第40話 次へ

「勝手なことをして悪かった」


「何が? アンタは正しいことをしたよ」


 王の間の宣言により地下労働施設は解体され、新たに軍として機能し始める。


 それに伴い、今すぐとはいかないが、男達が地上へと少しずつ出ていけるようになるとのことだ。


「この国の問題はこの国が解決するものだったはずだ よそ者が口出しすることじゃない」


「言ったはずだよ自分がどうしたいか・・・・・・・・・だって それにこの国のみんなは誰かが背中を押さなきゃ前に進めなかったんだ 少なくとも私は感謝してる」


 だがそれはすべての国の人とはいかないだろ。万人に受け入れられるとは思ってはいなかった。

それこそ暴動が起きてもおかしくはないほどのことだと思う。


「心配なのは最悪な方向に進まないかってことだけどね……」


「一応そのことには考えがある」


「え?」


「何のために魔王軍との戦いに備えるように言ったと思う?」


「何ってリンが言ってたじゃない『質より量』って話を」


「まあ簡単にまとめるとそういう風に言ったな 実際にそうしなければアクアガーデンの防衛部隊は強化できない」


「でしょ?」


「魔王軍が来るってのに暴動がなんて起こす暇なんてないってことさ」


 何の策も無く、今までのことを無かったことにして、いきなり外に出してしまったらそれこそ最悪な事が起こってしまうかもしれない。


 だがそんな暇がなければいい。対立してしまうかもしれないこの状況に、共通の敵・・・・がいるのならそんなことしていられないだろう。


「それを見越してって事だったの?」


「使えるものはなんでも使う 魔王軍には必要悪になってもらってもばちは当たらないだろう むしろ有効利用する」


「……あなたいい性格してるよ」


「俺を褒めても良いことなんてないぞ?」


 シオンの部屋部屋に来るのはこれで二度目だ。最初に来たのはこの国の案内のために、そして今は謝罪と別れのためだ。


「今日まで世話になった これからも頑張ってくれよ 警備団長」


「他人行儀はやめなって こっちこそ雷迅の件で世話になったよ」


 実際に今回は魔王軍の強さを改めて実感できた。これから戦っていく上で強くならなければいけないことがわかったのは良い収穫だった。


「これからどうするの?」


「この国に一番近い国は『カザネ』だったか?」


「そうだね それにそこには風の賢者の石があるはず」


「本当だろうな?」


「……多分」


 実際ここに賢者の石が盗まれていたことを考える、とそこにもないということを想定しなくてはならなくなってしまった。


「それにしても一体誰が……」


「あ〜! アニキいたー! 探しましたよー!」


「探してたのはリンじゃなくてシオンだろうが」


 突然レイとチビルが現れる。珍しくリンではなくシオンを探していた。


「ん? なんだい? 私に用事?」


「正確にはオレ様達じゃなくて王妃様が呼んでっからよ」


「そ なんでも話があるんだってさ」


「わかった ありがとね二人とも」


 そう言ってシオンは部屋を出ていく。人の部屋に長居するのも悪いのでそのまま出て行こうとするがレイに止められた。


 その瞬間嫌なことを思い出す。実際に、ゆっくりと後ろを振り向くと笑顔だが目を見開き、殺気を放つレイがいた。


「なっなんだレイ?」


「アニキィ? 忘れてませんよね? 今日のことを終始洗いざらい徹頭徹尾すべて話してもらうことを?」


 一番忘れて欲しい人物は全く忘れていなかった。


 自分の部屋で、不穏な出来事が起こっているとは露知らず、シオンは王妃のもとへ向かう。


「お呼びですか王妃」


「うむ 畏まらんで良い 楽にせよ」


 玉座の前に膝をつくシオンに寛大な態度をとる王妃。王の間にはこの二人しかいなかった。


 顔を上げ立ち上げ、呼ばれた理由を王妃に問いかける。


「どういったご用件で?」


「騎士団長のことじゃ」


「騎士団長……」


 シオンは顔をしかめた。


 アクアガーデンの『騎士団長』とは、その名の通り騎士団をまとめる長のことである。当然この国の騎士をまとめる騎士団長もいる。


 だがそれも少し前までのことだ。


「『ロレル騎士団長の失踪』は お前もよく知っておるだろう」


「はい……」


 それは突然の事だった。なんの前触れもなく、この国で誰よりも強く、信頼も厚かったロレル騎士団長は忽然と姿を消したのだ。


 それによりアクアガーデンの騎士団は大きく弱体化し、アクアガーデンの守りが手薄になってしまったのだ。


「あやつがいれば防衛を強固なものにするのは簡単だったのじゃがな いない以上諦めるしかない」


 あっさりと言ってはいるのだが、ピヴワ王妃のその言葉には悔しさが伝わってくる。


「その件と今回呼ばれた理由と何か関係が?」


「警備団長『シオン・ヴァロワ』よ お主を騎士団長候補として指名する」


「わっ私がですか!?」


 騎士団長になるということ。それは王妃の側近、右腕になるということ。


 本来こういった状況であれば、他の騎士から新たな団長を指名されるのだが、あくまでも警備団長であるシオンが選ばれるのは異例のことだった。


「他の騎士から選ぶのも良いがお主の方が人を纏める事には長けておるじゃろ」


「私のようなものがよろしいのですか!?」


「なんじゃ? 余の意見が気にいらんと申すか?」


「いえ! 感謝の極みであります」


 再び膝をつき頭を下げる。自分がまさかそのような立場になろうとは夢にも思って見なかった。


「じゃがあくまでも『騎士団長候補』ということじゃ お主にはやってもらうことがある」


「やってもらうこと?」


 いったいどのような試練を与えられるのだろうか?


 考えるだけで恐ろしいが全て耐えてみせよう。そうすることで認められるのなら安いものだとシオンは思った。


「簡単じゃ 優月輪ゆうづきりんの旅に同行せよ それが条件じゃ」


「……は?」


 予想外の一言だった。あまりにも唐突で、全く実感の湧かない試練の内容で固まってしまった。


「私がですかぁ!?」


 しばらく静止していたがようやく理解し、立ち上がると今日一番の大声で反応する。


 その反応に期待していたとばかりに、王妃は不敵な笑みを浮かべていた。

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