第125話 魔王邂逅

「お前が……お前が魔王だと……?」


「そうだ 『サタン・ワーグナー』が──お前の討つべき『魔王』だ」


「──お前がぁ! そうだったんだなぁ!?」


 リンの全身に魔力が一気に流れ込む。


 体内にある三つの賢者の石が、共鳴するかのように、リンに力を与える。


「それで良い! 憎しみを糧としろ! お前のその感情は理解できる!」


「ふざけるなぁ!」


 初めは『ワーグナー』と名乗り、今この場で『魔王サタン』と名乗った。


 その名はこの世界の征服を目論み、戦争を起こしている元凶。


「殺す! お前を殺して全てを終わらせる!」


「やってみろ……無理であろうがな?」


 氷の賢者の石『アイスゾルダート』の力で、右手に氷の剣を造り上げる。


 氷の剣を片手に、リンは斬り込む。魔王はその場から逃げようとせず、真っ向から迎え打つ。


「リン殿! 挑発に乗っては駄目でござる!」


 そう呼びかけるアヤカの声は、リンに届いてはいなかった。


「さあ見せてみろ聖剣使い! どれほどの強さか見定めてやろう!」


「勝手にやってろ! そのまま殺してやる!」


 振りかぶった氷の剣が、魔王を捉える。


 が、一撃が魔王へ与える事はできない。


「氷で武具を造り上げる力……か どれだけ精巧に造ったとて所詮は氷だな」


 氷の剣は、サタンが放った閃光により砕かれる。


「紛い物の剣で俺に挑むつもりか!? 舐められたものだなぁ!?」


 再び閃光が放たれる。次の標的はリン自身だ。


「くっ!」


 咄嗟に氷の盾を造り出し、魔王の攻撃を防ぐ。盾はその一撃を耐えるのが精一杯だった。


「剣だけで無く盾も造れるのか? それはまた良いものを見せて貰った」


 リンは間合いから離れ、態勢を立て直す。


 逃すまいとサタンは再度閃光を放つが、リンはその攻撃を躱した。


 だが、目標を再度捕捉しリンへと襲いかかる。


 そんな追尾する閃光に対し、リンは二本の氷の剣は造り出して、投げ付ける。


「『投雪粉砕』」


 光に触れると同時に、氷の剣が爆発を起こした。


「氷の剣に『火』の属性を付与したか! 聖剣を出さずとも二つの属性を操るとはなぁ!」


 そしてもう一度、二振りの氷の剣を造り上げ、今度は魔王へ向けて投擲する。


「『シュトラール・シルト』」


 そう唱えると魔王の前に、光の盾が投擲を防ぐ。


「そろそろ本気を出したらどうだ!? この程度で消耗を誘う事など出来はしない!」


 背後から抜刀したアヤカが斬りつける。


 が、アヤカの攻撃は織り込み済みだったのか、難無く躱されると同時に、鋭い蹴りの一撃をアヤカに叩き込まれる。


「ウグッ!?」


「安心しろ お前を忘れていた訳では無い」


「村正流脇構え……『朧車おぼろぐるま』!」


 たとえ不意打ちに失敗したからといって、アヤカがそう簡単に引き下がりはしない。


 アヤカの強烈な技が炸裂し、魔王へ叩き込む。


「……手応え無しでござるな」


「そういう事だ」


 アヤカの刀は、たったの指二本・・・によって止められる。


「ここで刀を折るのは容易いが……業物を折ってしまうのは忍び無い」


「もう拙者の心は充分折れたでござるよ?」


「そのようだな……少し眠っていろ ムラマサの孫娘よ」


 拳がアヤカの腹部へ直撃する。


 意識を失ったのか、アヤカはその場に倒れた。


「俺の仲間に手を出すなぁ!」


「そうせざるお得まい……お前が弱者なら・・・・・・・な?」


 リンは下げていた『紅月』を抜刀し斬り込む。


「馬鹿の一つ覚えの攻撃に……何の意味がある?」


 斬り込むリンへ迎撃の光を撃ち込む。


 が、その光は『妖刀 紅月』の前には無力であった。


「ほう……? 魔法を斬る・・とはやるではないか」


 それでもその余裕は崩れ無い。リンは斬り込むが、この一撃も届かなかった。


「何が目的だ……何が目的で世界征服なんてくだらない事を思いついた?」


「お前に話したであろう? 人間は己の私利私欲の為であればどれ程醜い事にも手を染める『愚者』だ 存在そのものが『悪』なのだ」


「ふざけるなぁ! お前の境遇がどうであれ! 関係の無い奴らを巻き込むんじゃねぇ!」


 受け止められた刀を無理やり押し込もうとするがそれでも届かない。


 リンは憎かった。


 目の前にいる魔王が、大勢の人達の命を奪う元凶だという事が、憎くて憎くて堪らなかった。


