第176話 聖剣使いということ

「やあ お疲れ様二代目くん」


「初代……聖剣使い」


 バトルルームから出ると、ここには居なかった『もう一人の聖剣使い』が居た。


「君の戦いぶりは拝見させてもらったよ」


「ここに用があったのか それとも俺に用があるのか?」


「……中庭の方に行かないかい?」


 そう誘われ、リンはそれに応じた。


 中庭は兵士達や技術者達のリフレッシュフロアとしても機能しており、機械に溢れたギアズエンパイアにおいて、数少ない花などが植えられた憩いの場である。


「ずっと話したいと思ったいた」


 中庭にベンチに腰掛け、しばらく黙っていた二人だったが、最初に口を開いたのは初代聖剣使いの『リン・ド・ヴルム』であった。


「俺もだ……いざ出会うと話すことも思いつかないが」


 丁度今は誰もいない中庭。話すのにはうってつけではある。


「わかるよその気持ち いざその時になると何を言えばいいかなって」


 特別話すのが得意ではないリンからすれば、今の二人っきりの状況で何を話せばいいか思いつかなかった。


「……なんで『サンサイド』に帰らなかったんだ?」


 とりあえず最初の疑問を投げかけてみた。


 リンが最初に訪れた土地である『太陽都市 サンサイド』へと何故帰らなかったのか、旅に出てから二十年間どこで何をしていたのか、リンの一番最初の疑問であった。


「バトラーは……元気だった?」


「元気すぎて化け物かと疑うほどだ」


「それは良かった……道に迷ってね」


「は?」


「僕方向音痴なんだよね だからどうしてもすぐには帰れなくて……そしたら最長記録更新の二十年帰れませんでしたとさ」


「連絡ぐらい出来ただろう……」


「いや~僕機械も音痴だから!」


 自分と同じ顔をした大英雄が、情けない笑顔を見せて笑っているのを見て、頭を抱えてしまう。


 これが初代聖剣使いなのかと、同じ顔なのが恥ずかしく思ってしまうリン。


「……悔しいよ 僕が留守の間にサンサイドが襲われてしまうなんて」


 あの場にいれば、また変わっていたのかも知れない。


 魔王軍の襲来で大きな被害が出た。リンがこの世界に迷い込んでいなかったら、今頃どうなっていたのかわからない。


「サンサイドの王として……君には感謝しなくてはならないね」


「今更どうでもいいさ 強いて言うならサンサイドに戻ってやれ」


「そもそも僕が王なんて器じゃあないんだよ! いくら僕が英雄だからって王様が務まるとは限らないだろう!?」


「知らんわ」


 興奮気味に立ち上がり、言い訳を熱く語る。


「僕は元々サンサイドの下級兵士! それが今じゃあ英雄だの王様だの押し付けられてさ! 困ったものだよ!」


「アンタの性格に今俺が困ってるよ」


 重いため息を吐くリン。同じ顔でそんな事を言われると、違和感が凄いのだ。


「元々は旅人で……サンサイドのお姫様に一目ぼれして兵士になったんだ 中々ロマンチックだろう?」


「聞いてない」


「つれないな……まあ不純な動機だよね 旅好きだから旅をしているのもあるけど……『しがらみから抜け出したい』って感情もある 本当に王様失格なんだよ」


 儚げにに笑う英雄。伝説として語り告げれる英雄も、蓋を開けてみればただの『人間』だった。


 立ち向かうどころか逃げ出したいと、情けない自分を奮い立たせて戦っていた。


「ツケを払う時が来たのさ かつての英雄がもう一度この世界の為に戦おうってね」


「だから賢者の石を集めたのか」


「預けていた賢者の石……知ってる? 賢者の石は元々『九賢者』の力だって」


 図書館などで調べた時に知った。


 強大な魔力を持つ賢者が、自らの魔力を石にした物が『賢者の石』なのだと。


「預けていたのはね……彼らの繋がり・・・がある地だったんだ」


「繋がり?」


「故郷だったり所属だったり 縁がある場所だよ」


 今まで気にしていなかったが、そいう理由があったのかと驚かされる。


「彼らは大切な『友人』だ だから役目を終えた彼らの力を預けていたんだ」


「それが必要になった」


「魔王軍のせいでね」


 平和となった筈のこの世界が、再び脅かされることとなった。


 だから賢者の石を集め始めた。


「最期まで隠居してるつもりだったのに 御老体を労わってほしいよ」


「……アンタと同じ顔の俺にその言葉は禁句だぞ」


 いくら見た目は若いままだからといって、十六歳と百歳越えを一緒にして欲しくなかった。


「それはそれで失礼じゃないかい?」


「何でだろうな……同じ顔がそうさせるのかもな?」


 鏡合わせのようで、まるで双子かと間違える見た目。


 年齢も性格も違うが、親近感が湧いてくる。


「君は今まで良く頑張ったね 異世界からの転移者なんて僕始めて会ったよ」


「何度も会ってたまるか……いや今の俺の境遇的には居てくれないと困るのか」


「帰る方法は知っているの?」


「一応な 神様との約束だ」


