04 Love,

「呼んだかな?」


 ベランダの外の、窓の下を見る。


 彼がいた。


「先生」


「びっくりしたよ。きみが書いた論文。よくできてた」


「読んだんですか?」


「たまたま、縁があってね。ご丁寧に住所も書いてたから、問い合わせにきたよ」


 たしかに、論文の最後に連絡先と住所は書いてた。ひとりの部屋。


「別れた人の部屋にはいるのもおかしな話だから。これだけ受け取ってね。よいしょっ」


 封筒。器用に風に乗って、わたしのベランダに、落ちる。


「これは」


「論文。落とした心の拾い方が、書いてあるよ」


 思春期欠如における人格形成の未完成感覚と、管理下におけるその対応。


「早い話が、恋愛をすることだ。誰かの心に触れることで、思春期がなくても、心は満たされる」


「これ。犯罪心裡の」


「うん。たまたま、そっちで使おうと思って」


 先生。いつもと同じ、ほほえみ。


「じゃあ、僕はこれで」


 こちらに背を向けて。


「あ、そうだ。あの日伝えそこねたことを」


 また振り返ってこちらを向く。


「僕はきみに会えて。きみと付き合うことができて。幸せだったよ。たしかに。好きだった」


 振られる手。


「ありがとう。じゃあね。どうか、お幸せに」

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