太陽と月のバラード(旧題 宿命のバディ)
鏑木ナチ 様作
───抑圧と解放。安穏と暮らす自分自身に警鐘を鳴らす、名作
【物語の舞台は】
同性愛禁止法というものが制定された舞台。この世界観での禁じられた恋を描いたものであることは間違いない。注目すべき点は、何故その法が作られたのか?例えば、同性愛は禁止されても、異性は好きにはならない。なので、恋愛が禁止されたというだけで、子供が増えることには繋がらない。この物語での政治家の考え方、何故制定されたのかが、一番わたしの興味を引いた。そして納得の答えがそこに。彼らは犠牲になったのだ。
【ある意味凄い作品】
現代の世の中が差別をなくそう言う考え方であるのに対し、物語では真逆の考え方の政治家たち。波乱の予感がした。テーマがかなり深い。政治家の在り方、マスメディアの在り方について、普段は考えもしないことに考えが及ぶ。もし、政治家が人権を無視し、このような暴挙に出たらどうなるのか?某国の現状を思い浮かべ、日本も安穏としていられないのではないか?という危機感を抱かせる。この物語は、たしかにジャンルはBLではあるものの、今ある幸せや危機感などを、気づかせてくれる作品であることは間違いない。
【一方的ではない国の現状】
一方的に国民が押さえつけられ、こそこそしているのかと思えば、そうでは無い。ちゃんと、その暴挙に対する国民の意志もデモという形で表現されている。主人公たちは、取り締まる側であるため、そういう部分には触れられないのではないか、と思っていたがその懸念は間もなく払拭される。作者の凄いところは、読者が疑問に思うと想定されている部分、こういうところはどうなんだ、と知りたくなるであろう部分にちゃんと答えを与え、疑問を一つ一つ解決し、納得させている部分だ。その為”同性愛者禁止法だと?”と、物語の登場人物さながら眉を寄せていても、ちゃんと自分と同じ反感側の人間がいることの安心感を与える。それでも、国家権力の前に無力な事には変わりないだろうが、大どんでん返しがあるのでは、という期待が高まる。
【抑圧されることによる、その後の爽快感】
この物語は、どん底から這い上がる(同性愛が許されない世界からの解放)ことでの、爽快感というものが構成として組まれていると思われる。
人の感情を揺さぶるのがとても美味い作品だと言える。国民の心の動きと、主人公と恋の相手。この二つが連動しているようにも思える。
そして、諦めないことで、自由は得られるのだという希望も感じ、読み終えたあとの余韻はとても素晴らしいものである。
【建前と本音】
こんな法律があって、もし好きな相手が同性だったなら?
恐らく相手を守るためにも隠し通そうとするであろう。この物語は、大きな視点と個人の視点といういろんな方面から見ることの出来る作品である。
主人公には法を守らせる立場もあるとは思うが、自分自身の気持ちに対し葛藤した末の、言動というのも感じることが出来る。
そこにリアリティを持たせているのが凄い。
リアクションをつけるのも忘れ、どうなんだ?どうなるんだ?と真剣に読んでしまった作品です。
あなたも、ハラハラドキドキしてみませんか?
今の自分を振り返ったり、日本に産まれて来たことを幸せに感じたり出来る作品です。
まだ拝読途中ではありますが、既にこれだけの魅力を書くことの出来る名作であることは保証します。
ぜひ、お手に取られてみてくださいね。おすすめです。
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