第81話 強さと弱さ

 腹部を貫かれ、尚も啖呵を切るレイ。


「既に満身創痍な身体でまだ強がりを言えるのは……見上げた根性だ」


「おうよ! そいつはオレの数あるチャームポイントの一つだぜ! ヘヘッ! 惚れるなよ」


 貫かれた腹部かれ出る血を抑えながらも、強気な姿勢をレイはやめなかった。


「バカしやがって! 治せる傷も治せなくなるだろうが!」


「うっせぇ! ここでアイツに勝ちゃあ……イタタタ」


 チビルが回復魔法で傷を癒すが、完全に治せたわけではない。


 只でさえ重傷であったのにもかかわらず、自分で傷を広げたのだから。こうなってしまうのも当たり前だった。


「……では聞こうか小娘 何故お前は勝てない・・・・と言ったのだ」


 このまま倒す事は木鬼にとって容易であったであろう。戯言と聞き流す事も出来たであろう。


 だがそれをしなかったのは、魔人木鬼ききに僅かに芽生えた『興味』であった。


「あぁ? んなもんたいした話しじゃあねえさ」


 木鬼の顔を見て、レイその理由を言う。


「テメェはこの世を『弱肉強食』って言ったよな? オレもそう思うぜ 強え奴らは強えし弱っちい奴は弱い んでそれが当たり前の話で弱い奴らが悪いってな」


「それは人間には当てはまらない」


「はあ? 当てはまるに決まってんだろ」


「人間は『自然界』から離れ『人間社会』を築いた 人間は独自の進化を遂げた生き物だ 」


 木鬼は拳は力が込められ、言葉からは熱を感じる。そして静かに語る。


「だが!人間は自らの世界を築きながらも自然を壊し続けた! 身勝手にも! 自らが捨てた自然界を今尚冒涜し続けている!」


 そして再び怒りの感情が強く表面化する。


 その怒りはは人の進化した技術によってもたらされた犠牲者の怒りだ。


「そりゃあ……随分勝手な言い分だなぁ」


「勝手なのは人間おまえ達だ!」


「ああそうさ 勝手だよ」


「開き直るかぁ!?」


「そうだよ 誰がなんと言おうが『勝手』に決まってんだろ けどな……そいつは人間だけかぁ?」


「何……?」


 レイの瞳が木鬼を捉えたまま真っ直ぐと、言い放つ。


「人間は勝手だって言うけどな 他の生き物は違うってか? 木は誰かの為に生きてるか? 鳥は? 魚は? 全部この自然の為に遠慮しながら生きてるってか」


「それは……」


「違うだろ? 全部自分のため・・・・・に生きてるんだろうが 全部人間のせいだって言うけどな それこそ自然の『弱肉強食』の頂点に立てたからこそワガママやってんだろ」


 レイの主張と木鬼の主張、それはどちらが正しいというものではないのかもしれない。


 それでも今この瞬間のこの答えは木鬼が考えていたものとは『違う答え』だった。


「屁理屈を!」


「それが許されるのもお前らの言う『弱肉強食』に則ったものだぜ? 文句があるなら力尽くで奪えよ」


「話しにならん! それが人間の答えか!」


 木鬼は構え、レイにとどめを刺す態勢に入る。


 が、レイの話しはまだ終わりではなかった。


「あのよぉ……そうやって押し付けられるのは人間が頂点の存在・・・・・だからだろ?」


「どう言う意味だ!?」


「ようするに人間が一番だって事を頭じゃあ理解してるんだろ? だから好き勝手言えるのさ 自分達が弱いから たまたまそれが人間だったってだけで何でもいいのさ」


「違う!」


「違わねえよ 羨ましいだけなんだよ 自分たちの持ってないものがさ」


「黙れ黙れ黙れぇ!!」


 レイは黙らない。


 レイの出した答えを理解してしまう、それを認められない木鬼の心に、畳み掛ける。


「誰かのせいにしてるヤツなんかよりもな! 弱さを認めて必死に手を伸ばしてくれる人の方がカッコいいんだよ! だからお前はオレのアニキの足元にも及ばねえ!」


「黙れぇぇぇぇぇ!!!」


 レイに向かって突撃をする。抑えられなくなった怒りを力に変えて。


 そこに冷静さは無かった。


「可哀想なやつだよ…… せっかくただの木から動けるようになったってのに…… 結局復讐に縛られたまま動けないんだからよ」


 レイは構え、引き金を引く。


 撃鉄が落ち、装填された弾丸は木鬼めがけて放たれる。


 突き出された拳に当たり、左腕が吹き飛ばされた。


「無駄だ! どれだけ威力があろうとも我の身体は直ぐに元に……!?」


 そして気づく。吹き飛ばされた腕が元に戻らず、再生しない・・・・・ことに。


「おっ! 効いたみたいだな いや〜よかったよかった」


 装填されていた残り五発の弾丸が、左腕の次に右腕を。そして右脚と左脚を撃ち抜き、仰向けに木鬼は倒れた。


「な……コレは……?」


「残り二発……さっきわざわざお前の為に作った特注品だぜ? 全部撃ち込んでやるよ」


 倒れた木鬼にとどめをさす為に銃は構えられた。


 何が起きたか理解出ないままの木鬼に聞く。


「最後に残す言葉ぐらいは聞いてやるぞ なんかあるか?」


「……無様だな 我ながら情けないがこれが末路か」


 諦めがついたのか木鬼は臆する事なく、その死を受け入れようとしていた。


「なんだよ命乞いとか期待してたんだけどな」


「未練などはない……強いて言うなら人間にとどめを刺されるというのは癪ではある」


「そうかい」


 カチャリと撃鉄が落とされる。


「あばよ オレのアニキに会わせてやれなかったのはちと残念だけどな」


「余計なお世話だ小娘 所詮魔王軍の尖兵風情に手こずってるお前たちも長くはないだろうからな」


「それも余計なお世話だよ」


「ふん……」


 銃声が鳴る。


 弾丸は木鬼の頭を撃ち抜き、とどめを刺した。


「……あーあ 一発余っちまった」


「いや〜ヒヤヒヤしたぜ! 間に合ったんだな!」


 傷を治した後姿を隠していたチビルが飛んできた。


「実際ギリギリだったぜ 時間稼ぎできてよかったよホント」


「オレ様の回復魔法もストック全部使って治したからな これでダメなら終わってたぜ」


「よし! 今度こそ帰ってアニキに報告だ! デヘヘ〜」


 褒めてもらえる事を期待して想像していると顔が緩みきっていた。


「そういえばさ あの弾何だったんだよレイ?」


木鬼の再生力を奪った弾丸。最初から持っていたわけでは無く、手持ちの素材で作った弾丸であった。


「あーアレ 除草剤」


「……え?」


 当然「なんで持ってったの?」という疑問が、チビルの頭に浮かんだ。

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