第189話 完敗

(圧されてる……? オレが……!?)


 振り下ろされた火の聖剣が爆炎を放つ。


 たとえ躱したとしても、爆風に飲まれ、全身を炎を熱で覆われてしまう。


「このっ!」


 熱さに耐え、隙をついて拳を叩き込む。


 その一撃は確実にリンを捉えていた。


「……それが本気か?」


「なっ!?」


 まるで効いた様子はない。


 硬化した身体ツヴァイは砕く事が出来なかった。


「チッ!」


 後退して距離をとるが、リンが土の聖剣を地面へ叩きつけると、地面から無数の岩の槍がツヴァイを襲う。


 現れた岩へ蹴り込み、粉砕するがその先にリンかが待ち構えていた。


(いつのまに!?)


「あの時の俺と思うなよ!」


 紅蓮の炎を纏い、ツヴァイを斬りつける。


「ガァ!?」


 初めて戦った時と威力がまるで違う。


 動きは洗礼され無駄がなくなり、ツヴァイの動きに追いついている。


「まだ……まだぁ!」


 痛みを堪え、拳に力を込めて殴りかかるのたが、全て避けられてしまう。


 動きを完全に読まれている。そして思い知った。


(オレより……強い)


 力の差が逆転した。


 あの頃の戦いに不慣れだった聖剣使いはもういない。


 今目の前にいるのは、数々の戦いを乗り越え、全ての聖剣を受け継いだ『聖剣使い』だった。


「でも……楽しいな!」


 手加減の必要などありはしない。全力で力をぶつけても、応えられる相手とこうして巡り会えた。


「楽しいよ本当に! オレより強い相手が敵にいる! 最高じゃんか!」


 振り下ろされた聖剣を掴み取り受け止める。


 炎が燃え上がり、ツヴァイの手を燃やすが、そんな事は関係ない。


「お前は本当に戦いが好きなんだな」


「当然さ! 何も考えずただどっちが勝つか決められるんだからさ!」


 掴んだ聖剣ごとリンを持ち上げ、投げ飛ばす。咄嗟の事であったが、リンは空中で態勢を立て直して着地に備える


 すると投げると同時に落下地点まで走っていたツヴァイが、その場に待ち構えていた。


「コイツ!?」


「あの時と違うんだろ!? だったら何が違うか沢山見せてみなよ!」


 蹴り落とし、体勢が崩された事で地面に叩きつけられる。


「もらった!」


「……俺もな」


「なっ!?」


 持っていた聖剣が形を変えて、弓の姿となっていた。


(いつのまに!?)


「零距離で受けてみろ」


 火の矢がツヴァイの腹部へと直撃する。


 意表を突かれ回避は間に合わず、そのまま壁まで吹き飛ばされてしまった。


「そうだった……そんな事もできたんだった」


「まだやるか?」


「やるよ……終わらせられないよ!」


 リン目掛けて一直線に走り、リンはそれに立ち向かう。


「聖剣射出! 『ガイアペイン』」


 矢の代わりに、土の聖剣を番えてツヴァイを射抜く。


「当たんないよ!」


 見切られ、紙一重で躱した。


 次は自分の番だと突き抜けようとしたとき、ツヴァイの躱した先に『もう一射』放たれていた事を、気付いていなかった。


「『烈弓れっきゅう 天照アマテラス』」

 

 土の聖剣を射出してすぐに、炎の矢は番られていた。


(今のは聖剣がおとりだったのか!)


