魔法工学都市

kana

1

 初めて中央都市にやってきた。全ての学・金・力が集まる近代国家エリルーテの首都。入ることができるのは一定以上の「ルール」を持つ人がほとんどで、一般の人は一部の特権階級を除いて入ることはできない。 俺、ワートはその門を幼馴染のリーテと共に叩いた。


 俺たちは中央都市からは遠く離れたロセの街に暮らしていた。俺とリーテは1つ屋根の下に暮らしていた。年は同じで誕生日は一日違いらしい。普通はそんなことありえないのだが父と母がそれぞれ連れ合ってきたらしい。よくわからないけど。


 俺達二人は「ルール」を持っていた。「ルール」とは超常をもたらす力らしい。しかしその力については中央都市が情報統制を敷いていて都市外には名前以外の全くの情報がない。そして「ルール」を持っている子供は十五歳になると中央都市に集められ、高等教育を受けることが決まっている。




―――そして現在。


門の前には列ができていて同じくらいの年の人が群がっている。最後尾に加わり順番を待っていた。


「リーテ。ここはロセの街からはずいぶん遠かったね。トレインを使ったのに三日もかかったよ。」


そんな風に語り掛けるがリーテは反応をくれない。視線をリーテの方に向けると大きな城壁を見入っていた。真っ白で鏡面のように繋ぎ目も見つからないような壁が垂直に五十メートルほど立ち尽くしている。


「リーテ?」


再び呼びかけるとはっとしてこっちを向く。


「ワート。これはとっても立派な城壁だね。こんな大きなものが世の中にはあるんだね。トレインも凄い速度で走ってて窓の外の景色なんか見れなかったよね。ロセの村とは何もかもが違う」


「そうだな。でもここで俺たちも勉強するんだ。凄くわくわくするだろ?」


「そうだね。ほんとにそう」


とリーテは笑みをこぼした。




列はだんだんと進んでいきやっと俺たちの番が来た。特徴的なイヤリングをしている係員の人に事前に渡されていたカードを渡す。真っ白なカード。


係員の人はそれを何かの機械に差し込んで操作をしている。しばらくすると機械からエメラルドグリーンの六芒星が刻印されたカードが出てきた。そして良い旅をと言われながらカードを渡された。


 先に城壁の中に入り、次に手続きをしているリーテを待つ。しかしなかなか現れない。城壁の外に顔を出すと係員と何やら揉め事になっている。


「だから私たちは忌子じゃありません!」


とリーテが珍しく大きな声を出している。


「そんなこと言われてもね。ルールの波形がここまで似てることってそうそうないんだ。」


「出生届を見れば分かるはずです。私たちは別々の親から生まれています!」


そうしてなにやら困っている係員は俺を見つけるとリーテと一緒に城壁内の部屋に連れていかれた。


「じゃあここで検査してもらうからちょっと待っててね」


と言うと係員の人はどこかへ行ってしまった。そしてすぐに看護師らしき人が入ってきた。手には何か石をもっている。そして俺たちの前に置くと手を触れるように指示された。恐る恐る二人で手をかざす。


手をかざした途端から少しの気持ち悪さに襲われる。手を切って血が流れ落ちるような感覚。リーテの方を向くとやはり少し気持ち悪そうだ。


 すると唐突にもういいですよと言われ石を持っていかれる。


「あのすみません。聞いてもいいですか?」


「はい?いいですけど」


と不思議そうに看護師は答える。


「あの手を触れた途端気持ち悪さに襲われたんですけど何なんですか、これ?」


「ああ、気持ち悪さですか。それはルールが体から石に流れたからです。これ以上は何もお答えできません。学院で学んでください。」


そう言うと看護師は部屋から出て行ってしまった。




数分して看護師は戻ってきた。


「すいません。門番が『忌子』などと言ってしまって。こちらの手違いでした。どうぞお許しください。」


そう言うと看護師は今まで締め切ることのなかった扉を最後まで閉じ、俺たちの前で囁く。


「今のはパフォーマンスです。あなたたちは実際に『忌子』でした。しかし私の師団はそれを拒絶しません。どうかこれからも困難に苛まれるでしょうがお二人で頑張ってください。あなたたちが閉鎖都市に唯一、いや唯二存在する『双子』なのなのですから。」


