邂逅

「おお、新人類とやらは地球を奪うに飽き足らず宇宙まで追ってくるのか。とんでもない進歩だ、うらやましいほどにな。」

宇宙にやってきたイカはいつかの映画の火星人のようではないかと吹き出しそうになるが、リカの真剣な表情にそれを慎む。

「あとどれくらい歩けばいい?」

「あと半分です。」

これから来るであろう苦痛に顔がゆがむ。

「なあ、新人類とやらに捕まるとどうなるんだ。」

「詳しいことは知りません。地球に戻った人はいても、新人類の地球から帰ってきた人はいないので。一説には実験目的で人体を持ち去っていると聞いています。さあ行きますよ、掴まってください。」

一思いに、なら好都合だったんだが実験体はごめんだ。ここで目を覚ました弊は頑丈らしいから特に。そう思い弊はリカの肩を借りて立ち上がる。孫のような年の子にまた助けられることになるのだが、今はなりふり構っていられない。だが先ほどよりは足も動きやすくなったので少し早く歩くことができるだろう。歩かずに立つだけなら造作もない、と思う。

残りの道をリカに捕まりながら進む。角で曲がる前に進行方向に三発、その反対方向に三発発砲する。その間に新人類についての説明を受ける。リカによると、新人類は擬態を得意としており目視のみでは識別しづらいそうだ。そのため先のように発砲することによって傷をつけ、緑色の血で判断するのだそうだ。また、新人類は視覚による情報に頼り切っているので、音にもそれほど反応せず匂いに至っては感応器官がないそうだ。それから新人類は殺すためには眉間に一発打ち込む以外に方法はなく、ほかの個所に当たったとしてもそのうち再生すると聞く。つくづくイカの体というものはうらやましい限りだ。

「さあ、次が最後の曲がり角ですよ。ここを抜ければ私の乗ってきた移動船までたどり着けます。」

「長かったな。そういえば、他に誰か一緒に来たんじゃないのか。」

「彼女たちは先に離脱しています。ですので、私たちが最後ですね。」

「そうか、ほかの連中は目が覚めなかったか。」

名前も顔も覚えていない同席者たちに少しだけ思いをはせる。彼らは何を思ってここに乗り込んで冷凍されたのだろうか。

最後の曲がり角に着き思考を戻す。リカが三発発砲する。進行方向を確認すると緑色の液体が浮かんでいた。

「あと少しなのに!」

リカは続けて発砲する。新人類が擬態を解く。

「シオンさん、しばらく一人で歩けますか。この新人類への対処を優先しますので。」

「ああ、努力する。杖になりそうなものがあれば貸してほしい。」

孫の頼みとあらば聞かざるを得ないだろう。と言ってもかつてほどに歩けないから、借りたバールを杖にして慎重に進む。リカは弊を援護しながら進む。今までに想像してきた宇宙人のような存在に踊る心と恐怖心とで頭がおかしくなりそうだ。ちぎれた新人類の一部が足元に落ちてくるが、さすがはイカである。ひるむ様子はなく、この程度の損害は当たり前とすら思っているようだった。弊の前方でリカの銃の弾切れの音が聞こえた。

「シオンさん!」

そして矢張賢いイカだ。リカの再装填の隙に弊は足を掴まれてしまった。慌てて銃口を新人類に向けるリカを慌てて止める。

「撃たないでくれ、弊も死んでしまう。」

リカの動きが止まる。新人類も弊を頭上に掲げこそしているが、研究対象をここで始末するようなことはしないだろう。ひとまず命の危険は脱した。そして弊はよく知っている。触手と宇宙とバール、このお約束とやらをどこかで読んでいる。

「なあ君、いやリカ。ペンネームというものは知っているかね?」

「い、いえ、どうしたんですか急に。」

「弊は一つ嘘をついていたという話だ。件の作家だが、シオン・サヴザムとは弊のペンネームだ。つまりだね、弊は君の祖父に当たるわけだな。今までは格好がつかなかったからだましていたが、これから格好のいいことをしたくなったので明かした。よく見ておけよ。」

弊はバールを振りかぶった。

「くたばれイカ野郎!」

そして眉間に一撃を食らわせる。新人類は一気に白くなって動かなくなった。そして弊は床に叩きつけられることとなった。しばらく動けそうにもない。

「シオ…おじいちゃん。無茶しないでくださいよ。」

「孫娘に支えられてばかりでは尊厳にかかわるのでね。と格好のいいことは言ったが、すまない、君の船まで引きずって行ってくれ。すぐそこなんだろう?」

こうして弊たちは休眠船を後にした。

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