遥かなる自由を求めて

梔子

『遥かなる自由を求めて』

「遥かなる自由を求めて」


千秋(20)……サバサバとした男勝りな女の子。咲良とは幼馴染み。

咲良(20)……ふわふわとした内気な女の子。千秋とは幼馴染み。


千秋「幼い頃から、君はとても勇敢だった。私が怖くて動けなくなっても、全部やっつけて、手まで差しのべてくれる。君は私のナイトで、英雄(ヒーロー)だった。

私たちは今、旅に出た。魔物から逃れ、自由を手にするために、理不尽と戦うために、青い傷を背負(しょ)った二人で故郷を飛び出した。」


咲良「ねぇ、地上の宇宙を見に行かない?」


(間4秒)


千秋「咲良ちゃん。」

咲良「……(運転に集中している)」

千秋「ねぇ、咲良ちゃん!」

咲良「もうっ、何?」

千秋「今からどこ行くの?」

咲良「言ってるでしょ、宇宙見に行くって。」

千秋「だから、宇宙って何?」

咲良「行けば分かるから。千秋は寝てなって。」

千秋「どこに連れてかれるか分かんないのに安心して眠れないよ!」

咲良「私と一緒ならどこにでも行けるって行ってたのに?」

千秋「それは、比喩表現じゃん。」

咲良「あはは、そうだよね。てか、お腹空かない?」

千秋「もう、話しそらさないでよ。」

咲良「ご飯食べずに飛び出して来ちゃったもんなぁ。サービスエリアとかないかなぁ?」

千秋「……そうだね。あんな誘拐されるなんて思ってなかったし。」

咲良「ごめんって。でもああしないと連れて来れなかったし。」

千秋「まあ、そうだけど……あ、ここから4キロ先だって。」

咲良「おっ、近いじゃん。停ろっか。」

千秋「うん。」


間2秒


咲良「いただきまーす。」

千秋「……いただきます。」

咲良「カップラーメンはやっぱりシーフードだよねぇ……」

千秋「……」

咲良「おにぎり、美味しい?」

千秋「うん……」

咲良「もう、なんでそんな湿気った顔してんのさぁ……せっかくの旅だって言うのに。」

千秋「じゃあ、言うけど……なんでこんなことしようと思ったの?」

咲良「こんなことって?」

千秋「私を、誘拐して知らないとこに連れていこうとしてるでしょ?」

咲良「そうだけど……だめ、だった?」

千秋「だめ、だった?じゃないよ!これは、だめでしょ……」

咲良「千秋にとっては良いことしたつもりなんだけどなぁ。」

千秋「……」

咲良「最近、千秋大分キてるっぽかったからさ。」

千秋「……そう?」

咲良「そう、だと思って……こうでもしないと逃げらんないだろうから。やっちゃった。」

千秋「……咲良ちゃん。」

咲良「後が怖いとか思ってる?」

千秋「そりゃ……そうだよ。だって……」

咲良「お姫様を魔物から奪って、また魔物のところに返す王子様なんている?」

千秋「いないと思う。」

咲良「つまりはそういうことだよ。」

千秋「どういうこと?」

咲良「もう帰さないってこと。」

千秋「そんなこと……」

咲良「無謀だと思うよね……でも私達もう子どもじゃないんだよ。やってできないことはないよ。」

千秋「そうだけど……」

咲良「あーあ、やっぱり千秋にとっては私なんて甲斐性なしかぁ……」

千秋「別に、頼りないとかじゃないけど……こういうことして一度も成功したことないでしょ?だから、今回も同じなんじゃないかなって……」

咲良「今までとはわけが違うよ。だって車乗れるし、それなりのことすればどこにだって逃げられるよ。少なくともあの頃よりは手持ちだってあるしね。」

千秋「やっぱり咲良ちゃんはすごいね……」

咲良「そう?」

千秋「私とは違って、免許も持ってて、アルバイトもできるし、自立してるって感じ。」

咲良「自立、か……」

千秋「ちゃんと自分を持ってて、何かに囚われていない感じ。」

咲良「囚われては、いるよ。」

千秋「そうなの?」

咲良「色んなもの、いや、考えに、かな。だから今こんなことしてるんだよ。」

千秋「私にはよく分からないけど、咲良ちゃんが言うならきっとそうなんだね……」

咲良「千秋はさ、ずっと悩んで来たわけじゃん。でも話してるとさ、なんか、もう諦めてるのかなって思っちゃって……」

千秋「諦めてる?」

咲良「うん……悪いように思わないで欲しいんだけど、何と言うか……自由になりたいって気持ちも、私とずっと一緒にいたいって気持ちも抑圧されてさ、小さく萎んじゃったのかなって、感じたんだ。」

千秋「……」

咲良「ごめんね、分かったような口聞いて……」

千秋「ううん、咲良ちゃんの言うこと間違ってないよ。」

咲良「本当に……?」

千秋「私、もう自分の人生なんて八方塞がりなんだって決め付けてた。自由なんて手に入らないし、自由になれないなら咲良ちゃんとずっと一緒にいるなんてできないって、思ってた。」

咲良「……」

千秋「でも、今はね、咲良ちゃんが一生懸命私を連れ出そうとしてくれてるから、また考えられるようになったよ。咲良ちゃんとの未来のこと。」

咲良「そっか……良かった。」

千秋「さっきさ、咲良ちゃんも囚われてるって言ってたよね。」

咲良「うん。」

千秋「一緒に逃げよう。私たちの人生を邪魔する人達から。」

咲良「ありがとう……そろそろ進もっか。」

千秋「うん。」


(木々の音と、小鳥のさえずり。)

咲良「千秋。」

千秋「ん……おはよう……」

咲良「着いたよ。降りよう。」


千秋「ここは……?」

咲良「あと少しで見えると思う。」


(一面のコスモス畑が二人の視界に広がる。)


千秋「綺麗……これって……」

咲良「これが地上の宇宙だよ。」

千秋「地上の宇宙って、コスモス畑の事だったんだ……」

咲良「へへ、意味分かってくれた?」

千秋「うん……本当に、本当に、綺麗だね。」

咲良「どこまでも続いてるみたいだね。」

千秋「……コスモスの花言葉は、調和。」

咲良「……調和か、もっと周りと上手くやって行けたらよかったのになって思うよ、全く……」

千秋「そうだね……私もだな。」


(間2秒)


咲良「そろそろ車に戻ろっか。」

千秋「うん。」

咲良「私たちはもう止まってられないから。」

千秋「うん。」

咲良「もう、自由には飽き飽きしてるんだけどね……千秋とならもっと欲しいって思えるよ。」


(千秋、咲良の車の周りにできた人だかりに気づく。)


千秋「はっ……咲良ちゃん、あれって……」

咲良「えっ……」


千秋「私たちの旅はそこで終わった。少し大人になっただけではやはり、理不尽からは逃げ切れなかった。でも私は諦めない……いつか、本当の自由を求めて、私たちだけの平和な世界を目指して、また旅に出る勇気を君にもらったから。」


咲良「私たちの旅はまだまだ続く。」

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遥かなる自由を求めて 梔子 @rikka_1221

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