人の体を透視するプチトマトと聞きました
弁当を開くと、その一角でプチトマトがふちに寄りかかっており、頂上近くに黒い点がある。
実はこれ、ただの食べ物じゃない。黒い点はカメラ機能で、あらゆる人を映す。それも彼らが服を着ていない状態で。すでにスマホの専用アプリと連携させており、画面ですぐにチェック可能だ。このトマトもどきは、人の裸を透視する。
何を隠そう、クラスメートの女子たちの生まれたままの姿が、僕のスマホ画面で乱舞するのだ。お昼の究極の楽しみを待ちきれないとばかりに、僕はポケットからスマホを取り出す。早速トップ画面からアプリにアクセスをしようとする。
「エラー 正常に処理できませんでした。時間をおいて再度アクセスしてください」
まさかのポップアップが画面に現れた。おかしいと思いながら、ポップアップの下部にあるOKボタンを押してトップ画面に戻ると、再びアプリをタップする。
「エラー 正常に処理できませんでした。時間をおいて再度アクセスしてください」
ダメだ。
もしかして壊れている? 僕の設定ミス?
原因が分からず、僕はどうしていいか分からなくなった。ここで弁当に手をつけないままずっとスマホをいじっていても、周りに怪しまれてしまう。どうすれば……。
「海星くん!」
いきなり僕を呼ぶ女子の声がしたかと思うと、その手が弁当からトマトをつまみ上げた。
「あっ、それは……!」
僕は慌てて彼女を止めようとしたが、プチトマトはあっという間に彼女の口に放り込まれてしまった。
「澪ちゃん……」
机の前に立った女子の名を呼びながら、僕は絶望的な事態に唖然とした。
「うまっ! これおいしいトマトだね」
澪は無邪気にそう告げると、口の中のプチトマトを飲み込んでしまった。
「あのさ、いつも挨拶代わりに僕から弁当の食べ物をひとつかっさらうけど、それやめてくれない?」
「あっ、そうだ」
僕の忠告をスルーしながら、澪が切り出した。
「最近『人の裸を盗撮できる野菜』っていうのが出回っているんだけど、それ全部本物の食べ物で、立派な詐欺商品なんだって。スマートフォンで専用アプリもダウンロードできるんだけど、その中身も空っぽって聞いた。海星くんはまさか引っかからないと思うけど、とりあえず気をつけてね。価格も5000円って、高校生にとっちゃ安くないからね~」
澪は喜々としながら語ると、僕の前から去っていった。僕は恥ずかしさで顔を熱くしながら、ガラ空きになった弁当の一角に、プチトマトもどきの面影を見ていた。
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