秘めたる想い

第130話 束の間の休息

「おぉ!? 何だココ!?」


「なんすかここ……何すか!?」


「おい語彙力」


 リン達は戦の神『バイヴ・カハ』に助けられ後、リンにだけ魔王が一体何をしようとしているのか、そしてその結末がどうなるのかを知らせらた。


「まずは休め 此処は我がお前の記憶から創った『夢の世界』だ 何かあればそうだなぁ……『妖精』にでも頼め」


 そう言って用意された場所は『遊園地』であった。


(確かモリガンが夢を……ヴァハが妖精の伝承があったような)


 自分の知っている知識から、この場所を推測するリン。


 そもそも今リン達がいるこの世界は、以前リンが嫌々ながら引き取る事となった『呪われた魔導書』の中であると言われた。


 遥か昔に神々が下界に残したアーティファクト。神が下界に現界する為には膨大な魔力を用し、その為に魔導書を開いた者の魔力を吸い上げたていたという。


(今は賢者の石の魔力のおかげで 辛うじて現界する事ができる……か)


 都合の良い事に、賢者の石は人類史上確認されている中で最も魔力を宿した『叡智の結晶』である。


 それが今回神を現界させる為だけの必要な魔力分を、ある程度・・・・は得られたらしい。


「アニキ! アレ何すか!?」


 好奇心で瞳を輝かせ、この施設にある物が全て気になっているレイ。


「ジェットコースターだな」


 難しい顔をして悩んでいたリンだったが、レイの言葉で考え事から戻される。


「あの馬は!?」


「メリーゴーランド」


「あのバカでかいカップは!?」


「コーヒーカップだ」


「すげぇ! アニキは元の世界じゃあこんな所に住んでたんですね!」


「住んではねえよ」


 当然この世界の住人にとっては、馴染みの無い場所である。


「へぇ〜あの嬢ちゃんが神様ねぇ……」


「って事は強いんだよな? なぁ!?」


「無論でござろうな」


「折角だし楽しむこと考えなさいよ」


 全員無事に助け出され、バイヴ・カハの座る玉座の前に集められた聖剣使い一行だったのだが。


「我は神だ 詳しい事は優月リンに聞け 各々勝手に休んでいろ」


 それだけ言われてしまい、皆理解出来ない状況のまま、この場所に飛ばされていた。


「ねぇリン? ここって安心して良い場所って事で良いんだよね?」


「たぶんな ここで過ごす時間と外の時間は違うらしいから暫くここで休んでろってさ」


 ここで一日を過ごしたとしても、外の世界ではそれ程時間が経たないという事である。


「まあとりあえず……元の世界じゃあ遊園地貸し切りなんて普通出来ないんだ 興味のあるやつは観て周ってれば良いさ」


「何か高いところから落ちてんぞぉ! 面白そうじゃあねぇか!」


「あっ……あのお菓子売ってる妖精さんかわいい……」


「へ〜? 意外ねチビルったら」


「じゃあチビルそっちなぁ! オレもお菓子みてこよ!」


「拙者も其処らを観て周るでござるかなぁ〜」


 魔王軍との戦いを癒す為、皆遊園地を散策し始める。


「で? お前さんは行かなくて良いのかい?」


「アンタこそ」


 観て周るの提案したリンだが、今後の事を考える為ベンチに座る。


 するとムロウもベンチに座る。キョロキョロ辺りを見渡してはいたが、興味のある物が無かったのだろうか。


「おじさんこう……もっと酒とか飲めるような所でさぁ 若い姉ちゃんが酒注いでくれるようなところの方が落ち着くね」


「残念だったな 生憎俺はそういった場所の経験は無いから元の世界を再現出来ないだろう」


「お? そんな顔しといて酒飲め無いのか?」


「ぶち殺すぞ」


「冗談だって! まあ……十六に見えないのは本当だけどなぁ?」


「ほっとけ」


 ムロウはカラカラと笑い、いじるだけいじって満足したのか、煙管を取り出し、火をつけた。


「……悪かったな お前の力になれなかった」


 大量の魔物を相手にしていたムロウは、押し寄せる魔物を斬り伏せ、魔物をテイムしていた『ドライ』を倒すつもりでいた。


「やっぱ魔王三銃士ってのは曲者揃いだなぁ〜? 全員無事だったのは運が良い」


「これから先……アイツらはまた現れる」


「そして何の罪もない人達を殺されちまう……だろ?」


 魔王は新たな力を手に入れた。


 あの『神話の剣』に『異形の姿』。ただでさえ魔王は強力な力を持っていたというのに、更に強くなってしまった。


「絶対に……倒す」


