第188話 リベンジマッチ

「フハハハハハッ! 蹂躙とはこうするのだぞ!」


 魔界に突入する為、先陣を切ったリン。


 戦の神『バイヴ・カハ』の戦車に乗り、大量の魔王軍を次々と轢き潰していく。


「これだけの力で半分なのか……」


「安心しろ この程度なら半分すら・・・・出していない」


 立ち塞がる魔王軍を容赦なく撥ねる。


 こちらの動きを見計らっていたが、リンの突撃と共に進軍を開始した。


「奴らコッチを避け始めたな」


「相手にするのは無理であると察したか 良い判断だ」


 目標をリン達ではなく『ギアズエンパイア』へと集中し、道を開けていく。


「この『穴』を入れば『魔界』だ その先は優月ユウヅキ リン……貴様一人で進むが良い」


 巨大な穴。この穴を『魔界門』と呼んでいた。


 リンをこの世界へと吸い込んだ穴に酷似したその先に、こことは別の『魔界』へと繋がっている。


(おそらく魔界はこの世界の『地域』ではなく『異世界』だったってことか……なら案外世界との境界線は薄いのか?)

 

 魔王三銃士の一人である『アイン』は、この世界の事について聞いた時に『基礎ベース』と呼称し、少なくとも異世界の存在を認知していた。


 もしも魔界も異世界の一つであるというのなら、なんらかの要因でこの世界へと『喚ばれた』のかも知れないと、リンは考える。


「……知ってそうな奴に聞いてみるか」


 穴の目の前へと到着した。


 この穴を潜り、魔界にいる魔王との戦い向かわなくてはならない。


「さあ行け! 待ち受ける魔王と決着をつける時だ!」


「ああ……覚悟は出来ている!」


 後ろは全て仲間に任せた。


 不安はある。だがそれ以上に仲間を信頼しているからこそ、一刻も早くこの戦争を終わらせる為に、一人魔界へと入っていった。


(ここが……魔界)


