第124話 決戦の狼煙

「まったく……あの聖剣使いもイレギュラーですが その仲間も大概ですね」


「ホントホント! 爆弾使ってショートカットしてくるなんてさ!」


 魔王三銃士の二人の『ドライ』と『ツヴァイ』が、爆音のした方へとやってくる。

 

 本来の正規ルートから外れた道からやってきたシオン達にドライは呆れ、ツヴァイはその予想外の行動に笑っていた。


「それはどうも 意表を突かせてもらったわ」


「いや偶然じゃあ……」


「黙ってなさいチビル」


 シオンは辺りを見渡す。そこにはリンとアヤカの姿は見当たらない。


 それどころかこの場にいると思われていた『魔王』の姿も見当たらなかった。


「アナタ達の親玉の姿が見当たらないけど……今手が離せないご用でも?」


「そうだよ〜 内容知らないけど」


「知っていても教える必要など無いですがね」


「三銃士なんだろう? もう一人の姿が見えねえな」


 魔王三銃士であれば当然、あと一人の『アイン』の姿が見えないのも疑問である。


 ドライはまるで苦虫を潰したかのような顔つきで、その疑問に答える。


「彼も用事が……ひょっとして逃げたのでは?」


「いやいや流石にそれは……ありえるかも?」


 どうやら信用は全く無いようで、この場にいない理由は知っているが、その役目を放棄した疑惑が浮上してしまっている。


「何で聖剣使いがいないのさ? こっちは楽しみに待ってたのにぃ!」


 そしてツヴァイから同じ疑問が今度はシオン達に投げられる。


「んなもん簡単だ アニキの手を煩わせる必要なんかねぇ オレ達がテメェらを……ぶっ飛ばすんだからなぁ!」


 銃口を向け、自信たっぷりにそう宣言する。


 その強気な姿勢に、シオン達も気持ちを同じく奮い立たせる。


「いいねいいね! いい加減オレも……暴れたいからさぁ!」


 有り余る力を地面に叩きつける。その力は凄まじい。


 あまりの衝撃で、地面に大きなクレーターが現れたのが何よりの証拠だった。


 戦いに飢えていたツヴァイにとって、本命でなくとも問題無い。


 強者との戦いこそが、ツヴァイにとって最も望むもの。


 この場に集まった者たちを、強者・・として、ツヴァイは心を滾らせる。


「本気でかかってきなぁ! 全部まとめて相手してあげるからさぁ!」


「悪いねツヴァイさん……アンタとやるのはオレ一人だ」


 そう言って前に出るのは雷迅だった。


「……勝てるの?」


「教えてやんよ オレは負けるつもりの戦いなんざした事ないんだよ」


「困りましたねぇ……そうなると私の相手は三人となってしまう」


「ヤイヤイ! チビル様もいるから|四人なんだよ!」


 そう訂正するチビル。そのチビルを見てドライは嫌悪感を露わにし、チビルに問う。


「小悪魔といえど立派な『魔族』です 何故人間の味方をするのですか?」


「悪いね オレ様産まれも育ちもここ『下界』なんでね 魔界の連中に配慮なんて出来ないぜ?」


「成る程……アナタは裏切り者・・・・ですね? まだその穢れた血が残っていたと」


 ドライから魔力が溢れる。怒りの矛先はチビルにも向けられた。


「では訂正しましょう……アナタ方四人・・を殺しましょう 魔王様に刃向かう者は万死に値する」


 所持していた本をドライは開く。


「聖剣使いの為の物語しかしたためてい無かったのですが……仕方ありませんね」


 開いた本にドライは手をかざす。


「召喚術式『サモン』起動!」


 その言葉に反応し、本が輝き始めた。


 するとドライの目の前に魔法陣が現れる。

魔法陣から、大きなトカゲの姿をした魔物が姿を見せた。


「特別に『演者』を用意しました ありがたく思う事ですね」


「この魔物……もしかして!?」


「お察しの通り この魔物は私がこの洞窟で『テイム』した魔物です」


 魔法陣は一つだけでは無い。


 複数の魔法陣が幾つも現れ、その数だけ魔物が現れる。


「魑魅魍魎……百鬼夜行ってか?」


「魔物が姿を見せなかったのは アナタの仕業だったのね!」


「上質な魔物を手下につければ便利ですからね……まあ本当はアレの作戦・・・・・に必要だとか 不本意ですがね」


「ハッ! 的が多くて当てやすいぜ!」


 何匹いても関係ないと、レイは魔物を捉える。


「それじゃあ兄ちゃん 信じていいんだな?」


「利害の一致さ オレはツヴァイさんとタイマン張りたい その分アンタらは魔物相手してくれりゃあいい 信じる信じない《・・・・・・・》は後回しだ」


 まだ出会ったばかり、その上首輪を付けられ逆らえないとはいえ、魔王軍である雷迅を信じろと言われても簡単にはできない。


 それを理解してる雷迅はそう言う。あくまでもギブアンドテイクの関係なのだと。


「……っへ! わかったよ コッチは任せな」


