大掃除のあと
「はあ、疲れた」
清潔感に満ちたワンルームの真ん中で、僕は天を仰いだ。
12月28日にして、年末の大掃除が幕を閉じたのだ。
両親は単身赴任で、今の僕は高校1年生にして一人暮らし。
今まで掃除を手伝ってもらった家族がいないおかげで、随分と苦労した。
それでも一人でここまでやってきたのは、自分自身がきれいな部屋に住むのが好きだからだ。
テレビひとつとっても、微塵のホコリさえない。まるで大手家電量販店で売られた商品のように、鮮やかな雰囲気をまとっていた。
「ゴミもひととおり出したし、これで問題ないだろう」
僕は身をまかせるようにして、ベッドに倒れ込んだ。時間はまだ夕方だったが、大掃除でスタミナが切れていた僕は、そのまま寝入ってしまった。
29日、僕はきれいな部屋の中で、高校の冬休みの宿題にいそしんだ。
面倒なことはスルーするか、さっさと済ませるかの二択。だから僕は、これが冬休みどころか、その年の最後の日でもないのに、まるでそうであるかのようなテンションで宿題を一気に始末した。
30日、宿題も一通り済んでやることがなくなった僕は、スマホゲームに夢中になった。大掃除と宿題という束縛から解放された喜びを、異世界のスマホゲームに思いっきりぶつけていた。
その活動は、31日になっても続いた。
唐突にインターホンが鳴った。
僕はスマートフォンを自室のテーブルに置いて、インターホンに応対する。
「どうしました?」
「管理人ですけど、ちょっとこっちまで来てくれないか?」
僕は何事かと思いながら、玄関の扉を開く。
「実はゴミのことで、問題があってね。燃えるゴミとか燃えないゴミとかペットボトルとか、ごちゃまぜにして出しているだろ?」
「はい」
完全に心当たりがある。僕は面倒なことをさっさと済ませたいうえに、一度捨てたゴミは極力いじりたくなくて、ゴミの分別をしないまま、袋にまとめて捨てることを繰り返していた。
「2週間ぐらい前に清掃員が何度言っても直さないから、ウチのマンションのゴミを回収してくれなくなったんだよ」
「ウソでしょ?」
清掃員がそんな非情な手に出るなんて、思いも寄らなかった。
「とりあえず、こちらまで来なさい」
僕は大家さんについていくまま、マンション近くのゴミの集積箱にやってきた。そこには、回収されなかったゴミ袋が溜まりすぎて、すっかりあふれかえっていた。最近ここに来るたびにやたらゴミが減らないなと思っていたんだ。おかげでゴミの周囲には、何匹ものハエがたかっている。完全に近寄りがたい。
「とりあえず、手袋を持ってこい。原因はお前だから、全部のゴミの仕分けが終わるまで帰っちゃダメだぞ」
学校の先生でもない人に、とてつもない罰を言い渡された。僕は生きた心地がしなかった。
「ほら、さっさと取りにいけ」
大家さんが怒りをこめて僕に言い放った。現実に恐怖しながら僕は手袋を取りにいく。
午前12時。
「あけましておめでとう。仕分けは進んでいるか」
「はい……」
僕は力を失った声で大家に応えるしかなかった。道端で汚いゴミを仕分け続けるという壮絶な苦役に縛られながら、年越しを迎える羽目になったのだ。想像もしなかった屈辱的な体験で、頬には一筋の涙が伝った。
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