第11話 輸送機の積み荷

 ぶっ壊れて止まっている輸送機の中を調べることにした。11人の客と3人の護衛、輸送機の操縦士と副操縦士、それに特殊兵1人が2週間キャンプするつもりで積んできた荷物だった。輸送機は大型だし、かなりの物資が積んであるに違いない。この世界に飛ばされて1人で生きていかなければならない俺にとって、それは貴重なものだ。できるだけ確保しておかなければならない。


 輸送機は片翼がちぎれ飛んでいて、前部操縦席はつぶれている。操縦士と副操縦士はそこで死んだのだろう。窓からのぞき込むと二つの椅子には血がこびりついていた。良くテディが生きていたなと思うほどの惨状だった。それでも何とか胴体着陸したのだろう、操縦士は良い腕だったらしい。ドアが吹っ飛んでいる入り口から中に入った。乱雑にいろんな物が壊れて重なっていた。血痕はあるが死体はない。血のスタンプを押したような魔物の足跡が床一面についていた。血の筋が輸送機の外まで付いているのは死体――ひょっとしたら生きていたかもしれないが――を引きずった後だろう。誰も――生きているのも死んだのも――乗っていた人間達は全部全部魔物達の腹に収まったのだと思われた。


 ハイツマン・レンズを入れていたらしい大きな箱は、床への固定が外れて前部隔壁にぶつかっている。壊れた箱の中にも見えるレンズの外殻は見事にひしゃげていた。もともと繊細な、工業製品と言うより名人の作った手工業品と言った方がいいようなものだ。外からの衝撃には弱い。どんな改良を加えていたのか知らないが、こんなに壊れていたのでは調べようもない。



 やはり俺にとって一番有り難かったのは食料品だった。缶詰やレトルト・パウチ、真空パックになった軍用携帯食など保存食を中心に少なくとも17人×14日×3の700食余、その上クッキーやビスケット、密封された菓子類、インスタント・コーヒー、粉末スープ、それに狩った魔物を料理するつもりだったのだろう、調味料の類も結構な量、あった。飲み物も水やジュースといったソフトドリンクだけではなくアルコール飲料も種々用意してあった。入れ物が壊れたり、包装が破れたりしている物もあったが大部分は大丈夫そうだった。簡単な調理器具も積んであった。大型のテントが一つ、1~2人用の小型のテントが7つ、人数分の寝袋、簡易ベッド、新品のタオル類、替えの下着(これも共用部分にあったのは新品だった)、武器、弾薬、医薬品、その他細々した雑貨があった。


 武器は戦争にでも行くつもりかと思ってしまうほどたくさん積まれていた、重機関銃、対物ライフル、ロケット砲、グレネードランチャーと突撃銃、それら用の大量の弾薬だ。魔銃はなかった。テディ以外に扱える人間はいなかったのだろう。 

 乗員の中でまともに武器を使えるのは護衛の3人、テディ、それに操縦士と副操縦士くらいだろうが、客達も魔物に対してぶっ放してみたかったんだろう。魔物に効果があるとはとても思えない小口径の拳銃もあった。

 客達が持ち込んだ個人用の荷物はそれぞれ大型のスーツケースに入れられていたが、それこそ個人用の雑多な物が入っていた。1人が2~3個のスーツケースを持ち込んでいるようだ。個人用に食い物を詰め込んだスーツケースもあった。女性が2人ほどいたようで、化粧品や女性用の服や下着、女性用品の入ったスーツケースが5個あった。2人と判断したのはスーツケースに名前が書いてあったからだ。


 どれもここでサバイバルを始めなきゃいけない俺にとって、有り難い荷物だった。



 俺は取りあえず、ここ――輸送機の墜落地点――を根拠地にすることにした。荷物が多すぎて他所へは運びきれなかったのだ。

 一人用のテントを張って、寝袋に入れば高原の夜の気温が氷点下に下がっても眠る事が出来た。

 カジエダ平原は2000mほどの高地であり、昼に気温が最高で20℃前後、夜は氷点下に落ちる。積んであった寝袋は優秀で気温が氷点下に下がっても内部は十分に暖気を保つことができた。背嚢にはもう余裕がなかったが何とかして持ち歩きたい。置いて行くにはもったいないものばかりだ。


 3日ほどを輸送機に積んであった荷物の整理に費やした。特に個人で持ってきた荷物は雑多で手間が掛かった。テディの背嚢の中身は特殊兵だけあっていろいろ俺の役に立ちそうな物が多かった。壊れたドアを取りあえずくっつけて輸送機後部に魔物が入り込まないようにして、整理した荷物の保管場所にした。


 先ず周囲を十分に調べなければならない。どんな魔物が居るのか、どの程度安全なのか、あるいは輸送機から無事に降りた人間の痕跡がないか。尤も最後の項目については多くは期待してなかった。


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