「アナタが私に蹴り入れたの忘れてないから ここ終わったらそのケリをつけたいわね」


「お前強いんだからさ! ツヴァイのヤツにも勝てるって!」


「まあアニキと戦った中じゃあ強い方だったかな!」


 それぞれの思うところはあるのだろうが、今は関係ない。


信じてるぜ・・・・・


 ムロウは雷迅の背を叩いて、気合いを入れさせる。


 雷迅を残して皆が魔物達との戦いを始める。


「結構イイもんだなぁ……信じられる・・・・・ってのもよ!」


 全身に電気を流す。


「結局雷迅だけか……どうする? 前みたいに片手だけで相手してあげようか?」


「何すかそれ? 負けた時の言い訳の話ですか?」


「……イイねそれ!」


 ツヴァイが地面を踏み鳴らす。


「来なよ雷迅 その自信へし折ってあげるからさぁ!」


「やってみて下さいよぉ! 折る前に感電しちゃうと思いますがね!」


 魔王三銃士の二人、ツヴァイとドライを相手に、それぞれの戦いが始まった。


 それは、決戦の狼煙である。


 最深部で戦いが始まっている頃、リンとアヤカは未だに彷徨っていた。


「中々着かないでござるな……」


「そうだな……」


 暗い洞窟を進み、険しい道のりを歩んでいた。


「ぶっちゃけ地図も無しにこんな洞窟行くのは自殺行為だと拙者思うのでござるよ」


「今更だな そもそもここって地図なんてあるのか」


「どうでござるかな……古くからの洞窟には魔物の巣窟になっているでござるし 地図を作るのも一苦労だと思うのでござるよ」


「その魔物の姿をほぼほぼ見かけないがな」


 ドライの手によって多くの魔物が捕らえられ、姿を消した事をリン達は知らなかった。


「不幸中の幸いでござる ここでの戦闘はなるべく避けたいでござるからな」


「まあ危惧している事だったしな だが逆に不穏だ」


「その通りでござる だから気を引き締めて進むべきだと思うでござる」


「……その為に腕を組んでるのか?」


「安全第一でござる」


 ガッチリとリンの腕を組んだまま離れないアヤカを見て、リンは呆れる。


「歩きにくい」


「我慢でござる」


(もっとこう……アヤカには真面目な時が増えて欲しいもんだな)


「道に迷ってないか心配してきてみれば……思っていたよりも平気そうだな お前は」


 突如前方から声がし、リンとアヤカは即座に臨戦態勢に入った。


 声の持ち主が奥からやってくる。その人物は前に一度だけリンが出会った人物。


「……『ワーグナー』?」


「久しぶりだな聖剣使い その様子だと邪魔だったかな?」


 白髪に白い肌、赤い瞳が特徴的な少年。


 過去に一度とある廃村で偶然出会った少年である。


「……なんでお前がここに?」


「ついて来い聖剣使い 『ヴォルスンガ・サガ』まで案内してやる」


「『ヴォルスンガ・サガ』?」


「この『神代の魔性洞』最奥の場の名だ 『神域』と呼ばれる神々の間」


 そう言って踵を返し、歩き出すワーグナー。


「……知り合いでござるか?」


「知り合いと言うほどじゃあないが前に一度だけ……何でここにいるかはわからないが」


 こちらに危害を加える気も無く、このままでは道に迷ってしまうかもしれないという不安から、取り敢えずワーグナーと同じ道を歩むリンとアヤカ。


「ワーグナー……何でお前はここにいるんだ?」


「お前を待っていた ヴォルスンガ・サガまでの道のりに迷われては困る」


「……何故だ?」


「『聖剣』の為だ」


「こんな危険な場所にたった一人で? それはまた随分危険な真似だな」


「安心しろ 俺は一人で問題ない」


 その理由をリンは知っている。


 あの魔王三銃士の一人である『アイン』を、完膚なきまでに光の魔法で圧倒している姿を見せられているからだ。


(だとしても何故この場に来る必要がある……?)


「もうすぐ出口……いや『入り口』か 音を聴く限りもう始まっているようだが」


「……!?」


 確かに聴こえる戦いの音。リンとアヤカは急いで光刺す方へと進む。


「無事か!?」


 ツヴァイと一騎討ちをする雷迅、魔物と戦うシオン達の姿がそこにあった。


 戦えてはいるが、押され始めている。


「遅かったでは無いですか聖剣使い 先に始めさせて頂き……!?」


 ドライは突如地面に膝を着き、頭を垂れる。


「お待ちしておりました『魔王様』 この地の防衛は抜かり無しでございます」


「……『魔王』だと?」


 後ろを振り向く。


 そこには誰もいない。


「改めて……自己紹介をしよう」


 ワーグナー以外・・・・・・・は。


「俺の名はサタン……『サタン・ワーグナー』 魔界を統べる王である」


 この戦いの元凶が、姿を見せていた。



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