第50話 誰のせい

「そんな戦い方じゃあ負担が大きいでしょ!」


「誰のせいでこんなこと強いられてると思う?」


 重い聖剣を石に戻しては剣に変え、戻しては剣にする。


 聖剣を振るうにはこれしかなかったが、そんな戦い方が長く続くわけなかった。


「楽になりな!」


「しまっ!?」


 ツヴァイの右腕を、大きく横へと払った一撃がついに直撃してしまう。


 ベキベキと、リンの身体から嫌な音がする。土の賢者の石『ガイアペイン』によって全身の硬化ができていなかった為、その一撃は致命傷になってしまった。


 大きく吹き飛ばされる。受け身も取れず、地面に倒れこむしかなかった。


「ぐっ……くっ!」


「今いい音したね! その割には声が出なかったけど」


「悪いが我慢は取り柄なんだ……期待に答えられなくて悪かったな」


 ヨロヨロと立ち上がり、左手を押さえながら立ち上がる。


 立ち上がりながら思う事。それは『これはダメだな』という事だ。


(左手は使い物にならない……次からはこっちが片手で戦う羽目になるとはな)


 だがそれは当然ハンデなのではなく、使い物にならなくなってしまったという致命的な違いがある。


(アクアシュバリエ……あったら変わってたんだろうか?)


 もはや無い物ねだりをするしかなかった。


 それもその筈だった。現状この場を切り抜ける打開策がないのだから。


(聖剣泥棒は絶対殺す……まあ生きてたならな)


 この状況では叶いそうにない決意を固め、ツヴァイを睨みつける。余裕な素振りは相変わらずだったのが、リンからすれば憎らしかった。


「さ〜てと! そろそろ終わりかなぁ? もう使えるものもないんでしょ?」


「その通り お手上げ状態さ」


「ホールドアップしても無駄だよ もう殺すから」


 勝ち目が無くなった。そう思うと随分あっけないなとリンは思う。


 いつ死んでもいいと考えていたあの日から・・・・・随分長生きしていた、だからもう充分だろうと諦める。


(自分で死なない臆病者の末路には勿体ない死に方ただな)


 ツヴァイは近くまで来て拳を振り上げる。


 せめて痛いのは遠慮したいと、リンは目を閉じた。


「バイバイ聖剣使い……もっと強くなった時に会えばよかったよ」


 そんな時、ふとリンは迷う。


(……なんでだろうな 少しだけ……ほんの少しだけ『死んではいけない』気がする)


