第135話 思い残す事

「ふぅ……報告終わりっと」


「あーつまんなかった」


「そりゃあ状況報告するだけなんだからつまらないでしょ」


「せめてアニキと一緒だったらなー」


「はいはいごめんなさいね私で」


 物資を運ぶ荷車を襲われているところをリン達が助けた事で、ここギルド街への調達を成し遂げる事ができた。


 だがその時の状況に加え、敵の正体や数、それにその時に出た被害報告等、必要な情報をこのギルド街の一番の存在である『ギルドマスター』へと伝えなくてはならなくなった。


「まあいいや! 終わったことだしこれでアニキに会いに行けるぜ!」


「レイは本当にリンのこと好きよね」


「当然! アニキはオレの命の恩人なんだからな アニキあってのオレなんだよ!」


 自慢げに語るレイを見て、シオンは羨ましく思う。


(私もこれだけ真っ直ぐに言えたらなぁ……)


 自分の立場上リンに言えないだとか、歳が五歳も離れているからだとか、言い訳ばかり思いつくシオン。


(結局は勇気が無いだけなのよねぇ……)


 自覚しているからこそ、対処法など無い。


 ただ『一歩を踏み出す』としか言えないからだ。


「レイはさ……リンが元の世界に帰ったらどうするの?」


「ついていく! ……って言ったんだけどダメだって言われちゃった」


(言ったんだ)