「神様とも知り合いなのか……君は本当にイレギュラーだね」


 改めて言葉にされると、確かに凄い事だなと今更気づかされるリン。


「……君は謂わば『部外者』だ 本来は干渉する事の無い存在」


 理由はわからないまま、この世界に迷い込み、そして巻き込まれた。


「君は良くやったよ だからね……」


 この世界を救うべきは、果たして誰なのか。


「持っている賢者の石を……『全て渡すんだ』」


 本来の賢者の石の主。初代聖剣使いが二代目であるリンへと言う。


「……一緒に戦う選択肢は?」


無い・・ 君に聖剣使いの肩書きは重すぎる」


 賢者の石を差し出された手を、リンは払う。


断わる・・・ 急に出てきて今度は賢者の石を寄越せだと? 随分勝手じゃあないか?」


「申し訳ないと思うよ でも君の実力を見てそう判断した……君は『弱すぎる』」


「なんだと……?」


 率直な感想。それが初代聖剣使いから見た二代目聖剣使いの実力であった。


 バトルルームでの戦いぶりと、機龍を倒す為に使わず負えなかった闇の聖剣『ダークイクリプス』に侵蝕された姿を見て、結論付けた答えだ。


「荷が重過ぎるとは思わなかったかい? 役者不足だと僕は思う」


「悪いがお断りだ 俺が魔王を倒さないと神が元の世界に帰してくれない」


「僕が倒しても結果は同じだろ? 神様には僕が説得してあげるからさ」


「……話しにならないな」


 ベンチから立ち上がろうとした時、突然首元へと『聖剣』を突きつけられる。


(アクア……シュバリエか?)


 まるで透き通った水の様に美しい、水の聖剣『アクアシュバリエ』である。


「これで君は一度『死んだ』 こんな簡単に殺される子には任せられないよ」


「ふざけるな!」


 突き立てられた聖剣から離れ、直ぐにリンも聖剣を呼び出す。


「フレアディスペア!」


 火の聖剣『フレアディスペア』を握り、初代聖剣聖剣使いへと振ろうとした時。


(いない!?)


「これで『二度死んだ』」


 リンの背後に立たれていた。


 再び突き立てられた聖剣。それは風の聖剣『ゲイルグリーフ』である。


「くっ!」


「そして……」


 反撃に出ようとした時にはもう遅い。


 背後へ斬り払ったがそこにはいない。一瞬でその場から離れ、初代聖剣使いの雷の如く轟く一閃で、リンは斬り払われた。


「ボルトラージュ……これで『三度目の死』だ」


 雷の聖剣『ボルトラージュ』による一撃を受け、身体が痺れてしまう。


(コイツ……ッ!)


 格の違いを思い知らされる。


 同じ聖剣使いとして、同じ土俵に立つ者同士の二人。


「調子に乗るなよ!」


 もう一つの聖剣である土の聖剣『ガイアペイン』を呼び出し、二振りの聖剣で相手をする。


「これでどうだ!」


「……どうもない・・・・・


 初代聖剣使いは、ボルトラージュ一本で相手をした。


 二本の聖剣に対して一本の聖剣。分が悪いのは当然一本の聖剣である。


(……押し込めない!?)


 一振りの聖剣で、全く引けを取らない。


 それどころか押されているのは二代目の聖剣使いである。


「これで『四度目』」


 聖剣片手に振り払われ、そのまま斬り裂かれるリン。


「ガハッ……ガッ!」


 吹き飛ばされ、痛みを堪える。


「うん 流石の耐久度だね」


 土の聖剣の力で硬化していなかったら危なかったであろう。


 何故なら今の一撃は『本気』であったからだ。


「随分……手荒いな?」


「君が悪いんだよ? 素直に渡してくれないから」


「残念だったな……ますます渡す気が無くなった」


「……これで『五度目』」


 倒れ付すリンに、最後の聖剣『ライトルリジオン』で貫く。


(硬化した……俺の身体を!?)


「君はローズロードを持っている 再生するさ」


 木の聖剣『ローズロード』の力があれば、傷は塞がるであろう。


 これで五度目。殺す気であれば宣言どおり五回も死んでいる。


「君は今『聖剣の数だけ死んだ』 つまり聖剣の加護が有ったとしても……君の集めた賢者の石ではその程度の実力だと証明されしまったね」


 数々の窮地を、リンは聖剣のおかげで切り抜けてきた。


 だがそれも、ただ『運がよかった』に過ぎない。


 純粋な力の差の前では、こうして簡単に覆ってしまう。


「猶予を上げよう 明日の早朝にバトルルームに来たまえ」


 考える時間が与えられる。聖剣を差し出す為の時間を。


もう時間が無い・・・・・・・……魔王軍との戦いに勝ちたいのであればどうするべきか? なにが本当に正しいか? よく考えるんだ」


「俺がもし……渡す気が無いって結論を出したら?」


「力尽くでわからせる……たとえ死ぬ事になっても・・・・・・・・


 そう言って二代目を残し、初代聖剣使いはその場を離れていった。


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