墓荒らしは主人公じゃない
ワンが起きる頃には、リーブも復活した。確かに火の玉ストレートが直撃して頭が半分吹き飛んだのだが、しばらくするとその状態で起き上がってきていた。今は男の服で頭をぐるぐる巻きにしている。
「どういうことだ?」
仰向けに倒れている俺の腹の上にチョコンと座るリーブを見て、ワンが頬を掻く。リーブには既に敵意はなく、すっかりなつかれてしまった。
「この子は魔力取り込まないと死んじゃうんだけど、ソーンの魔力がおいしかったみたいでね。」
もう死ぬだろうと近寄ったところ、魔力を吸わせてくれと懇願してきたので、どうせ死ぬし俺は死なないし、と気まぐれで承諾してしまった。
俺の返答に無表情な少女は若干目を大きくすると、俺の手首を咥える。なるほど、俺は魔力を吸い取られていたのか。そう思っていると足に力が入らなくなり、その場にへたり込んでしまう。
俺が意識を失いかけたところで、レイが離れろと怒鳴る。そのまま火の玉を投げようとしたが、リーブは思いのほか素直に離れて、今に至る。
襲い掛かってきた理由は渇望だろうか?満たされたから襲ってこないのだとは思うが、どうしても待てを言われた犬にしか見えない…。まさか、まだ満たされないのか?
というか俺の周り死なないやつ多くないか?
ワンは歯形だらけになった自分の体をさすりながらレイに近寄るが、足を止めて俺の傍に腰を下ろす。どうやら、噛むことにより魔力を吸引するようだ。
ワンは俺同様、魔力を吸われ過ぎて倒れた。ということになった。
さすがのレイも苦笑いをして俺の方をちらちら見てくる。レイが先に説明をして丸く収まっているのだから、わざわざレイが火の玉でとどめを刺したなんて言うつもりはない。貸し1な。
俺は首を一か所噛まれただけで立てなくなったのに、体中歯形になった後レイの魔法でやっと倒れるワン。ここに来るまででも思ったが、ワンが魔法を覚えたらとんでもないことになりそうだ。
「ワンだ。…噛むな。」
差し出した手を噛もうと口を開けたのですぐに手を下げるワン。こう考えると意思疎通ができるワンはまともであったと実感させられる。俺は腹の上に正座するリーブを見ると、リーブもこちらを見ていた。
無表情で何を考えているかわからない。多分俺のことは食べれる座布団ぐらいにしか思っていないんだろうな。
いいことを教えてやろう。地面に落としたものは食べないことを勧めるぞ。ろくなことにならないのはレイが君で実証している。
日はだいぶ上り、もうすぐ空が赤く染まりそうだ。時間も経ち、回復してきたとはいえ動けるまであと少しかかりそうだ。いっそのこと死んだ方が早いと思い、レイに頼んだのだが承諾してくれなかった。
「死んだら魔力が回復する確証は?魔力が枯渇した状態で生き返る保証は?」
「僕が死ぬ方法知りたがってなかった?」
なんだかんだ言って俺が死んでしまうのではと気にしているようだ。案外好かれていたようだが、明確な言葉にはしてくれない。俺も俺で上げ足をとる。
「死ぬのはだめ。」
レイと俺が言い合っていると、リーブが割って入ってきた。レイの口から出たならまだしも、リーブでは下心しか見えない…。いや、決めつけは良くないな。きっと俺が死なないとは知らないから心配してくれたのだろう。
俺が回復するまで、ワンとレイがリーブに話しかけるが、高確率で首をかしげるのみで何も答えてくれない。まあ脳みそ半分ないし、しょうがないな。
「リーブは人間?」
気になって俺も聞いてみると、リーブは俺を見て首を横に振る。見ればわかることではあったが、やはりこいつは人間ではないようだ。
俺の質問になら答えるのか、簡単な質問になら答えられるのか、どちらだろうか。どちらかわからないため、あくまで仮にではあるが、ここでは前者であると断定しておく。リーブは俺のことが好き。
「魔物ね。さっきの死霊術とは関係ないっぽいし…改造されたんじゃない?」
レイがリーブの頭を撫でながら質問を重ねる。リーブも気持ちよさそうに頷いた。リーブはレイのことも好き。
「魔物って?」
ワンが疲れた様子で聞いてくる。さっきからわからないことだらけでうんざりしているようだ。
「人間以外の魔力を持っている物の総称だよ。」
正確には少し違うが、どうでもいいだろう。改造されたのか…。そういえばご主人の家で会ったイカ人間も改造人間だろう。リーブと違い、原型を保っていなかったし、言葉も発せなかったが。
「千代がたまに話してたな…。」
砂浜での与太話が実話っぽくなる。いや、嘘臭い話だっただけで嘘であるとは一言も言っていなかったな。千代は…なんだったか、俺の記憶にはBL好きとしか刻まれていないんだが。
「あの男は?」
おそらくリーブの第二の親に当たる男であると考えられる、しぼんだ男に視線を送る。空気を入れたら膨らむんじゃないか?
