第193話 譲れない戦い

 二つの閃光が激突する。


 煌めく閃光は、聖剣使いのリンと魔王サタンによるもの。


「どうした……その程度か魔王!?」


 魔王が圧倒される。


「流石だ……これが英雄の力かぁ!」


 九つの聖剣の内、三つの聖剣を手にしていた聖剣使いと戦った時は、魔王の方が上であった。


(この素早さは風の聖剣の力……それに加えて雷の聖剣か)


 目で追う事も出来なほど、その速さは加速していく。


 光の壁を展開し防御の態勢に入るが、防壁は砕かれ斬り付けられる。


「ぐっ!」


「手加減するなよ! 俺達は決着を着ける為に戦っているんだからなぁ!」


 練撃は止まらない。一撃一撃が致命傷になり得るほどの重さで放たれている。


「それは失礼した……ならば使うとしよう!」


 自身の力だけではどうにもならないと悟った。


 この日の為に用意した力。かつての英雄が『竜王』とまで呼ばれるほどの強さを持っているのならと、探し求めた力。


「さあ『グラム』よ! 魔剣の力を見せるが良い!」


 その名は『怒り』を表す剣。


 ぶつかり合う魔剣と聖剣。神話の剣と伝説の剣は、憤怒の魔王と異世界からの迷い人を担い手に選んだ。


「期待以上だ! お前は強くなった……誰よりも強く・・・・・・! 俺にとって『最強の敵』となった! だから……お前を超える!」


「やってみろよ……今の俺は本当に強いぞ!?」


 凄まじい魔力を放つ魔剣を受け止め、はじき返す。


 ただ重いだけの剣ではない。強い信念と覚悟を持って、魔王へと叩きつけられていた。


「形態変化……斧式おのしき! 『ボルトラージュ』」


 魔剣グラム、それは竜殺しの剣。その斬れ味は鋭く、竜の鱗を打ち砕く事すら出来る神話の剣。


 雷の聖剣は姿を巨大な斧に変え、そんな魔剣を砕こうと叩きつけられた。


「怒りの魔剣に……憤怒の魔王に! 『怒り』の力をぶつけるかぁ!」


 振り払い、魔剣が聖剣使いの身体へと斬り込まれる。


 だが、もうは一つの聖剣がそれを許さない。


(風の壁か……っ!)


 風の聖剣『ゲイルグリーフ』の力が魔剣を阻む。


 一度触れてしまえば身を引き裂く鎌鼬。その場に立っているだけで、旋風が獲物を逃さない。


 魔法で牽制しながら後退する。距離を置き、態勢を立て直そうとするが、聖剣使いに死角は無い。


「形態変化……銃式じゅうしき! 『ゲイルグリーフ』」


 聖剣は一対の銃の姿へ形を変える。


 更に組み合わせ、双銃は『長銃』となり、魔王を捉えた。


「『戦風嵐撃せんぷうらんげき』」


 一撃で身を守る障壁を撃ち抜く。


 弾丸に込められた嵐の如く荒れ狂う力は、魔王を傷つけるには十分過ぎるほどの一撃であった。


(これほどとは……っ!?)