 空は赤黒く淀み、大地は枯れ果て空気は薄い。


 荒れ果て退廃した世界。そんな印象であった。


「その首貰ったっ!」


 来て早々に、魔族兵がリンへ斬りかかる。


 当然ではあるが、見渡すかぎりの魔王軍。その全てがリンの敵である。


「手荒い……歓迎だな!?」


 斬りかかった一撃は当たる事は無い。


 風の聖剣『ゲイルグリーフ』片手に、襲いかかる魔王軍全てを斬り伏せる。


「一人で乗り込んで来るとはいい度胸だ! だがこの数相手にどこまで……ガァ!?」


「生憎と無駄口を聞く為に来たんじゃあない」


 凄まじい速さで押し進む。


 目指すは目の前に聳え立つ魔王城。それ以外に時間をかけている余裕は無い。


「貰っ……っ!? どこに消えた!?」


上だよ・・・


 風の力で空中に留まる事が出来るようになったリン。


「宙に!?」


「今までの俺だと思ったら大間違いだ!」


 握られた聖剣に力を込めた。


「形態変化……銃式じゅうしき! 『ゲイルグリーフ』」


 聖剣は形を変え、分裂して二丁の銃へと変化すると、空中から狙いを定めて風の弾丸を嵐の如く乱射した。


「『双銃疾風そうじゅうはやて』」


 無限に生み出される空気で出来た弾丸。


 再装填の必要も、銃口が熱くなる事も無い、このまま空中で延々と撃ち続ける事も可能であった。


「何をしている! 撃ち落せ!」


「当てられるものならな」


 機械兵がリンを射撃する。


 狙いは間違いなくリンを捉えていたが、当たる直前に風の壁によって阻まれてしまう。


「そんな……!?」


「俺に構うよりも逃げることをお勧めするぞ?」


「何だと!?」


 再び剣に戻し、新たに水の聖剣『アクアシュバリエ』を手に持ち、魔力を溜める。


「濁流に飲まれろ!」


 聖剣を振りかぶると、洪水を巻き起こし、魔王軍の兵士を一掃し、洗い流す。


「ギャアアアッ!」


「容赦はしない……誰であっても行く手を阻むのならな!」


 一歩たりとも引く君は無い。どれだけ数で負かされようとも、リンは迷う事なく突き進む。


「形態変化……槍式やりしき! 『アクアシュバリエ』」


 水の聖剣は姿を変え、長大な槍へと変化する。


「穿てっ!」


 目標は魔王城の門。距離は離れていたが、リンは躊躇う事なく投擲する。


 目の前の魔王軍諸共貫きながら、入り口を抉じ開けた。


「悪いが先を急がせてもらう」


 目にも止まらぬ速さで、駆け抜ける。


 もはや誰にも止められない。圧倒的な力を見せつけ、リンは魔王城へと侵入する。


「野郎っ! 逃すか!」


「深追いするな! 戦っても勝ち目は無い!」


 魔王軍は負ける筈ないと思っていた。


 たとえ聖剣使いであっても、数で圧倒しさえばすれば勝てると、高を括っていたのだ。


「あれが……『伝説の聖剣使い』なのか……」


 予想を遥かに超えた力の前に、諦めるしかなかった。


 そして、遂に魔王城へとたどり着いたリン。外と違って中は人の気配はなく静かである。


 ただ真っ直ぐ進む。長い廊下を抜けた先の扉を開くと、そこには見覚えのある者がいた。


「やっ! 元気そうだね!」


「ツヴァイ……」


 魔王三銃士の一人『ツヴァイ』が待ち受ける。


 見渡すかぎりこの部屋は広いだけで何もないが、ここで『戦う』にはうってつけの空間であった。


「たどり着いてくれるって信じてたよ……って言っても兵士達には聖剣使いは深追いしなくて良いって言ってたんだけどね」


「期待に応えられて光栄だ」


「キミとの戦績はオレの二敗なんだよね〜 だからこうして戦える日を楽しみにしてたんだ!」


 相変わらず敵であるというのに、陽気に接してくるツヴァイ。


「その一つは勝ちを譲られ……もう一つは俺の記憶に無い……寧ろ一勝と無効試合だと思うが?」


「そんなことないよ オレの慢心で負けた一戦と暴走したキミを止められなかった一戦……オレからしたらどっちも負けなのさ」


「意外に細かいな?」


「だから……」


 拳を構える。


 決着をつける為、ツヴァイから陽気さは消え失せ、胸に宿した闘志を燃やす。


「今度こそ……勝たせてもらう」


 倒さなくては意味が無い。敵として、戦士として、自分の為に。


 そして『魔王』の為である。


「成る程……お互いリベンジを望んでたって事か」


 この場を逃げる事選択肢など、存在しない。


 この戦いは『お互い』が望んでいたものである。立場など関係なく、かつての屈辱を払う為に必要な戦いだった。


「我が名はツヴァイ 魔王三銃士の『闘士』がお前を倒す」


「だったら俺も名乗ってやる……二代目聖剣使い『優月ユウヅキ リン』がお前をぶっ倒す!」


 真正面からツヴァイが接近する。


 放たれた拳を、敢えて聖剣を出さず、リンは『素手』で受け止めでみせた。


「よく止めたね 本気だったんだけど」


「当たり前だ 俺も本気なんだからな」


「嬉しいよ……ッ!」


 自然と笑みが溢れる。


 強くなった聖剣使いとの戦いに、一切の手加減無く拳を振るえる事が嬉しかったからだ。


 リンの身体は硬化し、たとえツヴァイの一撃であってしても傷つける事は容易では無い。


 拳を叩き込み、蹴りを捻じ込む。


 以前のリンであれば耐える事は出来なかった。最初の戦いでツヴァイが本気を出していれば、呆気なくリンは負けていただろう。


「聖剣を出しなよ! 本気だって言うならさあ!」


「出させてみな? 難しいと思うがな」


「大口叩くのは変わらないか!」


 全力の一撃が叩き込まれた。


 リンの両腕を砕き、身体を防ぐ手立てを失う。


「もらったぁ!」


 そのまま砕かれた腕ごと蹴り飛ばし、直撃を受けたリンは、壁へと激突する。


「この程度な訳ないだろ!? 伝説の力を見せてみな!」


「……お前はこの程度か・・・・・?」


「なんだって?」


 立ち上がり、両手に聖剣を構えていた。


 砕いた筈の両腕は既に治り、傷を負った様子は無い。


「……聖剣の力かい?」


「俺の身体は全ての九つ全ての聖剣の力が宿ってる たとえ聖剣を『出していなくても』使えるのさ」


 傷を癒す力は木の聖剣『ローロード』の力である。


 だが今構えている聖剣は、火の聖剣『フレアディスペア』と、土の聖剣『ガイアペイン』の二つ。


 リンもツヴァイと同じく、闘志を燃やす。


「覚えてるだろ? お前と戦った時に使った二振りだ」


 たった二つの聖剣であの時リンは戦い、力の差を思い知らされた。


 無力な自分を思い知らされた。自分の力の無さに打ちのめされたあの戦いを、リンは胸に刻み込んでいた。


「全力でこい……叩き潰してやる」


 初めて味わった『敗北』を、この戦いの勝利で塗り潰す。


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