ラウンドアバウト

おこげ

第1話


 ここ最近の行彦ゆきひこは、水曜日が待ち遠しかった。


 1LDKの彼の家には、今年で三年目になる恋人・みなとが同居している。その日、芸大生の彼女は一限目から授業があった。


 湊が家を出ていくのをリビングの寝床ソファから確認すると、行彦は胸の中だけでは収まらない喜びを顔いっぱいににじませた。それからパッと起き上がると、上機嫌で掃除を始めるのだった。



 一時間後、行彦だけとなった家にインターホンの音が広がる。彼はいそいそと玄関に向かい、扉を開けた。


 「おはようございます、先輩♪」


 そこには小柄な少女・みやこがいた。溌剌はつらつとした雰囲気で、行彦と顔を合わせるや、快活な笑顔と明声めいせいで挨拶する。


 「これどうぞ、生菓子です」と京は手にしていた紙袋を彼に差し出す。「実家から送られてきたんですよ。友達にも渡しなさいって」


 「へぇー、ありがとう。湊が帰ってきたら頂くよ」

 「あ、湊先輩にはあとで別のを渡すんで」

 「そっか。じゃあ二人で食べようか」


 紙袋を受け取る行彦。

 すると突然、京が抱きついてきた。


 「……会いたかった」


 行彦の胸のなかで京は呟いた。


 「先週も会ったじゃないか」

 「一週間なんて、長すぎるよ……」


 行彦はしがみつく京の頭を優しく撫でた。それから両肩に手をかけ、彼女を起こしてやる。


 行彦の胸から離れた京は苦しそうに息を漏らし、ねだるような眼で彼を見つめた。


 涙を浮かべた瞳。

 赤らんだ頬。

 もの寂しげな唇。


 それを見て、行彦は京に顔を近づけた。背丈の低い彼女のために前屈みになって、京は京でつま先立ちになって、眼を伏せ、長く甘い口付けを交わす。


 やがてそれを終えると、行彦はもう一人の恋人を連れて家のなかに戻っていった。



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