第136話 異世界からの眠り姫

「量産コストはどうなってるんだコイツら!」


 次の賢者の石がある『ド・ワーフ』へと向かう聖剣使い一行。


 だが、その道中は決して楽なものでは無い。


「せいぜい五体六体だったというのに……今回は二桁更新でござる」


「製造し易くなってるってことか……クソ!」


「どけどけガラクタ共! 数揃えりゃあ勝てると思うなよ!」


 ド・ワーフへ向かう道で、何度も同じ様な場面に出会す。


「まあ勘違いじゃあなけりゃあ 前よりも個々の能力は落ちてる気がするねぇ」


「同感 見た目も人に擬態させて無いしね」


 あからさまに機械ですという様に、見た目は内部の機械が剥き出しで、コードやパーツの類が目視できる。


「質より量を優先しだしたって事なんですかね?」


「さあな……弱いといっても武力を持たない人たちからしたら充分な脅威だとは思うが」


 物資を運ぶ荷車を執拗に襲う機械兵。


 現状魔王軍による仕業だと断定出来るものは無いが、その手口から間違い無く魔王軍の手によるものであろう。


「らちが明かない……全員俺から離れろ!」


 最初は刀で応戦していたが、機械兵を相手にするには些か数が多すぎる。


 刀を納刀し、代わりに手には賢者の石が現れた。


「いくぞ……『アイスゾルダート』」


 氷の賢者の石が剣となり、リンの手に握られる。


「形態変化 槌式つちしき『 アイスゾルダート』」


 剣は大槌となり、そのまま勢い良く地面へと叩きつけた。


「砕けろ……『氷山一角ひょうざんいっかく』」


 機械兵達の足元に、一斉に氷の剣が現れ、その全てが山の様にして体を貫き壊す。


「……ふぅ」


「お見事二代目 賢者の石の扱いに慣れてきたみたいだな」


「多少だがな……前の様に後遺症の休眠は必要なくなりはしたが倦怠感は残る」


「それを補う為の爺様の刀でござる 斬れ味の方はどうでござるか?」


「問題無い 一応後で刃こぼれしてないから見といてくれ」


 とりあえずの増援は無く、その場を切り抜けられたリン達。


 乱戦になりはしたものの、これまでの戦いから得た経験で、連携をとるのが容易になっていた、


「この調子ならなんとか辿り着けそうね」


「ああ……チビル 敵の数は何体いた?」


「ピッタシ五十体 最初の十倍だな」


「その分能力が落ちているとはいったものの……それだけの数が安定して製造できるとなると厄介だ」


「そもそも何だってこんなにココ・・に配置されてたんですかね? 物資を襲うだけなら前の方が良かったんじゃあ……」


「お? 赤髪にしては真っ当な事言うじゃねえか」


「何だとグラサン電気オタク」


「何だよ真っ平男女」


「こら喧嘩しない! でもレイの言う通り幾ら製造が容易になったのだとしても流石に過剰だわ」


「そうだな……実験段階か それともここで俺たちを待ち伏せていたか」


 レイと雷迅の喧嘩が勃発していたが、とりあえずは無視して考える。


 確かに物資を襲うだけであれば、これ程の数を揃える必要はない。

物量で押すのも手ではあるが、一ヶ所に集める戦力としては過剰である。


「もしかしたらド・ワーフで戦争を起こす準備でもしているのでござるかな……大丈夫でござったか?」


「はい……助かりました ありがとう」


「おお! もしやド・ワーフの住人では? 初めて見るでござるよ」


(ドワーフ……確か小人の種族の事だったか 名前通りだったって事か)