 気付いた時にはもはや手遅れである。


 ツヴァイを捉えていた一撃は、再び直撃した。


「一矢報いるってヤツさ」


「うっ……うぅ……」


 魔王三銃士の一人であるツヴァイを、リンは圧倒する。


 拳が届かない。届いたとしても、リンには効かない。


「強くなったね……期待以上だよ」


 勝てないのだと悟った。


「でも……勝ちたい!」


 自らの存在意義、それは『戦い』の中にしか無い。


 己の力しか、それしか無いからこそ、ツヴァイは自らを奮い立たせた。


「オレの居場所は『ここ』なんだ! 魔王やドライは難しいこともできるけどオレには『コレ』しか無いから! だから絶対に負けられない!」


 傷ついた身体で立ち上がり、もう一度構える。


 全身全霊を懸けた事で拳に力込め、リンへと立ち向かう。


「……戻ってこい『ガイアペイン』」


 放ったれていた聖剣を呼び戻し、手に握られる。


「うおおおおおおあっ!」


 それでも構わず拳を振るった。


 土の聖剣を振るったリンに対し、真っ向からぶつかり合う。


「ぐっ!」


「ぶっ飛べえ!」


 聖剣ごと吹き飛ばし、リンを壁まで吹き飛ばしてみせた。


「やられたやり返すってねえ!」


「……流石だよ」


「まだ始まったばかり! だからもっと戦おうよ!」


「残念だが……俺にはやらなくちゃいけないことがある」


「何もかも忘れようよ! 今が楽しいならそれでいい!」


「その『今』の為にも……『今』頑張るんだよ」


 リンの周りに炎を纏わせる。


 赤き炎は『蒼』に染まり、更に熱く燃え上がらせた。


「もっと考えろ! 自分の選ぶ道を! その先にある未来の為にも! 選べなかった・・・・・・道の為・・・にも! 大事なことを見落とさない為に……死ぬ気で考えろ!」


 選べる選択肢は無限では無い。


 限られた選択肢の中で、後悔しない為に、今できる最善を尽くして掴み取るしかない。


「負けられないのは俺もさ だから……俺が勝つ」


 背負ったものの大切さを知っている。


 忘れてはならない。この日の為に頑張った日々を。


「今度こそ……全力で勝つ!」


 リンがこの世界の為に戦っているように、ツヴァイもまた魔王の為に戦っている、


 だからこそ互いに目の前の『強者』を倒す為、真っ向から力をぶつけ合う。


 突きつけられた拳に対して、リンも本気で応える為に聖剣を戻して『拳』で応え、ぶつけ合ったツヴァイの拳は打ち砕かれる。


(オレの手が!?)


「コイツで……終いだあ!」


 蒼き炎を纏った拳がツヴァイの顔面へと叩き込まれ、ついにその場へ倒れ込む。


 倒れた事で目に入った天井を見て、ようやく自分が倒れている事に気付かされた。


「負けって……ことかな?」


 出せる力は出していた。


 慢心などせず、全力を出したにもかかわらず、自分が負けてしまったツヴァイ。


「潔く認めてくれよ?」


「そこまでマヌケじゃあないよ……負けたんだね」


 立ち上がる力は無かった。


 全力を出しても、今の聖剣使いには勝つのは不可能だと思い知ったからだ。


「これでお役目御免ってヤツかな? 魔王に合わせる顔無くなっちゃたなあ」


 三度目の敗退。これで魔王にも見放されてしまったのだと、ツヴァイは諦めを込めた溜め息を吐く。


「一緒に謝ってやるから魔王の場所教えてくれ」


「ハハハッ……そんな事はしなくても教えるよ……ここを進んだ先の階段を登ったら魔王の間がある」


 指を指したその先の扉があり、その先へと進んだ階段を登れば魔王の間があるのだと教える。


「案外あっさり話すんだな」


「魔王はキミと戦いたがってるから……でも階段の先には多分ドライが待ってるからそっちが先かな?」


 リンは木の国ド・ワーフで『アイン』を倒し、そして今ここでの戦いでツヴァイを倒した。


 最後の魔王三銃士『ドライ』が、この先に待ち受けているのだとツヴァイは教える。


「ドライか……ちょうどいい 聞きたい事もあるしな」


「ドライは強いよ? そもそも倒せるの?」


「どうだか……自信は無いな」


「オレに余裕で勝ったんだからもっと自信持ちなよ」


「……敵に励まされるとはな」


「あら心外 結構キミのこと気に入ってるんだよ?」


「そりゃあどうも 悪いが急がせてもらうぞ」


 早くこの戦争を終わらせなくてはならない。


 魔王を倒し、約束通り元の世界に帰る為、何よりもこの世界の為に、決着を付ける為に先へと急ぐ。


「……俺が言うのもなんだけどさ」


 扉の前でリンは一旦立ち止まり、ツヴァイの方へと振り向いて言う。


「お前のところの魔王は……お前を用済みだからって処理するようなヤツだったか?」


「え……?」


 自らが仕える魔王は、ツヴァイが負けた時切り捨てる魔王だったのかと、そんな事を聞かれた。


 ずっと側にいたからこそ、断言出来る。


「なんだよ……敵を励ますなって」


 ありえないと。


「お返しだ」


 たとえ負けたとしても、おそらく魔王は気にとめたりはしないであろう。


 魔王三銃士であるツヴァイだからこそ、それがわかる。


「完敗だよ……正真正銘」


 そんな単純な事を気付かされてしまった。


「じゃあな もう悪さするなよ」


「それは魔王に勝ってから言ってね?」


 今度こそリンは扉を開いて先に進む。


「はあ……リベンジ失敗か〜」


 一人残されたツヴァイは部屋で呟く。


「次は……少しぐらい考えて戦おうかな」


 リンに言われたように、今だけを見るのではなく、先を見ていれば変わっていたのかも知れない。


 目を逸らさず、しっかりと選ぶべきだった。


「魔王……アイツ勝てるかなぁ」


 世界征服という、後戻り出来ない道を選んだ魔王を想い、戦ったツヴァイはせめてもと、魔王の勝利を願い、目を閉じた。


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