勇者召喚に巻き込まれて即追放された俺、自分の支援能力が最強だと知らないので、テイムした自称姫騎士のポンコツ王女と地味なスローライフを目指す

雨露霜雪

第1章 主人がペットでペットが主人?

第1話 召喚されたら即ペット

「わたくしの前でほうけるなんて、ペットのくせにいい度胸してますわね」

「――っ!」


 目に痛いくらい派手派手しい豪著な室内で、そんな声と共に刃を潰した模擬剣が振るわれた。

 その一撃を左の肩口に喰らった俺は、赤い絨毯の上で無様にのたうち回る。


 手加減しろよバカ女、なんてことを思っても口には出せない。

 なにせ俺の眼前に立ち、慈悲もない一撃を放った見目麗しい金髪碧眼の美女は、この国の第一王女であり、俺のご主人様なのだから。


「姫騎士であるわたくしのペットだというのに、毎度毎度勇者にブチのめされて、本当にみっともないですわ。恥を知りなさい!」


 王女様は、模擬剣から革紐をしっかり編み上げた一本鞭に持ち替えている。

 衣装こそボンテージではないものの、鞭を振るうその様は、まるでなんちゃらクラブの女王様のようだ。


「弱い弱い弱い、弱すぎですわ、この犬っころ!」


 俺の体に何度も打ち付けられる鞭。

 たかが鞭とあなどるなかれ。一本鞭は打撃面が細く集中し、痛みが激しい。

 大の成人男性があまりの痛さに泣いて許しを乞うたり、失禁したり気絶したりするほどの威力があるのだ。


 そんな凶悪な物を振るう王女は、ヒステリックに叫んでいるわけではない。

 彼女は口角を上げ、愉悦感たっぷりに俺を叩き続けるのだ。

 その様は、はっきり言って気持ち悪い。

 いくら元の顔が美人であっても、こんな女に関わり合いたくない……のだが、俺はこの女のペット、関わらざるを得ないのだ。


 どうしてこうなったのか?

 答えは簡単。


 俺が勇者召喚に巻き込まれただけの、”勇者ではない者”だったからだ。


 少しだけ詳しく言おう。

 俺は日本で、弱っている野良猫の面倒をこっそりみている際に、小柄で弱々しいまさるという少年と知り合った。

 その優がある日、チンピラみたいな学生三人組に絡まれているを見かけ、優を助け出そうとチンピラのリーダーみたいなヤツをぶん殴ったら、逆上したチンピラリーダーの取り出したバタフライナイフで俺は刺された……と思ったら、俺たちはこの世界に召喚されていた、というわけだ。


 とはいえ、俺が勇者召喚に巻き込まれたのは、何気に今回が初めてではない。

 既に四度の巻き込まれ召喚を経験していて、実は今回が五度目だった。

 だから召喚された直後、また召喚に巻き込まれたのだと気づいた俺は、即座に自分のステータスを確認していた。


名前:犬飼いぬかい 子猿しえん

年齢:30歳

性別:男性

称号:超越者

職業:使役師


加護

・言語翻訳

・ステータス偽装(発動中)※本人以外閲覧不可


 こんな画面で表示された俺のステータス。

 過去の経験上、勇者召喚された異世界人は、勇者の称号を持っていることが当たり前で、俺のように勇者の称号を持たない者はイレギュラーな存在だ。


 それでも一度も勇者として召喚されたことのない俺には、勇者の称号がないのは当たり前の状況で、今回も何だかんだ今までどおりだろう、そう思っていた。

 しかし――


犬飼子猿いぬかいしえん様。年齢は30歳。性別は男性。称号は勇者……ではなく、超越者? ――それから、職業は使役師しえきしでございます。加護は他の勇者様方と同じで、言語翻訳をお持ちのようです」


 式典用だろうか、少しばかり豪華な神官服を着た少女が、水晶を見ながら俺のステータスを読み上げたことで、状況が一変した。


「勇者の称号もなく、職業が道化師どうけしのような者が勇者パーティに必要とは思えん。……いや、そのような者、はっきり言って不要だ」


 ステータスに表示される職業は、人の能力を判断する一番重要な要素だ。

 とはいえ、国王が使役師を道化師ピエロ呼ばわりしたことは許し難い。

 腹立たしさを覚えた俺は、それでも冷静に口を開く。


「恐れながら陛下――」

「おう猿回しのオッサン、アンタはこの国じゃ役立たずなんだって、っよ」


 俺が国王に前言を撤回してもらい、まずは使役師の能力を確認してほしい、そう言おうと声を出すや否や、チンピラリーダーが俺の言葉を遮り、あまつさ胸ぐらを掴んでいきなり殴ってきたのだ。

 誰が猿回しだ、と文句を言う間もなく。


 その後、俺を散々殴ったチンピラリーダーは満足したのか、ようやく俺から離れ、その離れ際に俺の脇腹を蹴り上げた。

 腹を抱えてうずくまった俺は、腫れ上がっているせいで目も開けられず、なんとか意識を保つのが精一杯。


「そこの道化師は、勇者パーティには不要。よって追放を命じる」


 どうにか機能していた俺の耳に入ったのは、慈悲もなくあまりにも無情な国王の宣言だった。


「ならば陛下、そこ道化師はわたくしが貰い受けてもよろしいかしら?」


 国王に対し、軽い感じの言葉遣いで喋る女性の声。


「む、何故出てきた……いや、それより、そのような道化師をどうするつもりだ?」

「うふふ。道化師らしく、わたくしを楽しませる役目をさせるつもりでしてよ」

「……まあよい、好きにするがいい」


 俺の処遇を、俺抜きで勝手に進めている。

 だからといって、意識を保っているのがやっとな俺は何もできない。


「レニャ、そこに転がっているわたくしのペット・・・を、少しばかり回復しておいてね」

「わ、分かりましたお姉さま」


 この世界で最初に会話を交わした相手こそが、レニャという人物である。

 聖女の称号を持つこの国の第二王女で、勇者召喚を行なった張本人だ。

 体型の分かりづらい神官服でありながら、分かりやすくバルンと胸を揺らす小柄な美少女で、ステータスを読み上げた少女でもあった。


 そしてよく分からない状況の中で、俺はレニャのお姉さまという人物のペットになったらしい。


 俺は使役師という何かを従えさせるような職業に就きながら、逆にペットにされるという間抜けな事態に陥っていた。

 そんな理不尽な状況が、一周回って笑い話のように思えてくる。


 ままならない出来事に些か投げやりな思考になった俺は、体の痛みが引いていくのを感じながら意識を手放してしまった。

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