中編


「どうも。俺は開摺凌といいます。こっちが垂那純です」

 俺が振ると、純はコクリと頷く。

「えっと、あなたは……」

「言うわけないでしょ! 男なんかに‼︎ わたしの名前を知って! 調べて! 脅して! それで一体わたしにナニをさせる気よ!」

 おっと……凄く警戒心抱かれている。とりあえず初めて出会った者同士、挨拶をしたいだけなんだが。

 ローツインテールの彼女は自分たちと違って、胸を強調させた私服だった──巨乳を見ていたわけではない。彼女の方からアピールされてたから。

 大声を上げる彼女の頬は紅潮し、息も切れている。そんなに興奮しないでいただきたい。


「私が代わりに聞くよ」

 そう言うと純は自身の荷物を置いて、彼女に近付く。

 そして俺には聞こえないくらい小言で説得すると、彼女から名前を耳打ちで聞くことに成功する。


隠羅いんらモモさんだって」

「名前言うの⁉︎ わたしのこと騙したの⁉︎」

「騙される方が悪い」

「ナニをぉ‼︎」

 隠羅は涙目になりながら怒った。

 その様子に怯えた純は俺の後ろに隠れてしまう。

「とりあえず、隠羅さんもここに閉じ込められていたわけってことか」

「……ぐっ、そうよ。このベッドで目覚めたの。どうしてここにいるのか分からなくて……」

 そう、第二の部屋は前の部屋とは打って変わり、ちゃんと部屋として存在している。

 広さはさっきと変わりはないが、壁際真ん中には大きなダブルベッド。アンティーク調の棚に豪華なシャンデリア。

 全体的にゴシック調にしてある──というか、そういうモチーフのラブホ部屋みたいだ。照明は淡いピンク色。

 そして、角から入ってきた俺たちのそのまま向かいにある角。ここにあるもう一つの扉の上にはあの指示が。


『3Pをしろ』


「「…………」」

 正直なところ、俺と純は察していた。

 きっと、ゲームかなにかで3人プレイをしろ、ということだろう。

「3Pってナニよ……。もしかしてこの知らない男と知らない女と一緒に、その……え、えっちなことしろってこと⁉︎」

「いや、そういうわけじゃないっすよ。ゲームの方の意味です」

「なっ⁉︎ 企画モノなの⁉︎ あ、これそういうことなの⁉︎ でもわたしそんなの了承してない! こういうのってどうせ打ち合わせ通りやってるやつでしょ! わたし知らないから! 訴えてやるっ!」

「いや、あのそうじゃなくて、ゲームで一緒に三人プレイをってことで」

「プレイじゃない! ちゃんとプレイしてるじゃない!」

「遊ぶという意味の」

「わたしのことを弄ぶの⁉︎ そんな、せめて大切にしてよ!」

「あ、全然話聞かねぇな」

 勘違い甚だしい。理解力が、いやもう脳内がエロいことでいっぱいじゃねぇか。淫乱ピンクだな。


「なにジッと見てるの⁉︎ 視姦⁉︎」

「うるさ──」

「うるさいってナニ⁉︎ あなたたち制服ってことはまだ学生よね。てことは、わたしの方が年上よ。今年で26才なんだから」

 えぇ、あんなに騒いで話聞かなくていい歳した社会人だったのかよ。

「あ、もしかして制服着られた男優の方でしたかっ……⁉︎」

 違うわ。誰がどっからどう見てもただのオッサンのコスプレに見えるんだ。どこから見ても青春を謳歌する男子高校生だろ。


「凌、見てこれ」

 と、俺と淫乱ピンクちゃん(26)が話してた間に部屋を物色していた純はトランプを見つけて持ってきた。

「ゲームって言ったらこれぐらいしかなかった」

「ありがとう、純。じゃあそうだな。ババ抜きでも始めようか」

「わたしで抜くの……⁉︎ そ、それに、わたしはまだババァじゃない!」

 もう無視しよう。


 ババ抜きとは誰もがやったことあるであろうゲーム。プレイ時間は短いので、さっさとこの部屋から出られそうだ。

「じゃあ、サッサと終わらせましょう」

「なっ……⁉︎ もっと、じっくりゆっくり優しくしてよ……!」

 ──まぁ、このように淫乱ピンクちゃん(社会人四年目)のせいで、ことあるごとにプレイが止まる。


「わ、わたしにハートを渡してくるなんて、そ、そそそんなことで、わわ、わたしが落ちるとでも思ってたわけっ……!」

 ゲーム中にカードの種類言っちゃダメでしょ。


「ペアが揃った」

「うっ……! 他のみんなは恋人とか結婚してるのに、わたしはいつまで経っても独り身……どうして誰もわたしを愛してくれないの⁉︎」

 垂那がペア一つ揃えただけなのに、凄い悲観するなこの淫乱ピンクちゃん(処女)は。


「わたしと、ふ、二人きりね……! ま、負けないから……!」

 そんな喘いだところで、ただババ抜きしてるだけだぞ。

「ぁ……! ちょっと、そっちは、らめぇ……! それは抜かないでぇ……!」

 ──えっろ。もうちょっと遊んでやりたいが……純も待っているし、もうこの実験に付き合ってやるのもそろそろいいだろう。

「はぅ……‼︎」

 俺が容赦なくクラブのジャックを抜くと、扉の鍵の開く音がした。それと同時に手にジョーカーを残した敗北者(淫乱ピンクちゃん)はお尻を上に突き出し倒れ込む。


「大丈夫ですか?」

 優しい純が心配そうに声をかける。

「も、もう一戦よ! わたしがこのまま男なんかにヤラれてばかりじゃいられない! 夜通しでもなんでも、あんたに吠え面かかせるまでそれを抜き続けてやる!」

 それ、とはカードのことだ。


「いや、扉開いたのでここから帰りましょうよ」

「やだやだ‼︎ もう一回! あと一回だけでいいから、やらせてください‼︎」

 帰りたくて立ち上がった俺に、膝立ちの淫乱ピンクちゃんは俺のズボンにしがみつきこっちを見上げる。

 ドチャクソエロい──だが、純が俺の手を握り、早く離れて、と言わんばかりの表情で見つめる。

 そうだな、こんな部屋とはおさらばしなければ。それに淫乱ピンクちゃん(しつこい)も置いていこう。

 扉を開けると、背後で淫乱ピンクちゃん(おバカ)が驚く。

「え⁉︎ 鍵が開いてる⁉︎」

 やっぱりこいつ話聞いてないな。さっき言っただろ。


 だが、またしても部屋は続いていた。外ではなかった。

 しかも目覚めた時と同じ、白い部屋だった。

「そんな……」

 隣で純は絶望していた。まだ終わらないのか。

 ──だが、俺はこの部屋で最後なのは確信していた。その理由は部屋にいた三人目の女性。彼女が身内だからだ。

「ねぇね……」

「はーい凌くんのお姉さんです。待ってたわ」

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