 拳を振り下ろされると同時に、それを防ぐ為の弾丸が放たれる。


 そのおかげでツヴァイの拳が振り下ろされる事なく、リンはまだ生きていた。


「……なにすんの?」


「そりゃこっちのセリフだぜツヴァイとかいうヤロウ! アニキを殺させるわけねえだろが!」


 レイだった。


 少し離れたところからでも聞こえるそのデカい声は、間違いなくレイのものだった。


「ご生憎様とオレはお前の強さにこれっぽっちもビッビッてないんでね! 黙らせたけりゃ力尽くでねじ伏せな!」


「ふ〜ん バカは死ななきゃわからないっていうしそうさせてもらうよ」


「バカって言うな!」


「やめろ……レイ」


「アニキは休んでてください 代わりにコイツをぶっ飛ばしますから」


 倒す事など出来ないと理解している筈なのに、何故そんな事をするのか。


 リンにはわからなかった。


「じゃあ本気で相手してあげる けどこれは楽しむためじゃないよ さっさとぶっ潰したいからそうするだけだから」


「上等 さっさとぶっ潰したいのはコッチも同じよ」


 銃を二丁構え、ツヴァイに狙いを定める。


 ツヴァイが距離を詰めるため急接近するとレイは的確に狙い撃つ。


 狙いは逸れていないが、銃弾がツヴァイに当たる事はない。躱され、ツヴァイの拳がレイを潰す為に放たれる。


「これで終わり」


「んなわけねえだろ!」


 レイが後ろに回避すると同時に回し蹴りへと移行する。


 鋭い一撃ではあったが、難なく受け止められる。


「ならこれでどうだい?」


 レイの右脚を掴んだまま、片手で後ろへ振りかぶり地面に叩きつけ用とする。


「まだ手はある!」


 懐から取り出したナイフを投げる。顔目掛けて投擲されたが、それも片手で対応された。


「おしいね」


「いんや 狙い通り!」


 体を捻ると、空いていた左脚での蹴りがツヴァイの顔へと繰り出される。


 レイの作戦によって守るすべを潰されていたおかげで、ついに当てることができのだ。


「やりやがった……」


 その光景にリンは素直に驚いた。まさか一撃、それも顔面へと命中させたのだから。


 ツヴァイは顔面を蹴られると手を離し、レイを地面へ叩きつけることはできなかった。


「どうよ今の気持ちは! 最低の気分かい!?」


「……黒」


「……? ……!? スパッツじゃボケェ!」


 ツヴァイは顔を押さえ、レイはスカート押さえている。効いてる様子はないが、精神的ダメージはおそらく(お互い)効いているのだろう。


「ホントやんなっちゃう……遊びに来ただけなのに邪魔されてさ」


「生憎とテメェの都合に合わせる筋合いもないんでね こっちはアニキとイチャイチャしてたいってのに」


(するつもり無いんだが……)


「それならこっちも合わせる筋合いないからね」


「まあこれでアニキの評価もうなぎのぼりのはずだし」


 実際そうなのだが「そういうところが評価を下げるんだぞ」と今直接言ってやりたい気持ちをグッと抑え、リンは身体に力を入れる。


(早く動け……アイツは俺が)


「それじゃ聖剣使いアイツと同じ目にしてあげる」


「やってみなブサイク仮面 そのダッセェ仮面の下拝んでやんよ」


「ホント……嫌い」


「……え?」


 見えなかった。いつのまにか、レイの腹部を蹴りつけていた。


 レイが大きく吹き飛ばされる。その状況に第三者もその当事者も、理解出来ていなかった。


「な……なんだよ今の速さ」


「手加減しないって言ったつもりだったけど……まさかここまでナメられるとはね」


レイの首を左手で掴み、持ち上げる。ミシミシと嫌な音を立てながらその強さを増していく。


「バイバイ すぐに大好きなアニキも送ってあげる」


「……った……」


「うん? なんだい?」


 少しだけ力を緩め、レイの言葉をツヴァイは聞いた。


「……やなこった!」


 手元にいつの間にか持ち出していた爆弾をツヴァイの顔面へぶつける。


 威力はギリギリレイ自身を巻き込まない程度の威力。それでも殺傷能力としては充分な威力のものだ。


 それによりツヴァイの手から解放され、地面にドサリと仰向けに倒れこむ。


「ゲホッゲホッ! ザマァみろ……」


「本当に……お前はカウンターが強いな」


「いや〜それほどでも〜!」


 デレデレとした表情でリンを見る姿に安堵する。


 その安心も、残念ながら長くは続かなかった。


「あ……ああああ!?」


 嫌な音がする。それはレイの右腕が折られた音だった。


「少しは楽に倒させてよ めんどくさいんだから」


 レイの右腕が踏まれると、追い討ちをかけるかのように踏んだままグリグリと踏みにじる。


「決めちゃった コイツを痛めつけるのを聖剣使いに見せながら殺そ」


「ア……グッ!」


「やめろ!」


「これも君が悪いんじゃないかな?」


「……なんだと?」


「弱いのに魔王様に立ち向かう勇気は褒めてあげるけど……それで誰も救えないんじゃね」


「誰も……救えない」


 リンは思い知らされる。


 助けられなかった・・・・・・・・事を。


 今は違うと思い始めていた、なんとかできるんじゃないのかと、漸くリンは思い始めていた。


 だがそれは自惚れであった。なんとか出来ると思い始めていたがそんな事はなかったと、現実を突きつけられる。


「そうだ……力のない俺が……. 」


 己の無力さが悪かったのだと。

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