第3話 依頼 2

 行方不明の原因が何であっても2000km北なら大樹海の中だ。そこで行方不明になって3日、今まで無事だなんて考えられない。奇跡的に無事樹海に降りられたとしても、素人が11人だ。兵が3人、輸送機の操縦士と副操縦士、特殊兵が1人付いていると言ってもどれだけ助けになることやら。樹海と言うのは甘い場所ではない。


 俺は首を振りながら、


「3日も前でしょう?救難信号も無線連絡も無いと言うことならとても生きているとは考えられませんが。例え、武器弾薬をたっぷりと持っていたとしても」


 輸送機にも無線は付いているし、特殊兵なら戦闘用A.I.を通じて連絡できるはずだ。それが使えないのだからそれなりの損害を受けていると考えるべきだ。特にテディ・ジャービスの戦闘用A.I.が連絡もできないほどの状況であれば、とても楽観的にはなれない。


「私もそう思うが、シャードス上院副議長様は納得しない。探せ!とのご命令だ」


 ボルヴァーサ社がシェルガコーン連邦共和国に本拠を置いている限り断れないだろうな。それに“狩り”の手配をしたのがボルヴァーサ社だということであればなおさらだ。


「それで、捜索ですか?地上に降りて」


 空から見つからなければ地上を探すしかない。となると俺たちの出番だった。


「そうだ、君に頼む。エダンギュア山脈の近くだから。うちの契約特殊兵で一番あの辺りを知っているのが君だろうからな」


 エダンギュア山脈の方へ向かって行ってたのか、2000km飛んだのなら、もう少し先にカジエダ高原がある。あそこなら樹海より行動しやすいし結構大型の魔物も居る。地面は凸凹で岩だらけだが、ええのボンボンに魔物狩りを楽しんで頂くなら良い場所だ。見通しは樹海の中よりずっといいから、テディが付いていくなら大丈夫と考えたんだろう。


 俺は魔物狩りが本職で、不明者の捜索なんてやりたくはないが、承知するしかなかった。なんと言っても契約している会社からの依頼だ。それにペイが良かった。捜索に従事している間は1日に3,000クレジット払ってくれるそうだ。捜索がうまくいけば成功報酬は100万クレジットと言われた。ちょっとした小金持ちになれる。尤も捜索がうまくいくとは俺は思ってなかった。条件が悪すぎる。死体の一部でも見つかれば御の字だろう。


 捜索範囲は輸送機がレーダーから消えた地点から10km手前を起点に45度の角度の扇形に50km先までということになった。特殊兵でなければ動き回ることも出来ない。


「ジェトーミエル王国とガイグラス連合も捜索者を出してくる。多分特殊兵だ。その辺りも面倒くさいが頼む」


 面倒くささが倍加した。人付き合いが悪い特殊兵――俺もそうだが――と協力しなければならないかもしれない。

 俺の分担は一番手前、つまり扇の要側の、面積にして捜索範囲の1/3と決まった。一番何かが見つかる可能性のある所だ。つまり俺が一番頼りにされているって訳だ。ありがたくはないが。




 と言うわけで、俺は特異宙域の中の最大の人間の都市、モネタから2000キロも北に離れた森の中にいる。


 下に降りるとひどく見通しが悪い。樹海の上からは捜索機が何度も舐めるように見ているだろうという憶測の下に地面近くに降りてきたが、こんな見通しの悪さでは俺の責任範囲の捜索にどれほど時間を取られるか分からない。魔物ならアリスと俺の魔力探知に引っかかるから、見通しが悪くてもなんとかなるが、魔力を持たない人間は目で探すしかない。いくらアリスが高性能であっても直径が5mもある木の向こうが見えるわけではない。

 捜索対象が生きていて、俺たちに気づいて信号弾でも上げてくれれば簡単なんだが。だが、そもそも生きてはいないだろうし、生きていても素人さんでは信号弾を上げるほど気が利いているとは思えない。テディか、護衛兵か、操縦士でも生きていればそんな期待もできるのだろうが。だが彼らが生きていて、救難信号さえ出せないという状況も考えにくい。

 と言うわけで、俺は樹冠すれすれに低スピードで飛んで捜索することにした。これなら捜索機よりも丁寧に仕事をしたと主張できるだろう。さすがに地面に一人、二人の人間がいるだけでは見逃すかもしれないが。


 樹冠の上から俺は自分の捜索範囲をクレヨンで塗りつぶすように光学系スキャンでサーチしていった。バイザーを下ろし、赤外線を使用して、探知範囲を35℃から40℃の間に、人間ほどの大きさに反応する様に設定した。アリスからの情報がバイザーの隅に表示される。

 魔力探知は切れない。そんなことをしたら気づかれずに近づいた魔物にいきなり襲われる可能性がある。周囲の魔力には気を配っていなければならないが、それでも多少は精度を落とした。一定以上の魔力で俺に近づいてくる奴を重点的に探知するようにしたのだ。いるいる、大小様々な魔物が引っかかる。おいしい獲物になりそうなのもいたが今回はパスだ。それにしても慣れない作業というのは疲れる。いつもなら魔力探知だけで良いのだから。



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