お姫様と女騎士『百合ぽい』

赤木入伽

お姫様と女騎士

【第一話】


 女王様は一安心しました。


 というのも、女王様と王様の間には跡継ぎの男の子がいなかったのですが、一人娘のお姫様への王位継承を周辺諸国が認めたのです。


 となれば、女王様は新女王の母親――つまりは王太后となり、この王宮で一生贅沢ができるようになるのです。


 これを安心と言わずしてなんと言いましょう。


 無論、お姫様を暗殺しようとする不埒者が出てくるかもしれませんが、その対処も万全です。


 女王様は、王国で一番強くて気品のある騎士をお姫様の護衛にしたのです。


 しかもこの騎士は世にも珍しい女騎士。


 そのため、お姫様とスキャンダラスな関係になって教会から印象が悪くなる、なんて問題も発生しません。


 ここまで来れば、残りの諸問題は自分の味方である摂政に任せ、女王様は寝ていても大丈夫です。


 いずれお姫様が新女王になり、女王様は王太后となれるのです。


 女王様は自室で一人高笑いをしました。


 ――が、そんなときに当のお姫様と女騎士はと言えば、


「ねえ、私の護衛の私だけの騎士――。あなたは私のことを、どう思っているの?」


「恐れながら、決して手放したくない最愛の宝と――。もし手放せと神に命ぜられれば、いっそ私が手折ってしまいたいほどに大切なものと承知しております――」


「ふふ、嬉しいわ。でも、私も同じ気持ちよ。あなたは一生、私だけの騎士でいてほしいわ……」


「ああ、姫様……。なんともったいないお言葉でしょう」


 それはベッドの上で、寝間着姿での会話でした。


 二人は既にスキャンダラスな恋人関係になっていました。






【第二話】


 女王様は大いに安心しました。


 というのも、お姫様以外で王位継承の有力候補として名前があがっていたのは、八代前までさかのぼった男系の男なのですが、その男が死んでしまったのです。


 しかも、次の有力な男系候補と言える男は三十八代前にまでさかのぼる必要があり、しかもその男の一族は今や超没落しており、王家に相応しくありません。


 つまり、今や王位継承の有力候補はお姫様のみとなったのです。


 きっと、すぐにでも次期女王の夫となりたい貴族らが、多くの貢ぎ物を女王様に贈ってくれることでしょう。


 こうなると今すぐにでも王様が死んでも、女王様の身分は絶対に安泰です。


 女王様は自室で一人高笑いを激しくしました。


 しかも激しく笑いすぎたために咳き込んでしまうほどに。


 まあ、それだけ女王様も嬉しかったのです。


 ――が、そんなときにお姫様と女騎士はと言えば、相変わらずベッドの上で、寝間着姿で、


「姫様の遠いご親類が亡くなられたことは大変心苦しいのですが、正直に申し上げれば、これで姫様の王位継承が確実のものとなり、私は安堵しています」


「そうね。……これで私を暗殺しようだなんて方もいなくなるでしょうし、そうなれば、あなたと一緒に森を散歩したいなんか出来るかしらね」


「はい。姫様が望まれるなら」


「それじゃあ、その森の奥でキスしてくれるかしら?」


「姫様が望まれるなら」


「それじゃあ、また人を殺してくれるかしら?」


「姫様が望まれるなら」


 二人は女王様以上に策謀を巡らしていたのでした。






【第三話】


 女王様――もとい新たな王太后様はぐっすり寝ていました。


 というのも、ついに王様は亡くなってしまったのですが、計画通り、お姫様が新たな女王となったのです。


 しかもお姫様は女王となってすぐに結婚されたのですが、この夫というのが王太后様の言うことを何でも聞く順応な男だったのです。


 これでもう王太后様の立場を危うくする者は誰もいません。


 王太后様は、死ぬまで道楽の限りを尽くせるのです。


 ちなみにお姫様――もとい現女王様の護衛だった女騎士は、地元で結婚するため、これを機会にお役御免となりました。


 実はもともと王太后様は、この女騎士が新女王様のお気に入りとして力を持つと困ると思っていたので、王太后様はこの点でも安心し、ぐっすり眠ることができたのです。


 もう王太后様を困らせるものは本当に何もないのです。


 本当に本当に、王太后様はぐっすりと眠りました。


 さて、そんな時に新女王様とその夫はと言えば、ベッドの上で、寝間着姿で、


「私の望み、本当に叶えてくれたわね。嬉しいわ」


「女王陛下が望まれるなら、私はいかなる願いでも叶えましょう。なにせ私は、あなた様だけの騎士ですから」


「ふふ。もうあなたは騎士じゃなくて、私の夫でしょう?」


「いえ、少なくともあなた様の前では、あなた様だけの騎士です。永久にあなた様とともにありましょう」


「ふふ。あなたったら本当にいい子ね。ご褒美に頭を撫でてあげるから、あなたは私にキスをして」


「承知いたしました」


 二人はそう言って、激しくイチャつきました。


 しかしまあ、もうこれで新女王とその夫――もとい元女騎士を困らせることは何もないのです。


 なにせ、自分の贅沢のために謀略をめぐらす王太后様も、これからはぐっすりと眠り続けてくれるのですから。

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お姫様と女騎士『百合ぽい』 赤木入伽 @akagi-iruka

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