そういって看護師さんは城壁から出してくれた。しかし『双子』とは聞いたのない単語だ。辞書にもそんな言葉載っていない。




 城壁からしばらく歩くと駅があった。外にあるトレインは全く違う形をしている車体。次々と並んでいる子供たちを乗せて飛んでいく。


「空を飛んでるの?あの…なんだろう。乗り物?」


とリーテが驚きを小さく呟く。


するといつからか隣にいた同年代の男の人がリーテの方を向いて、あれはリアというんだよ。と教えてくれた。


へぇ、と二人して驚嘆する。


「どうも初めまして、お二人さん。僕はシルフと言うんだ。今年から学院に通うんだけどもしか知って一緒?」


急に話しかけられてびっくりしたが返さないのも不自然だろうと思い名乗る。


「どうも初めまして。ワートです。でこれが幼馴染の…」


と言うと、隣でリートです。と答える。


「学院…。そうだね通うよ」


「そうか、なら一緒に行こうよ。学院の寮は同じ場所にあるんだ。それに君達と僕には『縁』があるようだ」


「へぇ、縁?」


「そうそうなにかは良く分からないけどね。強い縁が確かにあるね。」


とにっこりと目を細めて笑われた。


 そのままシルフと一緒に非現実感を覚えながらリアに乗り込む。出入り口が閉まるとリアは少し浮遊し空を翔けた。偶然窓側にいたのでいろんなものが目に入る。二十個くらいの家が積み重なっている建物とか。空に投影される文字とか。そんな様々なものに圧巻されながら終着駅についた。


「辺り一面超高層の建物が連なり、リアのような乗り物がその間を飛び回っている」


そんな風にきょろきょろしているとシルフが目の前にある一番高い建物を指さした。


「ここが学院だよ。この建物に寮も教室も全部詰まってるんだ。」


そう言うと学院の方向にスタスタと歩いていってしまうのでリーテと一緒に後を後を追いかける。近づくといくつか小さな門があることが分かった。その内の1つの扉を開いて中に入る。といっても建物の大きさからは想像もつかない小ささだった。


