ただいまドッキリ進行中です・・・!

ちびまるフォイ

仕掛け人のみなさん

「いいですか? 3丁目の山田さんにだけは秘密にしてくださいね」


「はぁ。それはどうして?」


「実はコレ、ドッキリなんです。村の人みんなにお願いしているんです。

 あなたもご協力お願いします」


「わかりました」


言われるがままに村での生活がはじまった。

それはごく普通の生活。ただ1点の共通の嘘をつき続ける以外は。


「おはようございます」


「あ、山田さん。おはようございます」


山田さんは夫婦で暮らしている。

とくに面白みもタレント性もない普通の人だ。


この人を騙し続けることで何が面白いのかわからないが

それは自分がテレビ番組に疎いからかもしれない。


うっかり自分が口を滑らせて総スカンされるのも嫌だ。


触らぬ神にたたりなしとばかりに山田さんとは距離を取って

少なくとも自分から口を滑らせるチャンスを極限まで減らしていた。


それから半年が過ぎた。


「ドッキリ、いつ終わるんだろう」


いまだにドッキリ終了報告はない。

山田さんもまだ騙されたまま生活を続けている。

なんなら、騙されている生活のほうが普通になり始めている。


最近じゃ手の混んだドッキリが多いし半年スパンでも不思議ではないのかもしれない。

自分ではそう思っていても、罪悪感が湧いてくる。


ドッキリという名目で山田さんをハブっているような。

そもそも山田さんに真実を明かすつもりなんてないんじゃないかとすら思う。


村のみんなが山田さんにだけ真実を伝えずに放置して、

"あいつを常に騙している"という優越感にだけ浸りたいだけなんじゃないか。


「俺はとんでもなく陰湿ないじめに加担しているのか……?」


しだいにドッキリが自分の心の負担になってきた。



それからさらに時間がすぎる。

まだドッキリのネタバラシはされていない。



「や、山田さん……おはようございます」


「ああ、おはようございます! 今日もいい天気ですね」


「そうですね……ハハ」


村で唯一騙されている山田さんは、騙されていることすらわかっていないように気楽そうにしている。

ここまで浸透しているともはやネタバラシしないほうがいい気もする。


騙されている今を楽しんでいるのに、どうして真実で日常をかき乱す必要があるんだろう。


長過ぎるドッキリ期間はみるみる自分の心を削っていく。

いつしか"早くネタバラシしてくれ"と願うようになった。


たった一人を騙し続けているという罪悪感から早く解放されたくてたまらない。

終わりの見えない精神的な拷問を受けているような気分。


耐えきれなくなり、山田さんのもとへ向かった。


「山田さん!」


「おや、どうされたんですか?」


「実はあなたに伝えたいことがあります!」


ドッキリスタッフが止めに入ろうが、あとで怒られようがもう限界だった。

これ以上誰かをずっと騙し続けながら自分だけのうのうと生活できない。



「あなたは……あなたはすでに死んでいるんです!」



ついに誰の許可もなくネタバラシしてしまった。

同時に心に貯まっていた悩みやストレスがふっと消えた。


山田さんは驚いたように目を大きくしてから答えた。





「ええ、どうやらあなたも同じ仕掛け人のようだ。

 あなたもこの村で唯一、生きた人間である田中さんを騙しているんですね!」

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