「アニキがさ『俺とお前は文字通り住む世界が違う だから元の形に戻るだけだ』って」


 シオンにも話した事である。


 そもそものリンの旅の目的は『元の世界に帰る事』であり、賢者の石を集めるのも、魔王軍と戦う事になったのも、リンにとって本来関係の無い事。


「だから一分一秒でも側にいたい アニキとの思い出を一つでも多く作りたい」


 レイはレイなりにリンの考えを尊重し、自分の思いを伝えつつ割り切っている。


「……強いね レイは」


「フフン! 褒めろ褒めろ! 何もやらないけど」


「大丈夫 期待してないから」


「それはそれでムカつく」


 ちょっとした女同士の会話を楽しむ二人。


 噂の彼はギルドの中にいる。


「アニキいるかなぁ……って どこ行くんだよシオン?」


「私は雷迅のとこ行ってくる テントとか買っとかないと可哀想でしょ」


「そっか あいつこのギルド街出禁って言ってたもんな」


「そういうこと もしリンに私の事聞かれたらそのこと伝えておいてね」


「あれ? お前アニキと魔力で繋がってるから自分で連絡取れるんだろ?」


「少しでもレイとリンの二人っきりの時間を邪魔したくないだけ ごゆっくりね」


「何だよ気が気が利くじゃんシオン!」


「褒めても何もあげないわよ 私も」


 背後のレイにヒラヒラと手を振って、そのまま雷迅の元へと向かうシオン。


 先程言ったように、雷迅の為に野宿ができるように道具一式を持って行くのだが、それだけが・・・・・目的では無かった・・・・・・・・


 雷迅には用があったのだ。


「はい 一日分の食糧とテント」


「何だ何だぁ? わざわざ用意してくれたのか蒼髪」


「蒼髪じゃなくてシオン 良い加減覚えなさいよ」


 日も落ち始めた為火を炊こうとしている雷迅の元へ、キャンプセット一式を持って来たシオンが到着する。


「……兵士さん達の遺体 綺麗にしてくれたのね」


「綺麗にしたって言ってもただ適当に集めといらただけだぜ?」


「充分よ ありがとう」


「そんで? お前がわざわざ一人で来たのはコイツ・・・か?」


 雷迅の首に付けられた首輪は、シオンが使える『アクアガーデン』の王妃『ピヴワ』との通信機になっていた。


「話が早いわね 早速繋いだちょうだい」


「へいへいどうぞどうぞ」


 面倒くさそうにしながら、雷迅は首輪についているスイッチを押す。


 最初はノイズ音だけだったが、次第にあちら側と繋がった。


《あーあー 聞こえておるかのう聖剣使い》


「王妃 今ここには私しかおりません」


「いやオレがいるんだけど」


《ん? お前らだけか? 他の者達はどうした?》


「現在別行動中です なので込み入った内容・・・・・・・であっても問題ないかと」


《ならば気兼ねなく……先にお前から報告をせい あの後どうなった?》


「はい 『トールプリズン』付近にある洞窟内で魔王と接触 抗戦となりましたが残念ながら力及ばず 我々は撤退を余儀なくされました 幸い犠牲を出さずに済みました」


《先ずはその事を褒めるべきであろうな よくぞ生き残ったものだ》


「ありがとうございます 王妃」


(この幼児王妃……こんな真面目に話せたんだな)


 流石に空気を読んで口には出さなかったが、雷迅は心の中で感心していた。


《それと……ええい! やはり顔が見えんと話しづらい! なんか映すための壁になる物はないのか!?》


「では今からテントを立てますので少々お待ちを その中であれば映し出せますでしょう」


《ん? お前ら今どこにおるのだ?》


「只今『ド・ワーフ』付近にあるギルド街の外です 雷迅は前に街で暴れたとかで中に入れないとか」


《ブッハッハッハ!? なんじゃそりゃあ! 傑作じゃな!」


「テメェロリ王妃!」


 心の中で失礼な事を考えていたら、代わりに直接失礼な事を言われる雷迅。一応はおあいこである。


《まあそんな事はどうでも良い ド・ワーフの近くという事はそれで漸く賢者の石が四つめか》


 早速テントを立て、中で改めて話を進めた。


「はい……ですが最悪な事に 洞窟内で得た『神話の力』で魔王は更に力をつけてしまったようです 今のままでは聖剣使いに勝ち目は無いかと」


《最近は妙な連中も増えたようだな 襲ってきた魔王軍と交戦したがまるで不死身のようであったとか》


「どうやら『機械技術』も手に入れた様子 これまで以上に苦戦を強いられると思われます」


 現状どれだけ機械の戦力を有しているかは不明だが、早いうちに手を打たなくては、戦力差にも現れてしまう。


《ただでさえ魔界の連中は個々が強力だというのにまったく……少しは手を抜いて貰いたいな》


「仰る通りです」


《……急がねばな 今はまだ大きな戦は起きておらんがいつ何処が狙われるかもわからん》


 現在リンの持つ賢者の石は、次の場所の賢者の石も含めれば四つ。


リン・・の持つ賢者の石は四つ 全盛期に比べればおおよそ半分の力か》


「たとえ賢者の石が揃ったとして どれだけ通用するのでしょうか?」


「今はまだ完全では無いが揃いさえすれば『最強』だ 仮にも竜王とさえ呼ばれておったのだ 人類最強の力が揃うのも近い》


「リンに……聖剣使いに伝えるべきではないでしょうか?」


《必要ない 第一伝えたところでどうなる?》


「ですが……」


《少しでも外部に漏らす情報は減らしたい その事は旅立つ前にも伝えた筈だが?》


「……はい」


「何だよ隠し事か?」


 何やら伝える伝えないと、知らない話を目の前でされる雷迅。


《ああそういえばおったなお前》


「いたわ!」


「この話はなかった事に 私も街に戻ろうと思います」


《わかった 細かい事は雷迅にでも聞いておくかな 一応》


「覚えてろよ……この忌々しい首輪を外したらぶっ殺す」


《ほうほう? やれるものならやってみるが良い若僧 伊達に長生きしとらんところ見せてやろう》


「先ずは威厳ある見た目を変えろ」


《なんじゃと!?》


 喧嘩を始めた二人から、シオンは何も言わずに離れて街へと戻る。


(言っても……どうにもならないわよね)


 胸に残る微かな痛み。


 その痛みを隠しつつ、いつも通り接すると決めるシオンだった。

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