祭り 帰郷
仲仁へび(旧:離久)
01
久しぶりに地元に帰る事になった。
そこは、特産品も美しい景色もない、大した特色のない町で、今にもさびれそうな町だ。
人口は年々減少の一途。
近いうちに消滅してしまうかもしれないような地域。
そんな町に戻ったのは、祭りがあるからだ。
子供の頃は、この何もない町で育ってきた。
けれど、祭りだけはほんのちょっと贅沢に豪勢に行うものだから、妙に記憶に残っている。
忘れられなかった。
ふとした瞬間に思い出して、こうして足を運んでしまう。
だから、毎年その時期になるとつい故郷を訪れる。
祭りの会場に向かった。
準備は着々と進んでいるようだった。
テントが設置されて、飾りつけも意外としっかりこなされつつある。
町の老人たちが、足腰をいたわりながらゆっくり作業しているのが見えた。
きっとあつ数時間後の今夜には、町一番の催しものになっているだろう。
だからそれまでは、たいして見るところもない小さな町を、ぶらぶら歩きながら、暇つぶしする事にした。
子供の頃にさびれていた商店街は、さらにさびれていた。
元から人が少なかった地域は、建物がとりこわされ、さらに過疎化が進んでいる。
そこそこ売れていたデパートはガラガラで、人の数が少ない。
町一番の人気を誇っていた公園は、今は草がぼうぼうだった。
未来が見えるような光景だ。
予言師や占い師なんて必要ない。
ここはもう終わる町だった。
息絶える時がすぐ近くなのだと感じてしまう。
きっとそんな閉塞した空気が嫌だったのだろう。
先が見えている世界に残るのが苦痛だった。
若者の流出はとまらず、結果人口は右肩下がり。
もう半世紀もしたら、町自体がなくなってしまうように思えた。
そんな町をぐるりと見渡して、会場へ戻る。
準備は終わったようだ。
出店がぽつぽつと営業し始める。
町を存続させるにはお金がかかる。
けれど、ここは人がいない町。
入るお金がないのだから、存続にお金をかけられるわけがない。
この祭りだって、お金がかかるだろうに。
なぜか今だにやり続けている。
聞くと、地元の住人が費用を負担しあって行っているそうだ。
年金とか、へそくりとかそういうのを使って。
祭りの出店を順番に見て回っていく。
小さい頃にお世話になった近所のおばちゃんは、古服を安値で売っていた。
近所にいたおじちゃんは、金魚すくいでおまけをしてくれた。
いつも遊んでいた公園。その近くに住んでいるお兄ちゃんは、足腰が弱くなったため、休み休み会場の証明やBGMのラジオを調整していた。
誰も彼も知り合いばかりだ。
やがて、お祭りの時間が終わる。
実家で一泊して、朝町を離れることにした。
昨日それなりににぎわっていた場所は、いまはもうただのさびれた場所でしかない。
ほんの一瞬。
花火の閃光のようににぎやかしくなった場所は、あと何度輝けるのだろう。
感傷にひたりつつも、その場所に留まる意味がないので背を向けて歩き出す。
きっとここは、時期に地図から消えるだろう。
それでも、消えてなくならない思い出はあった。
ひょとしたらこのお祭りは、町が消えても、人の心に残り続けようとしている結果なのかもしれない。
すべては憶測にすぎないけれど。
祭り 帰郷 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032
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