「……少しは吹っ切れたのかい?」


 氷の賢者の石アイスゾルダートの副作用もあったとはいえ、リンの感情は『憎しみ』に囚われていた。


「どうだかな……絶賛迷子中ってところかな」


 憎しみの果てに待つのは『灰色の世界』だと、アヤカに言われた。


 リンは雷迅に『死にたがっている』と言われた。


「俺は……憎しみを魔王軍にぶつけた 何の解決にもならないと知りながら 殺された人達のことが頭から離れなかった」


 そうしなければ、リンは自分を保つ事が出来ないと、心が押し潰されてしまいそうに、砕け散ってしまいそうになっていたから。


「俺は……間違ったんだろうな」


 手当たり次第に魔王軍を殺した。


 殺す度に、自分の心が何も感じなくなっていくのに気づきながら、やめられなかったのだ。


「後悔してるんだろ?」


「ああ……」


「だったら『生きて』……答えが出るまで考え続けな まだ答えを出すのは早計だぜ」


 その言葉は暖かく、リンを思ってこその言葉であった。


「考えて考えて……それでもわかんねえなら一旦やめちまえ お前のやった事はお前自身で決着つけるしかねえからな 生きてる限りはそれが出来る」


 奪われたもの、奪ったもの、それはもう返ってくることは無い。


 それを『赦してくれる』人がいないのなら、自分で探すしか無い。


「だったら……気分転換でもししてくるか」


「おうおう行ってくれ行ってくれ おりゃあ一人でのんびりしてますわ」


 ベンチに寝そべって休息を始めるムロウ。


「アンタは充分力になってるよ」


「そりゃあ……良かった」


 照れ臭かったのだろう。素っ気なく返した後はそのまま何も言わなくなった。


 再現された元の世界。子供の頃に行ったきりの遊園地を再現されるとは思わなかったリンは、懐かしさを感じながら辺りを観て周る。


「あっリン! 今一人よね?」


「シオンか 何か気に入ったか?」


 散策を始めリンの前にシオンが現れた。


 手に持ったパンフレットとにらめっこするシオン。視界に映ったリンに声をかけてきたのだ。


「う〜ん……ゆうえんちぃ? だったけ? 遊ぶ場所だってのはわかるけどどう遊ぶのかわからなくて」


「まあ俺も行くことなんて無いしな」


「そうなんだ てっきり思い出の場所なんだとばかり……」


「……無い訳では無いぐらいだ 行ったのはもう小さい時以来さ」


 この遊園地は過去に一度だけ、遊びに来た思い出の場所・・・・・・


 子供の頃、外で遊び慣れないリンが、最初に楽しさを教えてもらった・・・・・・・場所。


「俺で良ければ案内ぐらいなら出来る 一緒に行くか?」


「えぇ!? 良いの!?」


「そんな驚くこともないだろ」


(これってあれよね!? デートよね!?)


 思いもよらぬ申し出に、喜びが顔に出てしまいそうなのを必死に抑え、その幸運を噛み締めるシオン。


「気になったのとか無いか? 有ればそこに行ってみるぞ」


「う〜んアレは……危なそうだし アレも……危なそうだし」


「流石に人の命を奪うような施設は無いから」


(っていうか怖そうなのよねぇ……あっあそこのお城綺麗ね)


 ふと少し離れたところにある施設に目をつけるシオン。


 絶叫系アトラクションはどうにも乗り気になれなかったシオンは、とりあえず怖くなさそうな施設から行く事にした。


「じゃあ行くぞ あそこ中は暗いから気を付けろよ」


「え? 何で暗いの?」


 シオンは選んだ事を後悔する。


「嘘つきぃ……」


「別に死にはしないだろ」


「嘘よ! アイツら私達を殺す気で来てたわよ!」


 シオンが最初に選んだのは『お化け屋敷』であった。


「あなたの世界って幽霊を放し飼いにしてるだなんて……なんて恐ろしい世界なの」


 とんでもない誤解である。


 お化け屋敷の事を何も言わなかったのを気に病んだのか、リンは申し訳なさそうにしていた。


「悪かったな お前が怖いの苦手だったとは知らなかった」


「別に苦手じゃありませんし ただちょっと腰抜かすかと思っただけだし」


(それで隠してるんだろうか?)


 顔を膨らませてあからさまにふてくされシオンに、リンは機嫌を直してもらう為の提案をした。


「じゃあ……アレでも乗るか?」


「……アレって?」


 リンが指を指したのは『観覧車』であった。


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