第104話 襲来

「ひどい目にあった」


 宿の一室で、酷く疲れた様子でそう話すリン。椅子に腰掛け、テーブルに肘をついて頭を抱える。

 テーブルの周りには仲間達も同じく座って、今日の出来事について話していた。


「まあそれだけ人気あるってことなんだから良かったじゃん」


 今日あった出来事。それは、ギルドでリンが聖剣使いだと分かると、こぞって物珍しくそうにして人が群がって来た。

 どうやら列車で助けた人達が助けられた話を街でしていたようで、広まるのも時間もかからなかったのだろう。


「それはそうとオレもサインイイですか?」


「全く……お前は本当にブレないなぁ」


(でも書いてくれるだ……)


 今日一日握手やサインに応えていたせいであろう。リンは板についてしまって、なんの疑問も持たず書いてしまっていた。


「それで? 良い情報は手に入ったのか?」


「魔王軍についてはお手上げだ 国での対処で一般人には情報が共有されていない」


「まあしょうがねえんじゃねえの? 情報が魔王軍に伝わるかも知れないんだし」


「限度がある 前から思ってたが戦争中なのに危機感が無いんだ いつ襲われるか分からないのにそんな状態じゃあ対処が遅れるだろ」


「それでリン殿はどうしたいでござる?」


 今後の方針を決めるが、どうして良いかまでは決められずにいた。


「俺には何もできないさ 街がこんな感じって事は分かっただけ儲け物だ 期待せずに済むからな」


「リンは捻くれてんな〜」


「でもアニキの言う通りだろ? 国は情報を流さないし周りは魔王軍に興味がない だったらお手上げだって」


「レイが真面目なこと言ってる!?」


「どういう意味だシオンおい!」


「この件はもう良い 俺たちでどうにかできることじゃあないんだ それ以外の情報だとギルド内にあった酒場で聞いた話だ」


 リンはただギルド内でつかまっていたわけではなかった。

 見た目に反して強面の巨漢達は親切に、ある事を教えてくれたのだ。


「なんだよそりゃ?」


「列車で襲ってきた傭兵の首謀者だ なんでも乗客の一人が行方をくらませてるらしい」


「誘拐された……っ訳ではないのでござるな?」


「ああ ソイツには同行者はいなかったそうだ だから誰かはわからん」


 そもそもすぐにリン達が倒したのだ、そのような時間はない。


「だからってソイツが首謀者かはわかんねぇだろ」


「傭兵のリーダーと同じ席だったそうだ」


 姿を消した乗客、身元不明であり傭兵と同じ席だったとなれば、怪しむ材料としては十分であろう。


「その情報は確かなのかリン?」


「教えてくれた奴の兄が駅長だそうだ そこから怪しい奴を教えてくれたらしい」


「成る程な〜」


「極め付きはソイツを最後に見た時 傭兵のリーダーと何か話してたそうだ」


「って事は黒確定かねぇ……」


「でも誰かわからないんじゃあね」


「そうでもないさ」


 首謀者は不明という事で犯人探しは諦めていたが、その場に居合わせていたのなら話は別だ。


「俺らを狙っていたのは魔王軍だ 作戦が失敗しておいて簡単に魔王のところへ帰るとは思えない。


「てことは俺らの後をついてきてたかも知れないってか?」


「可能性で言えばな」


 勿論これはリンの想像でしかない。ただし、警戒を強めるに越した事ではないであろう。


「警戒するったってこっちからは何もできねえぞ?」


「結局振り出しでござるな」


「なるべく二人以上での行動を心がけろって事でしょ? 特にリンはね」


「人気者は辛いなぁ二代目?」


「傍迷惑なファンだ」


 次にどんな刺客が送り込まれるか、覚悟しておかなければならい。


「そういう話ならオレに任せてください……」


「レイ?」


 突然立ち上がり、声高らかに案を述べる。


「このオレが片時も離れずにアニキの護衛をつとめましょう! 安心して今日の部屋割りはオレとの相部屋で!」


(この子犯人を利用して!?)


 今日はもう遅い、そろそろ話を切り上げて休むべきであろう。

 宿はシオンが確保してくれた。が、問題なのは部屋だった。


「そう言えばそうでござったな 残念ながらどこも二人部屋でこの人数だと三部屋とるしかなかったと」


「ごめんね……どの宿も変わらなくて」


「まあ無いもんはしゃーねだろ」


「そういうわけなんでアニキとオレが同じ部屋で決まり! 後は適当に決めといて!」


「どういう訳だよ」


 強引に決定しようとするレイ。当然意義を申し立てる者がいる。


「待ちなさい! 年頃の男女が同じ部屋で夜を明かすなんて言語道断よ!」


「じゃあ間をとって拙者がリン殿と相部屋で……」


「間って何よ!?」


「普通に考えて男女で別ければいいだろ」


 女はレイ、シオン、アヤカ、男はリンとチビルとムロウで一部屋でいい。


 小悪魔のチビルは、サイズ的に二人部屋の中でも問題ない。


「いやおりゃあどうせなら女の子と一緒の部屋が……」


「おっさん……」


「チビルくん 可哀想なものを見る目はやめてほしい」


「じゃあオッサンは一人部屋確定で」


「レイちゃん!?」


(俺が一部屋になりたいんだが……)


 結局部屋は男一部屋と、シオンとアヤカの部屋で別けられ、レイが一人部屋になったのだった。







 寝静まった夜。一人の男が扉を開けた。


「こんな夜遅くにどこに行くつもりだ二代目?」


 外へ出ようとしていたのはリンである。


「ムロウ……」


 夜中、周りは寝静まり同室のチビルは寝息を立てている。

 三人いる部屋で、寝息は一つ。ムロウは部屋を出ようとするリンを呼び止めた。


「何のために話し合ったと思ってる? 狙われてるのはお前だぜ」


「もし本当にいるのなら一刻も早く迎え撃つ必要がある 時間をかけて襲われるよりはマシだ」


「言ったよな 『仲間を頼れ』って」


「ああ 頼りにしてるさ・・・・・・・


 静止も聞かずリンは部屋を出ていく。


「今はまだ……頼る時じゃない」


 自分に言い聞かせる。これが正しいのだと。


 真夜中の街を巡回し、刺客が襲ってくるかどうかを確認する。

 襲ってくれば迎撃する。そうでなければ魔王の下へ帰ったと諦めて明日からは普通に過ごせば良い。


 悩みの種は早めに摘んだ方がいい。


 深夜ともなれば当然人通りなどない。元の世界ならいざ知らず、この時間までやっている店などは見当たらなかったからだ。


 リンがしばらく歩いていると、そこは広場だった。


 リンは戦うならばここだと決めた。戦うのであれば、なるべく動きやすいところが良かったからだ。


「さて……聞いているなら今が狙いどきだぞ せっかく一人になったんだから来てもらわなくちゃ困る」


「そのようですね」


 いるかどうかもわからない敵に、全く期待していなかった答えに、敵は答えた。


「ですがアナタの度胸……はたして『勇敢』と評して良いものか……ワタシは『蛮勇』と表するべきだと思うのですがね?」


「ドライ……ッ!」


 刺客の名はドライ。


 魔王軍最強の集団『魔王三銃士』。


 その中でも『軍士』と呼ばる男である。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る