「リーの足りない核になろうとしてた。パパ。」
「…。」
俺は動けるようになったので、リーブの入っていた棺に男を入れて埋めた。ワンも無言で手を貸してくれた。その間もリーブは無言でたまに俺の腕にかみつくが、泣いたりといった感情は一切見せなかった。
自分の父にはあまり興味がないのだろうか。それとも予想通り実の父親ではないのだろうか。
男をリーブの墓に埋め終わるころにはすっかり夕方になっていた。ここにも明日から通って水をあげてみるか。もしかしたら生えてくるかもしれない。今日はとりあえずこのぐらいにして家に帰ろう。
「ワンは何か思い出した?」
実のところ、倒れそうになったところで動きが変わったのが非常に気がかりだった。本人は覚えていないと言っていたが、記憶が戻ったことを隠している可能性もある。
「墓地から見えたビークは覚えていた。ビーク監獄に行けば何か思い出せる。」
非常にまずいな。もうそこまで来ているのか。思い出してはいないが掠っている。頭を殴ったら忘れないだろうか?寧ろその拍子に思い出しそうだな…。最悪、リーブとお揃いにしよう。
「あのおかまに会わせたら一発かもね。」
レイが半笑いで言うが、名前はさすがに伏せたようだ。思い出すリスクもあるが、仮にブライの名前を挙げて思い出さなかったらブライに興味を持って、ブライを追っていったルベルを追ってどこかに行ってくれるんじゃないか?試す価値はあるかもしれない。
「ぜひ会わせろ。」
お願いする態度ではないな。
「食べられちゃうかもよ?」
起きているブライは奥手の少女だ。食べられることはあっても食べることはないだろう。いや、襲われているところ想像できないな。
「許容範囲だ。」
???
「ビーク監獄は大規模な改装工事中。」
俺と手をつないでいたリーブが突然喋った。ビーク監獄は、ブライがめちゃくちゃにしていたと記憶している。
なるほど、改装工事を理由に修繕工事を行っているのか。まさか壁や床を魔法どころか物理的にも破壊する人間などいるとは思わないしな。
かの有名なビーク監獄が破壊されたとなれば、脱獄も自ずと明るみに出てしまうはずだ。それを危惧しての改装工事。脱獄なんてありえないから、偽装だと疑う輩なんていないだろう。隠すのなら適切な判断だ。
ビーク監獄が墓地からでも見えたかもしれないが、俺の視力では正確に見えたかどうか。今回は景色全体に気を取られてどうなっていたかよく見ていない。
ただ、いつもより騒がしいような気がしなくもなかったが…。今まで夜だったし、見たのが昼だったからかもしれない。明日以降に見てそこらへんも確かめよう。あ、バケツおいてきちゃった…。
そういえば、レイが墓参りを提案した理由を聞いていなかったな。目的は達成したのだろうか?
「レイ。」
「ビークは…。」
リーブが続けて何か言うタイミングで言葉をかぶせてしまった。俺が彼女の表情を伺うと首を横に振るのみ。何を話そうとしたのだろう。
「動かないでください。」
家が見えたところで、突然数人の男に囲まれた。ワンは即座に俺の後ろに立つ。頼もしいけど、たぶん役に立たない…。
男たちはすかさず羊皮紙を取り出して俺の前に突き出してきた。
「墓荒らしの罪で逮捕します。」
俺は何のことだと思いつつ、右手の温もりに視線を移すのだった。
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