし、火球はスピードが遅い。念動で物を飛ばすのは威力が上がったが、1発1発撃たなければならない。魔銃のように短時間に連発できないのは使い勝手が悪かった。空気抵抗や重力の所為で遠距離の命中率が落ちるのも不満だった。魔銃なら本当にまっすぐに飛んでいくのだから。尤も手元に何の武器もないように見えるときでも、例えば足下に石ころでも落ちていればそれを強力な武器にできるというのはかなり有利な話だろう。



 使える魔法の確認が終わって、俺は樹海の西に見えた草原を探検してみることにした。大樹海はモネタで特殊兵をしているときに散々うろつき回った事がある。草原はカジエダ高原を除いて余り経験がなかったからだ。輸送機に載っていた物で壊れていないものは全てアリスのポケットに収納した。取りあえず必要ではなさそうな物も置いていくつもりはなかった。どんなことで必要になるか分からなかったし、アリスのポケットには十分な容量があったからだ。整理して入れておけば取り出すのも簡単なのだそうだ。入れるのも取り出すのもアリスにしか出来なかった。俺が手を入れても只のポケットでしかなかった。あれだけの荷物をポケットに収納しながらアリスは身軽に飛び回っていて、俺の左肩に坐っても殆ど重さを感じなかった。


「まだまだ余裕があるよ、でも血塗れの魔物なんか入れるの嫌だからね」


 生きているものを入れるのは出来ないそうだ。うっかりポケットに入れた、あるいは入ってきた生き物は無生物に変わる。つまり細菌や真菌と言った微生物も殺菌されるわけだ。食料の保存に役立つ。


 もうこの地点に帰ってくることがあるまい。俺はテディの墓標に敬礼して飛び立った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る