被疑者は主人公じゃない
現在、俺を先頭に来た道を引き返している。被疑者の俺を先頭に、だ。
というのも、軍服の彼らが来た道が明らかに遠回りだったからだ。なぜ俺たちと同じ道を通らなかったかと聞くと、知らなかったのだとか。おそらくだが、俺たちが歩いてきた道は俺の墓と墓地の道がわかりづらくなっているから認知されていなかったのだろう。
今思うと墓地と俺の墓をつなぐ道は、わかりづらいのではなく意図的に隠されていたのではないかと思えるな。
方角をもとに近道であると軍服たちを説得し、道案内の俺を先頭に歩いて行っている。わざわざ倍以上かかる遠回りなど誰が望むものか。
道に関してはワンの活躍もあり説得はできたのだが、誘拐の容疑に関してはワンの活躍により疑われてしまった。軍服たちは疑っている段階と言いつつ、まだ何もしていない俺を犯罪者扱いだ。まだとか言ったら未遂みたいになるがそういう意味ではなくて、現状で何も問題は起きていないという意味だ。
「はい、自分は誘拐されました。」
ワンは即答する。なんて薄情なんだ。悪びれもせず平気な顔で嘘をつきやがった。男たちも可哀そうにと口々に言い、俺を見る目が一層きつくなる。その言葉は本来俺にかける言葉だと思う。
「お嬢ちゃんは?」
「私もこの男に誘拐されたんです。」
レイが代わりに被害者面で答えるが、リーブ本人はレイを見て首をかしげる。純粋な少女をからかうんじゃない。
「おいしいから。」
ぽつりとつぶやく彼女に対して男たちは深刻そうな顔になり、小声で感想を述べていく。
「どういうことだ?明らかに文脈がおかしい。」
だが事実。
「あの頭の怪我…まさか殴られたんじゃないか?」
ファーストコンタクトで「リーブの墓」と失言をしているため、あえて黙っている。殴っていない、殺したんだ。など冗談では済まされないしな。
「そうか、この男が殴ったから頭がいかれてしまったのか!」
いや、いかれていない。オリジナルだ。無差別に噛みついていた動物から進化を遂げたのだから、むしろ正常だ。
リーブは周りが騒がしくなっていくのを見て、キョロキョロしていたが鼻で笑った。なるほど、無表情だしボーっとしているように見えるが、雑な受け答えをしているだけでこちらの話は理解しているようだ。
その後、暇そうな軍服たちが俺がロリコンだのショタコンだのと小声で話していた。どうやら性別を問わない子供に興奮する変態を示す言葉がわからないらしい。複数の特殊性癖保持者とか、コンプレックスマスター、略してコンマスと言われる始末だ。コンマスは第二の指揮者と略し方が被るのだが…。
レイの服から着替えていてよかった。コンマスに拍車をかけるところだった。いやそのせいで今捕まっているのか。でもまあ、軍服たちだけでなくレイやワンも楽しそうだからいいか。
ワンとリーブは保護兼重要参考人という名目で手錠をつけられずについてくることになった。手錠をつけなくてよいのは重要で、ワンは知らないがリーブは魔力が常に放出されるから、即座に手錠が反応して手が千切れてしまうだろう。ひとまず痛い思いをしないようで安心する。
というか、レイは監獄から出ることを推奨していたくせに、投獄に関しては成るようになれという気概を感じる。違いが判らないんだが…。
「うお、何だここ。」
男たちは通る道にある綺麗に抉れた地面や、倒されている木を見て驚いていた。木はともかく抉れた地面で思い出されるのはいい思い出ではないのか、ワンからの視線を感じる。
もう引きずってはいないだろうが、俺の反応が気になっているのだろう。それに対してレイは気にしていないどころか、別の何かに気を取られているようだ。先ほどから静かに前方を見据えている。
…。
捕まってよかったことと言ったら、第三勢力に襲われたときに
何が言いたいかというと、レイが何かを警戒して考え込んでいるようにしか見えないのだ。嫌な予感しかしない。
男たちが説得しても聞かずに俺の傍を歩くリーブの頭を、自分の不安を払拭するように撫でようとするが避けられる。
…どうやら頭は、物理的に触られると痛いようだ。決して嫌われたわけではない。手元には拭えなかった不安と避けられた悲しみが残り、腕輪が月光を浴びて鈍く光る。月が出てきた。
腕輪について理解しているのか、それとも人目を気にしているのか、パクパクかみついていたリーブは、俺が腕輪をしてから一切触れてこなくなった。魔力を吸い取ってほしいわけではないが、なぜなのか気になってしまう。
今言うことではないが、吸い取る場所によって消耗は段違いだということがわかった。魔力放出に慣れていない場所は消耗が激しく、体に影響が出るようだ。そのため腕や足など、もっと言えば指先や関節といった普段から魔力を出し慣れている場所であればそこまでであることがわかった。
首の魔力放出など後遺症が残ってもおかしくないレベルで危険なのだから、立てなくなるのも無理はないか。
墓地に辿り着くと、そこから見えるビークの街並みを見て軍服たちが先頭を歩き出した。夜の墓地を見るとリルレットを思い出す。
もしかして今出てきて助けてくれたりしないのだろうか?仮にずっとここに居るなら、俺が運ばれてきたのも見えるだろう。
…そうだ、俺がここに運ばれて埋められた時も見えたはずだよな。リルレットはブライに襲い掛かる機会があったんじゃないのか?なぜ自分でやらない?
ブライにはレイが見えていなかったのだから、幽霊であるベイクも見えないのではないだろうか。加えて幽霊には触れられない。つまり一方的に戦えたんじゃないのか?
なぜ戦わなかった?…成仏以外に幽霊が消えてしまうことがあるということか?方法はともかく、ブライができても納得はいくか。
気になってレイを再び見るが…この質問は少し怖いな。殺すつもりはないが銃の打ち方を教えてくれ、と言っているようなものだよな。いやでも、それを知っておかないと…知っておかないと?何になるんだ?
俺たちが墓場を通り過ぎてビークに向かい始めた時、道のわきから聞き覚えのある声がした。
「手錠以外殺せ。」
「ワン、リーブ、ソーンの近くにこい!」
同時にレイが、刺すように声をあげる。警戒していただけあって反応が早い。すぐに木の陰や茂みからいかにも犯罪者の風貌の男たちが、飛び出してきた。この感じも見覚えがある。
軍服と…これは囚人?とりあえず、俺の周りでその2グループの殺し合いが始まった。当然俺は魔法が使えないので見ているだけ。襲ってくるやつもいたが、俺が手で頭を覆うと舌打ちをして軍服へと襲い掛かっていった。
手錠以外、か。
俺を捕まえに来ただけあって、負傷者はいるものの誰も死んでいない軍服たち。華麗な連携で次々に囚人を倒していく。抵抗して暴れなくてよかったなと胸をなでおろす。
しかし、そんな状況も長くは続かなかった。ある男が現れたのだ。彼は、俺がビークに来る前に会った、ボス猿ことグラノスにビンタされ、主人公Aにマッチポンプされた男。ジムだ。
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