第51話 光の

「足どけろよ……その汚ねえ足をよ」


「アハハ タフだねキミ」


 レイを踏みつけて、ミシミシと骨が押し潰される音を立てさせた。


 今度は肋骨を折る気でいるのか、足で肋を踏みつけている。


 全く容赦のないその姿は、紛うことなき悪魔の部類だろう。


「肋もイイけど腕を反対向きに折り畳むのもイイかな?」


「やってみろよ……その程度で悲鳴なんて上げてやんねぇ」


「そっか じゃあ指にしよう! ガンマンにとっては割と致命的じゃない?」


 そう言うと、踏みつけていた足を手の甲へ位置を変える。


「さてさてまずは人差し指一本から あっ! これ一番致命的な指じゃない?」


「ぐっ……ちくしょう……!」


 足を上げ勢いをつける。このまま踏みつければ確実に砕けるだろう。


「おい」


「ん?」


 ツヴァイの背後から声がした。その声にツヴァイは反応すると、リンの左手がツヴァイの頬を抉るように叩き込まれた。


 ツヴァイは大きく飛ばされる。おそらく今までで一番なダメージを与えられていた。


「ッ……! ヘェ……よくその腕で殴ったね?」


 リンの左腕は既にツヴァイがへし折っている。


 だが、そんな事お構い無しで殴りつけられた。


(聖剣を出していない……って事は土の聖剣『ガイアペイン』の力で折れた腕を硬化して固定したのか)


 それでも、痛みは決して軽減されてなどはいない。そんな腕で殴れば激痛が走るのは想像に難くない。


(……よく殴ったもんだよホント)


 その驚きはリンの形相を見て、更なる驚きに上書きされる。


「あらら? 完全にブチギレさせちゃったかな?」


「それ以上レイに触れてみろ……ぶち殺すぞ」


「そんなに大事かい色男? そんなボロボロで何が……できるのかなぁ!? 」


 再び素早くリンに急接近する。今度こそ再起不能にする為だ。


 リンの右手に砂塵が舞う。そこから土の聖剣『ガイアペイン』が現れた。


「血迷ったのかい!? その聖剣じゃあ振ることもできないんだろ!」


 ツヴァイの左手がリンを砕く為の一撃を放つ。重いガイアペインでは間に合わない。


 そのはずだった。


「うおおらぁ!」


 大振りでありながら、リンの剣戟の方が一瞬早く放たれた。


 その重さで無理矢理縦にしか振りかざす事しか出来なかったその聖剣を、左へ大きくなぎ払って見せたのだ。


 予想外の一撃にツヴァイは声を出す暇もなく、先程よりもさらに遠くに吹き飛ばされる。


「言ったろうが……ぶち殺すってなぁ!」


 遠くから土煙が上がっている。その中から立ち上がる人影が現れた。


「……やってくれるね 聖剣使い」


 唯一ツヴァイの顔を確認できる口元の辺りに青筋を立て、怒りを露わにする。


「こりゃいいや こんなにカチンときたのは久しぶりだよ」


「ずいぶん子供っぽいな それとも本当にガキなのか?」


「イイからかかってきなよ その怒りぶつけさせてあげるからさぁ」


 指をクイクイとこちらへ来るようにサインを送る。その挑発に乗るしかない。


(他の奴らに手を出させない 絶対に誰も巻き込まない)


 胸に秘めた覚悟をぶつけるために前へ進む。


 だがその一歩だけで止められてしまった。


「ア……アニキ……」


「レイ!」


 足の裾を引っ張られ、前に進むことができなかったのだ。


 意識がある。それだけでリンの心は安堵した。


「待ってろ すぐにツヴァイを倒してやる」


「すみません……役に立たなくて……」


「俺のせいだ 俺がもっと強ければ……」


「アニキのせいなんかじゃ……ありません」


「いや……俺のせいだ こんな事なら早くにお前らを遠くに行かせるべきだった」


「それじゃ……アニキのせいでもイイんで……」


 左手でリンの頰に愛おしく撫でるように包みこみこう言った。


「頼ってください オレたち……仲間なんで」


 この場から離れる事が一番な得策だった。少なくとも戦いを挑むなど、それは絶対にしてはいけないことだ。


 現に勝てないと悟ったシオンはこの場にいないのは、この状況を切り抜ける手立てではないとわかっていたからだ。


 それでも、リンを助けようとしたのがレイだった。


「ワガママ言ってください……オレ達はちゃんとアニキに答えてみせます だから一人になろうとしないでください」


「レイ……」


「もっと……甘えてください……もっと……構ってください……もっと」


「おい」


 途中からなんだかレイの欲望が垣間見えだし、止めずにはいられなかった。


「……まったく」


 そう言いながらレイを優しく地面へ寝かしつける。


 困った口ぶりだったが、その言葉には先ほどまでにじみ出ていた怒りの感情は乗っていない。


「困った妹分だ」


 少しだけ吹っ切れた表情で、ツヴァイの方を見やる。退屈そうにこちらを見ていた。


「もう終わり? そろそろ始めたいんだけど」


「俺もだ 頭も冷えたことだしそろそろ始めよう」


「せっかくイイ顔してたのにもったいないな〜」


「そう言うな 怒るのも楽じゃないんでな」


 ガイアペインを再び握る。


 重さが伝わってくるが、以前のように振るう事だが出来ないほどの重さではない。


「それじゃあ……早速行くよ!」


 衰えることのないツヴァイの速さ、その勢いを乗せた手刀がリンの左腕めがけて突きつけられる。


「剣を出したままだと硬化できないんでしょ!? これで終わりさ!」


「残念だったな……それは少し前の俺だ・・・・・・


 手刀はリンの左腕へ直撃する。


 本来であれば今の一撃で、左腕はリンの元を離れてしまっていたであろう。


「ぐっ!」


 痛みを堪える。だがそれだけで良かった・・・・・・・・・


「かっ……貫通できない?」


 ツヴァイは驚きを隠せなかった。


 リンはこの戦いでまた一つ、聖剣を完全に使いこなす事ができたのだ。


「これで終わりと……思うなよ!?」


「何?」


 握られていたガイアペインが強い光を放つ。この輝きは『新たな姿へ変わる』為に。


「『形態変化 土の聖剣ガイアペイン』!」


 聖剣は、形を変える。

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