 荷車から降りてきたのは、中年の見た目に反して、その背丈は小さく、幼年期程の身長である。


「おお! ちっさいオッサンだ!」


「ちょっとレイ失礼でしょ!」


「ハッハッハ! 珍しい種族ですからな 珍しく思われる人は多いですよ」


「って事はこの物資はド・ワーフに?」


「そうですよ 我々ド・ワーフの者達も魔王軍との戦争に備えなくてはいけない時が来てしまったようで……」


「ってことはアンタ達もいずれは『ギアズエンパイア』に招集されるってことかい?」


「左様ですな 魔王軍の脅威が他人事で無くなった以上 戦う覚悟をしておかなければなりますまい」


「よく言った! ちんまいのに立派なもんだぜ!」


「お前も失礼だな」


 気に入ったのかドワーフの背中をバシバシと叩く雷迅。


 そしてド・ワーフの出身の者であれば丁度良いと、道案内を頼む事にした。


「我々もド・ワーフに向かう途中でして……道案内をお願いしてもよろしいでしょうか? 勿論それまでの道中は護衛をさせてただくという事で」


「あなた方もド・ワーフへ? 一体どの様なご用件で?」


「おいおいこの顔が目に入らねえってか?」


「俺の顔を印籠代わりにするなレイ」


 リンの顔が初代聖剣使いと同じ顔をしている事を良い事に、勝手に顔パス扱いをされるリン。


「ああ……言われてみればその顔は見た事がありますなぁ」


「おいおい反応悪いぜ? オレだって人目見て伝説の聖剣使い様だってわかったんだぜ?」


「お前最初写真見て判断しただろ」


「ゲッ? 覚えてやがった」


「申し訳ない ド・ワーフの外の世界には詳しくないもので……」


「オレ様聞いたことあるぜ! ドワーフって種族は他種族との交流があんましないって その種族だけが集まって出来たのが『ド・ワーフ』だって」


「おお博識な小悪魔がおられるのですね 感心です」


「へへへっ!」


 褒められてご機嫌のチビル。羽をパタパタと羽ばたかせて嬉しさが表れる。


「ここで立ち話も何ですし早速ド・ワーフへと向かいましょう 私も早くこの物資を届けたいので」


「そうしましょう 護衛はお任せください」


 話もまとまり、主発するリン達。


 その道すがらドワーフの男は、リン達が機械兵達について話していた話題の事を話してくれた。


「先程話しておられましたが……おそらく奴らが集まっている理由は『結界』で入れなくて待機していたのではないでしょう?」


「『結界』……ですか?」


「はい 昔から我々の種族は警戒心が強く 他種族との関わりはあまり盛んではなかったのです」


 それ故同じ種族間だけで集まり、他の種族が入らぬよう『結界』が張られた。


「あれ? だったらオレ達は入れなくない?」


「ご心配なく 私と一緒であれば問題ありません」


「ほう? では拙者達がもしド・ワーフの住人抜きで入ろうとしたらどうなったのでござるか?」


「勿論あの機械と一緒で入ることはできなかったかと……あっ! 着きましたよ!」


 馬車を走らせ、森の中へと入っていったその先に、家としては小さいが、それでも綺麗な町があった。


(家のサイズもドワーフサイズが基準か……まるで御伽話の町並みだ)


 以前にリンは魔王三銃士の一人である『アイン』から、このド・ワーフに『異世界からの眠り姫』がいると聞いていた。


「ではこのままお城までお連れしましょう あの真ん中にそびえているのが我々の『姫様』が休まれる場所」


「姫様?」


「はい 我々の種族は手先は器用なのですが魔法はイマイチでして……ですがお城に住まわれる姫様は違います ドワーフではありませんが姫様がこの国いる間は結界が維持されるのです」


 そのまま城へと案内され、城にいた兵士達にリン達の事を紹介してくれた。


「ではこちらへどうぞ聖剣使い様 他国からも聖剣使い様がいらっしゃる事は聞かされておりましたので準備はしておりました」


「姫様か〜どんな人ですかね?」


(アインが言っていた事が本当ならその姫が『異世界からの眠り姫』……か)


 遂にリンは、自分と同じく異世界からの迷い人である『異世界からの眠り姫』と対面する。






















「……ユキ?」


 玉座で眠る『異世界からの眠り姫』の顔を見て、リンはその人物の名を零した。

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