「聖剣使い……お前を見ていると安心するよ 俺の『憎しみ』もお前と同じなのだからな」


「節穴か? どこに同じところがあるって言うんだよ!?」


「同じだよ……行き場の無い憎しみをぶち撒けたくて堪らない 満たせぬと知りながら目を瞑り ただ『正しい』というだけで動機・・のある者にぶつけている今のお前と!」


「!?」


 訪れた『アイススポット』で多くの命を、『ルドー』によって奪われて。


 リンはルドーを殺した。


 だが、満たされた無かった。


「だからお前は殺し続けた……楽しかった・・・・・だろう? 命を奪うという事は?」


「違う!」


「何が違う? 殺せば殺す程にお前は『殺された人達への弔い』ができていると……その瞬間だけは満たされていたのであろう?」


 動揺する。


 心臓が張り裂けてしまいそうな程、鼓動が激しくなっているのがわかる。


「この程度か? これで勝ったとしても何も得るものが無いのだがな」


 何か言い返さなくてはと考えるが、リンは何も出てこない。


 魔王に言われた言葉は、それ程までにリンの心を抉ぐるものだった。


「俺は……俺は!」


「隙ありだぜ聖剣使い!」


 そんな事を考えていると、背後から不意の一撃を浴びる。


 それは魔王三銃士の『ツヴァイ』によるものである。


「ガッ!?」


「元気……じゃあなさそうだね! まあイイけど!」


「勝手に手を出すな」


「ゴメンゴメン!隙だらけだったからツイね!」


「ツヴァイ……ッ!」


「さあて! 雷迅は倒したし今度こそ聖剣使いね! 魔王は『聖剣』の準備でもしてれば?」


「フン……まあ良いだろう」


 そう言ってその場を離れようとする魔王。代わりにリンの目の前にはツヴァイが立ち塞がる。


「まだやれるよね? だったらやろうよ! 壊れるまでさぁ!」


(チクショウ……さっきのはなかなか効いたな)


 完全に予想外の攻撃であった為、受け身すら取れずに吹き飛ばされてしまった。


 よろよろと立ち上がり、以前ほぼ完敗してしまったツヴァイとの相手をしなくてはならなかった。


「そんじゃあ始めよう……って まだやる気なの『雷迅』?」


雷迅・・?」


 リンの前に雷迅が立つ。


 まるで庇うかのように、ツヴァイと相対したいた。


「それは困るぜツヴァイさん アンタの相手はまだこうして立ってるんだからよ」


「あのさぁ……退いてくれない? 一応雷迅って魔王軍なんだからその自覚持って欲しいんだよね」


「アンタそんなの気にするヤツじゃあ無いでしょ?」


「まあね でも雷迅だって群れるのは好きじゃあ無かったでしょ? 今はその首輪のせいで従わせられてるけど 戻ってくるならそれ取ってもらえるようお願いしてあげるよ」


 そう言って退くよう指示するが、雷迅は命令を聞く必要はないと言う。


「悪いな……オレ『コッチ』につく事にしたわ!」


 雷迅は構える。


「アンタさぁ ユウヅキと戦ったんだろ? だったらもしかして気づいたんじゃあねえか? コイツがどんな思い・・・・・で戦ってるのかって」


どんな思い・・・・・?」


 不思議そうな顔をするツヴァイ。


「コイツはな……『死に場所』を求めてんだ 前に戦った時てっきりオレらと同類で戦いを楽しむ・・・・・・ヤツかと思ってら違ったぜ……二回目でわかった」


 雷迅はリンの眼を見て、感じた事を言葉にする。


「よく言うだろ? 『殺すヤツは殺される覚悟をしろ』ってな コイツは最初にあった時からそれができるヤツだったと思うぜ そして今そのタガが外れちまっただけだ」


 雷迅をよくみると、身体は既に傷だらけであり、通常その状態で立っていられる筈は無かった。


「単刀直入に言ってな! なんだかコイツの事ほっとけなくなっちまったんだわ! 危なっかしくて見てらんねえぜ!」


「……何だそりゃ」


 雷迅の言葉に『微笑み』を浮かべるリン。


「お前の拳……『泣いてた』ぜ ? お前は同じじゃあねえ・・・・・・・・・・ぞ まだ戻れる」


 その言葉に嘘は無い。リンを思い遣ってのの言葉だ。


 雷撃の鬼は信じられる仲間を得た・・・・・・・・・事で、より一層強さを増した。


「魔王軍改め! 聖剣使いの新たなお仲間! 雷迅様が相手してやんぜ!」


 かつて、リンの前に現れた敵だった男が、頼れる『仲間』に加わった瞬間である。



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