16話:さてはクズだなテメー
サラサラ髪に目鼻立ちのはっきりしたイケメン顔、かなり若い男に見える。
あんな教師がこの学校にいただろうか?
もちろん俺も、全ての教師の記憶があるわけじゃないけど、教師にしてはずいぶん若い気がする。
誰かに聞いて見よう。
──別のクラスで授業が終わった三年生の女子生徒が廊下を歩いていたため、尋ねてみる。
「すいませ〜ん。あの先生ってなんて名前ですか?」
「え? ああ、あの人は教育実習の先生だよ。名前は
「……どうもありがとうございました」
なるほど教育実習で来ている大学生だったのか。
ほとんど見覚えがなかったのは当たり前だ。
……だけど、三年生を教えているし、美奈との接点なんてなさそうだが……。
俺は鬼黒について調べてみることにした。
◇ ◆ ◇
まずは聞き込み調査。
職員室に日誌を届けに行くついでに、担任の佐々木先生に聞いてみる。
「佐々木先生、教育実習できている鬼黒先生って知ってますか?」
「ん? ああ。名門の
「性格は、どんな感じの人ですか?」
「どんなって言われても、難しいが……人当たりの良い爽やかイケメンって感じかなぁ……」
「……なるほど」
世の中、完璧な人間なんていない。
完璧に見えるほど、何か穴があるんじゃないかと思うべきだ。
……知らんけど。
「なんでそんな事聞くんだ、お前?」
「えっ!? え〜と、ほら……俺も早いうちから進路を考えておいた方が良いかな〜って。大学生の先生が来てるなら、何か話も聞けるかも知れないし……なんて」
「おっ……さすがだな! お前なら今から頑張れば
「ははは……ありがとうございます」
「俺から紹介してやろうか?」
「えっ……え〜と……とりあえず、今すぐじゃなくていいです」
「んっ、そうか? 遠慮しなくて良いぞ」
「い、いえ……話を聞くにしても質問を整理してからの方が良いかと思いまして」
「ふ〜ん、真面目だねぇ」
「い、いえ……とりあえず、今日は失礼します!」
ごまかして職員室から出た。
……今日は美奈は家庭科部がある。
どうせ一人で帰るなら、鬼黒をストーキングしてみよう。
駅から少し離れた位置にあるこの学校に務めている教師は、車通勤が多い。
ただ、ヤツは教育実習生だし、徒歩通勤の可能性が高いんじゃないかと考えた。
「……あたりだ」
校門の陰で待っていると、鬼黒が校舎から現れた。
一人のようだ。
後ろから距離を追いてつけていく。
ヤツは特になにをするでもなく、まっすぐ駅に向かって歩いている。
人をストーキングする事なんて初めてだから、緊張で心臓の鼓動が早くなっている。
見失わない距離かつ、バレない距離というものがどれだけか分からない。
素人の尾行だけに、他から見たらかなり怪しくなっているかもしれない。
それも心配だった。
その心配を的中させるかのように──
「あの〜」
曲がり角で身を潜めながら鬼黒を見ていた時に、後ろから声をかけられた。
(ビクゥッ)
反射的に身を震わせながら、身を翻して声の主を確認すると──
「……中杉くん?」
知っている顔だった。
目が隠れてしまうぐらいの長い前髪が印象的な女の子──中学校から同じ学校に通っていた、
今も同じ高校だが別のクラスにいる。
と、言ってもそこまで親しい仲ではなかった。
率直に言うと、後草はあんまり社交的な性格じゃないし、声も小さくて一人でいることが多い女子だった。
「おう……久しぶり……だな」
「……中杉くん……なにを……してるの?」
「うっ……な、なんでもないよ」
さすがに自分でも認識できるぐらい怪しすぎて、うまくごまかす言葉が出てこない。
「……えっと……鬼黒先生を……調べてるんだよね……?」
「──えっ!?」
ズバリそのものを言い当てられて、心臓が一瞬──止まる。
俺の尾行があまりにも下手だったということか。
「ふふふ……いいよ……ごまかさなくても」
──こいつの笑顔自体、凄くレアだと思う。少なくとも俺の記憶にはない。
「……あ、ああ……」
曖昧な肯定を返す俺に、彼女は、うつむきながら小さな声でつぶやくように言った。
「……ね……手伝ってあげようか……?」
え?
彼女が何を考えているか分からない。
「え……と……申し出はありがたいけど……」
俺の目的のために、他の人を巻き込むのも違う気がする。
彼女の意図しているところも分からないし、とりあえず断ろうとしたのだが──
「あ……鬼黒先生……見えなくなっちゃうよ……」
「え?」
「ほら……急がないと……」
そう言われてなし崩しに二人で尾行することになった。
◇ ◆ ◇
駅に着くと鬼黒が電車に乗ったので、俺たちも別の車両から監視することにした。
……というか、後草がそうさせた。
こいつ妙に尾行に慣れている気がする。
鬼黒を監視しながら、俺の隣に立っている後草に小さな声で尋ねてみる。
「あ、あのさ……お前って……探偵かなんか?」
「……え……違うよ?……」
「そ、そうなんだ……妙に手慣れてない……?」
「えっと……昔……ストーカーをやってたことがあって……」
「はぁっ!?」
びっくりして、つい大きな声をだしてしまう。
後草がたしなめるように口に指をあてた。
「しぃっ〜……」
幸い、鬼黒には気がつかれていないようだ。
顔は覚えられていないとはいえ、制服はそのままだからな。
見つかれば不審がられるのは間違いないだろう。
「……女の子は……一生に一度ぐらいは……ストーカーになるんだよ……」
後草はこともなげにそう言った。
──おいおい、ホントかよ!? 怖すぎだろ!
「ちなみにさ……誰をストーカーしてたんだ?」
「……それは……言えないよ……」
「そ、そうか……」
まぁ、深く聞かない方がいいかもしれない。
ストーカー話は、ここまでにしよう。
静かにして鬼黒の監視を続けていると、今度は後草から話しかけてくる。
「……あの……中杉くん……って最近、変わったよね?」
「え……な、なにが?」
「……なんだか……最近……大人っぽいなって……」
「そ、そうか?」
さすがに俺がタイムリープした事を悟っているわけではないと思うが……。
「……えと……美奈ちゃんと……付き合い始めたからかな……?」
「う……そうかもな」
後草と美奈は、そこそこ話す間柄だ。
もう少し正確に言うと、美奈は誰とでも仲良いタイプなので、後草みたいなタイプにも気を遣って自分から話しかけるところがあった。
後草にとっては、自分が話せる数少ない友達だと、美奈のことを思っているのではないだろうか。
「……え……とね……」
「まった」
彼女が何か話そうとするところを俺がさえぎった。
鬼黒が電車から降りようとしている。
目線で彼女に合図した。
「ん……」
後草が分かったという風に首を振った。
鬼黒が電車を降りるのに合わせて、俺たちも電車を降りる。
帰宅ラッシュの時間帯で駅が混みあっている。
人混みのなかで、鬼黒の姿を見失わないようにしながら、後草とはぐれないようにするのは至難の
体の小さい後草が、後ろに押されていく。
……仕方ない。
「掴まれ」
俺は後ろ草に手を伸ばした。
「……」
後草が無言で俺の手を掴んだ。
人混みに押されて踏ん張っているせいか、その顔が蒸気している。
「頑張れ」
そう言いながら、鬼黒の後を必死につけた。
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