「ここ狭くないか?」


とシルフに笑いかけると、シルフはまあ見てなと扉の方を指さす。


言われた通りに向くと小部屋が猛スピードで上昇していく。外は見えるが何が起きているのか分からないほどに早い。


そして数秒後急に小部屋は止まり窓だとおもっていた部分が開いた。目の前には商店街らしきものや公園が広がっていた。とても大勢の人がいてとても活気に満ち溢れている。


「これは凄いな。」


息を漏らすと隣でリーテが大きくうなづいた。


そんな俺たちをおいて少し遠くへ進んでいたシルフが、おーい。と呼ぶ。少し小走りでシルフの元へと向かう。


「シルフはこれに驚かないのか?」


と息を少しきらしながら聞く。


「そうだね凄いと思うでもさっさと寮に行かないと人が多すぎて入れないようになっちゃうから。」


とまた歩きはじめる。


「シルフは都市に詳しいんだね。もしかして前にきたことがるの?」


とリーテが聞くと少し濁らせるように


「うーん。違うかな」


と答えた。


「じゃあ何で詳しいんだ?」


と聞こうと声に出した途端少し小走りで嬉しそうに走って行った。


「着いたよ。ここが寮だ。」


と地面から生えているポールを擦っている。


「これが寮…?」


「そうだよ寮の入り口。」


と言うとおもむろにカード手にする。


「君たちもカードを出して」


と言うので門でデザインが付いたカードを出す。


「それをこのポールにかざしてみて」


と言うので三人一緒にカードをかざす。




一瞬視界が歪んだと思ったら高級そうな絨毯のひいてある廊下にいた。


「君たちの部屋は何番?」


と聞かれたがそんなの聞いていない。


「あー、そっか。知らないのか…。」


そう言うとシルフは少し真面目そうな顔でカード前に出して


「ウィンドウ」


と唱える。そうしたら真似してやってみてと言うので同じ様にカードを持った手を前にして、


「ウィンドウ」


と呟く。


するとカードの上に青いシートのようなものが見える。するとシルフが更に何か呟く。


「スクリプト:ビューマイハウス」


真似して呟くと青いシートに部屋番らしきものとそこまでの道順が表示されている。


「部屋番何番?」


とシルフに聞かれて確認する。


「「406番」」


と答えるとリーテとはもってしまった。


「すると嬉しそうに僕は407番だよ」


と教えてくれた。


「これが僕たちの『縁』なのかな?」


とまた良く分からないことを言っている。


「とりあえず部屋を覗いて見なよ」


と言うので部屋まで歩いていく。シルフとはお向かいの様だ。


「じゃあ三十分後にまた」


といって部屋に入ってしまった。


鍵らしきものは見当たらないのでそのままドアノブに触れる。するとカチッっと音がしてドアが開いた。


 扉を開けると廊下から順番に照明がついていく。部屋は全体的にとてもシックで近代的な雰囲気を纏っている。とても大きなディスプレイが目立つリビングとその隣、キッチンとカウンター越しに繋がる位置にダイニングがある。それ以外の部屋はキングベッドが置かれたオーナールームと広いお風呂場があった。


オーナールームに立ち入りベッドの数を改めて数える。どうやら普通のベッドを二つ並べたわけではなくもとからキングベッドらしい。


そしてベッドに腰かけてリーテに話しかける。


「なぁ、このベッド一つしかないぞ。寝る時どうするんだ?流石に一緒に寝るのはあれだしな」


確かに同じベッドで寝ていたことはあるがそれはまだ年齢が一桁の半分も行かない頃の話でここ最近はもちろんそんなことはない。


「今日の所はしょうがないんじゃない?」


「そうはいってもな…。」


「ワートは私に手を出すの?」


と言いながら隣に座ってきた。僕がベッドについていた手に自分の手を重ねて。


「出すわけないだろ?」


「うん。知ってた。」


「ならからかうな」


と言うとごめんなさいと笑って返された。


「それにしても今日は全然話してないような感じがするけど、気のせい?」


とリーテの方を向いて聞くと首を振って握っていた手を覗き、握りなおしてからゆっくりと話した。


「門で知らない男の人に急に『忌』がどうのこうのとか言われて怖かった。それで連れてかれた城壁であった看護師さんも意味の分からないことを言ってて、怖かった」


そうやらリーテの都市への第一印象は最悪だったようだ。そりゃ無理も無いだろうと思う。あの門番はやけに気を張っていたし過剰なほどの威圧的な言動が見られた。


僕は重ねられている手を表向きにしてしっかりと握る。


「まあ、何かあったらその時僕は絶対にリーテの味方だから、それだけは忘れないでくれよ。」


すると結んでいた手をほどいて立ち上がりクルっと回転して笑顔で、うん知ってると元気よく言ってくれた。


 


 リーテを追いかけてリビングへ行くと何やらディスプレイをいじっていた。


「どうしたんだ?」


と聞きながら近づいていく。


「これ電源みたいなボタンがあるんですけど押しても何も反応しないんですよね。なんなんでしょうか」


もしかして、と思って『ウィンドウ』と青いシートを出す。


「スクリプト:ターンオン」


と唱えてみる。するとすぐにディスプレイに明かりが灯った。


それに驚いていると隣でリーテは不思議そうにしている。もしかしてウィンドウの効果なのだろうかと思いウィンドウを開くことを勧める。


すると今度はディスプレイではなくシートの上に小人?が乗っていた。しかし寝ている。それはとてもとても気持ちよさそうに。


「スクリプト:wake up child?」


するとおもむろに寝ていた小人は立ち上がってこっちに向かって指を突き付けてきた。


「チルドレンじゃない。妖精だ。」


「妖精?」


「そうだ。私は人工妖精個体名1562240Nだ!」


「なんて?


「1562240Nだ!」


「え?」


「もういい。なんか私に個体名を授けるの。そしたらあんたが私のマスターになるから」


「じゃあメープル?」


すると何故か衣装がオレンジ色に染まり深くお辞儀をされた。


「私、個体名1562240Nは契約名メープルとしてルート様に主従の契約を交わします。」


そういってメープルは手のひらに触れ幾分かのルールを吸い取った。


そしてふぅと一息をつくとまたさっきと同じように深くお辞儀をして話しかけてきた。


「ご主人様。なんなりとご命令を」





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魔法工学都市 kana @umihimekaho

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