 怯んだ隙を逃さない。


 銃撃に加え、すかさず次の一手を忍ばせていた。


鎖式くさりしき! 『ガイアペイン』」


 魔王の身体を縛り上げ、そのまま地面や壁へ叩きつける。


「降参するなら今のうちだ!」


 容赦なく叩きつけるリン。


 このまま続けられれば確実にやられる。だからもう、出し惜しみ・・・・・は出来なかった。


《ウゥ……ウオオオオオオォォォォォォッ!》


 縛られていた魔王の身体は、全身は魔王にふさわしい風貌へと変わる。


 悪魔の翼、獣の体、異形の姿をした化け物。


 人間を捨てて得た魔王の姿。先程までの少年の姿は消え失せる。


「力尽くで抜け出したか……だが今の俺に勝てるか?」


 神話の剣に加え、憤怒の魔王の力を出させた。


 圧しているのは間違いなく聖剣使いである。英雄の力を全て受け継ぎ『最強』とまで言える存在となった。


《勝てるさ……お前が人間である限りな》


 巨体に似つかわしくない速さで、聖剣使いの背後へとまわり込む。


「その姿……どうも慣れないな」


《知った事か 力の代償が見た目だというのなら喜んで差し出すさ》


 先程までとは比べ物にならない速さに怪力。


《さあ死ね! 俺の……我の計画・・・・の最後の障害よ!》


「死ぬわけないだろ……仲間が待ってるんだからな!」


 剛腕から放たれる拳は躱される。次々と攻撃は叩き込まれるが、その尽くを見切りきっていた。


 両手に持って聖剣を別の聖剣へと変え、魔王の攻撃を掻い潜りながら反撃に出る。


 水の聖剣『アクアシュバリエ』と、氷の聖剣『アイスゾルダート』の力を解放し、確実に追い詰めていく。


「聖剣二刀流……『水零霧氷すいれいむひょう』」


 氷の力を水の力が押し上げる。


 魔王の動きが鈍くなる。凍てつき、身体の自由を奪う。


《グゥ……アアアッ!》


 体格差は逆転したのにも関わらず、それでも尚戦いの主導権を握るのはリンである。


 強くなった聖剣使いを倒す。魔王にとって最も必要な事。


視えるぞ・・・・……お前の魔力の流れが!」


 視認した魔力の流れ。


 木の聖剣『ローズロード』の力。今手にしているのは水と氷の聖剣であるが、体内に宿したまま・・・・・・・・であっても聖剣の力を使いこなせていた。


 火の力は燃え盛る闘争本能、土の力は岩の如く堅牢な身体、氷の力は冷静な判断力を与え、木の力で治癒能力と力の流れを視る瞳。


《視えたところで! 意味は無い!》


「無理矢理氷から抜け出したか! だが次はどうだ!」


 凄まじい速度を与えた風の力、相手を見極める雷の力、明鏡止水の心を得る水の力。


 かつて、初代聖剣使いが『竜王』とまで比喩される力が受け継がれていた。


「七聖剣……解放!」


 七つの聖剣の力を解き放つ。


 リンの周りに聖剣を纏うかのように宙に浮く。


 光と闇を除いた全ての聖剣の力を引き出し、魔王へ向けて放たれる。


「耐えられるかぁ!? この攻撃を!」


 その場に適した聖剣へと瞬時に持ち替えながら、魔王への連撃を叩き込み、魔王の攻撃は纏った聖剣で往なす。


 斬り刻まれていく魔王の身体。あれだけの力の差があったというのに、今では圧され始めている。


《この魔王の力でさえ……!》


「いつだってな……魔王を倒すのは『人間』なんだよ」


 想定を超えた強さに、動揺を見せる。


《黙れ!》


 計画は順調であった。


 あとはただ、目の前の聖剣使いさえ倒せれば、己が存在を世に知らしめ、魔王こそが『最強』であると、証明できる。


 そのあと一歩が、果てしなく遠く感じさせる。


「こいつで……終わりだ」


 火の聖剣『フレアディスペア』が、形を変えて『弓』となった。


 火の矢が放たれ、魔王を後退させて距離を取る。


「聖剣射出……『七聖奥義』」


 火の矢の変わりに、新たに番えるのは『聖剣』であった。


 魔王を捉え、その身体は射抜かれる。


「『聖剣射出六連』」


 背に浮かべた聖剣全てで魔王を射抜く。


 一撃一撃全てが必殺の威力。たとえ魔王だとしても一溜まりもないであろう。


(手応えはあった……だが・・


 これで終わる筈が無いと知っていた。


 何故ならまだ一つ、『見せていない力』があるからだ。


「……これでは勝てないか」


 元の人の姿へと戻っている。


「出しな……お前の『切り札』を」


 最初に出会った少年の姿と、先程までの魔王の姿。


「やはり貴様には……『この姿』を使わなくてはならないか!?」


 もう一人の魔王『ルシファー』との戦いの時、『切り札』として見せたもう一つの姿。


 全身が竜の鱗に覆われ、まるで『竜騎士』を思わせる姿へと変貌する。


「『邪悪竜ファフニール』……これが我が力の極致」


 自らに流れる『竜殺しの血』と、黙示録の『赤き竜』の力が混ざり合い、魔剣『グラム』と共鳴した結果、更なる力に覚醒した。


 本来であれば『あり得なかった』力が、魔王の身体を『竜』の姿へと変えたのだ。


(あの時よりも……力が増している)


 ルシファーを倒す為、共闘した時に僅かに見せた時とはまるで違った。


 桁違いの魔力を纏う。リンはすぐに攻撃に転じた。


火弓かきゅつ九火きゅうび』」


 動きの速さだけは知っている。だからここ魔王を逃がさない為に、追尾する九つの火の矢を放った。


「遅い」


 追尾する筈だった火の矢は全て撃ち落とされた・・・・・・・


「なっ!?」


「今度は貴様が見せる番だぞ?」


 距離をとっていた筈が、リンのすぐ目の前に立っている。


 振り下ろされる魔剣が、弓を砕いた・・・・・


「……これが切り札ってわけか」


 以前見たのは力の一端でしか無い。


 正真正銘の魔王の切り札。ならばリンも見せるしか無い。


「さあ……お前も見せろ」


 未だ見せていない闇の聖剣『ダークイクリプス』の力を、魔王は知っている。


「ふん……だよなぁ!?」


 リンの身体を闇が包み込む。


 身体を喰らい、侵食する闇の力。


「お互い……準備運動は十分だな?」


「そのようだな」


 餓えた獣の力。もう理性を奪われる事もない。


「この戦いで全て出し切る!」


「それは此方も同じだ 我は貴様が……」


「倒されるのはお前だ……何故なら!」


「「お前が気に入らない!」」


 譲れない戦い。魔王も聖剣使い、全てをぶつける。


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