第4話 ペットからの脱却

「くぅっ! 全身くまなく、あちこちが、痛い……」


 崖下を覗き込んでいたはずが、気づくと湖と思しき場所のほとりで目が覚めた。

 そんな場所にいた所為せいだろうか、体が冷え込んでいるのを感じる。

 思わず寒さに身を震わせると、体全体が悲鳴を上げ、口からも情けない声が漏れてしまったのだ。


「確か、気配を感じ、振り返ったら――!」


 現状に陥った原因を記憶から探ると、拳聖の勇者である剛拳に殴られたことを思い出し、崖上から叩き落とされたことに気づいた。


「あの高さから落ちて生きてるのが不思議だけど、考えてもどっちみち分からないんだ。だったら、生きながらえた命を繋ぐ方法を考えよう」


 俺は生きている。

 ならば、どんな奇跡が起こったか考えるより、現状をどうにかすることの方が大事だ。


「まだどうにか動けるけど、このままだとマジでヤバそうだからな。――そうだ、しばらくステータスの確認もしてなかったし、もしかして新しいスキルが生えてる可能性も……」


 エロイーズ第一王女のペットにされた後、一応ステータス偽装を解除して真のステータスは確認してある。

 特にステータスの変化はなく、その後も何度か確認しても表示に変化がなかったため、しばらく見ていなかったのだ。


 ちなみに、ステータス偽装を解除した真のステータスは――


名前:犬飼 子猿

年齢:30歳

性別:男性

称号:超越者

職業:使役師テイマー レベル1

第二職業:神聖騎士ディバインナイト ※未開放


・転生5回特典(過去の転生で就いた職業すべてを使用可能)※未開放


加護

・言語翻訳

・簡易鑑定

・ステータス偽装


 偽装時は使役師としか表示されてなかった職業に、テイマーというルビが表示されていたり、今までの勇者召喚時にはなかった職業のレベル表示があった。

 更に、第二職業などというのが現れている。

 加護に簡易鑑定があったのも初めてだ。

 だが何より訳が分からないのが、『転生5回特典』だった。


 何だよ転生5回特典って。というのが、初めてこの表示を見た時の率直な感想だ。


 そして、第二職業と転生5回特典は未開放。

 どちらも内容の確認はできず、解放条件も明示されていない。

 しかし、(過去の転生で就いた職業すべてを使用可能)と書かれていたので、特典の内容は分かっている。


「そんな分かりきったことより――って、何だこれ?」


 眼前に現れたステータスボードの内容に、思わず驚きの声を上げてしまった。


名前:犬飼 子猿

年齢:30歳

性別:男性

称号:超越者

職業:使役師テイマー レベル2

第二職業:神聖騎士ディバインナイト


・転生5回特典

転送士

錬金術師

付与術師

暗殺者


加護

・言語翻訳

・簡易鑑定

・ステータス偽装


従属

▽エロイーズ・ノルベルト

 ※初回特典、一度だけ使える無制限従属化を使用してテイム


「……何か色々増えてるんだけど」


 体の痛みを忘れるほどほうけた俺だが、ステータス表示に意識を向ける。


 テイマーのレベルが上っており、第二職業と転生5回特典にあった、『※未開放』の文字がなくなってる。

 転生5回特典には、過去の転生で就いた職業すべてを使用可能、と書いてあったはずだが、その文面もなくなっていた。

 とはいえ、その文面がなくなっていることに問題はない。

 問題なのは、羅列されている職業名だ。


「俺が過去の召喚で就いていた職業は、運搬士・鍛冶師・結界師・盗賊だったのに、何で転送士・錬金術師・付与術師・暗殺者って表示されてるんだ?」


 よく分からない状況に頭が混乱するも、一つの可能性に気づいた。

 過去の召喚で俺の能力は、最終的に同業者の能力をかなり上回っていたのだ。

 しかしそれは、俺が勇者ではないながらも異世界人だからだと思っていたのだが、もしかすると知らぬ間に転職ジョブチェンジ的な何かがあったのかもしれない。


 仮にそうだとしても、運搬士から転送士への転職はちょっと意味が分からない。

 鍛冶師から錬金術師は、ポーションを作れるようになってたことがむしろ不思議だったので、転職していたという方がしっくり来る。

 結界師から付与術師も、単に個別結界を張るだけではなく、付与した相手の強化とかできていたので、これも理解できなくはない。

 盗賊から暗殺者も、気配察知や隠蔽、隠密術的な流れは同系統だから分からなくはない……のだが、暗殺というか戦闘自体を俺がやっていなかったため、あまり確信が持てない。


「それでいうと、無限収納から物を取り出すのって、ある意味転送だった……ってことか?」


 少し強引な考えだが、運搬士が転送士になった可能性はなくもないだろう。


「まあ考えても無駄だし、そういうものだと割り切ろう。そんなことより、そろそろどうにかしないと体がヤバいな」


 のんきにステータスを眺めている場合ではないと、体が救難信号を送ってきた。

 そこで、先ほどのステータスを思い出す。


 今の俺は、錬金術師の職業も反映されている。

 鍛冶師だった頃にポーションが作れたのだ、ステータスに錬金術師と明示されている今の俺に、ポーションが作れない道理はない。

 そう思った俺は、首を回して周囲を確認する。


 まず水だが、湖の水に意識を集中すると、魔力を多く宿す錬成に適した水だと分かった。

 これは簡易鑑定が働いているのか、それとも錬金術師のスキルの何かが働いているのだろう。

 原理は分からなくとも使える水だと分かったのだ、今はそれで十分。


 次は周囲に目を凝らし、付近に草が生えているのを発見。

 俺は痛む体を引きずりながら、草むらに近づく。

 運良く回復に使える薬草があったので採取。

 ある程度採取して、再び湖のほとりへ戻った。


 そして今は錬成釜などないので、石のくぼみを使う。

 程よい石を手に取り、薬草をゴリゴリすり潰してそこへ湖の水を加える。

 なんとなくあやふやな感じだが、俺の中の何かがそれで間違いないと言っているので信じた。

 その後しばらくゴリゴリしていると、手元の液体が淡く光る。


「……完成、か?」


 そろそろ体力の限界に達していた俺は、出来上がったであろうポーションを、それこそ犬のような格好ですすった。

 あまり出来の良い物ではなかったようで、全快には程遠い。

 それでも多少動ける程度には回復した実感が得られたので、改めて草を採取して何度かポーションを作っては啜った。


「取り敢えず危機は脱したな」


 良い具合に体調が戻った俺は、枯れ枝などを拾って焚き火で体を温めている。


 ちなみに、鍛冶師には四大魔法(基礎)という戦闘には向かないが、ちょっとした魔法が使えることを知っていたので、派生職業であろう錬金術師でも使えると思い、試しに使ってみたら問題なく使えた。


 ひと段落したところで、俺は改めてステータス確認してみる。


「やっぱりある。何だよ従属って……」

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