第13話 海賊グール

「なんだ!?」


「今のは──砲撃音!?」


 船は前の時よりも揺れなかったが、外からはけたたましい轟音が聞こえた。


 こちらから攻撃したのか、あるいは攻撃されたのか、それはわからないが只事ではないだろう。


「部外者はここにいろ! オレが様子を見て来る!」


「『雑用はただ無心に働く 命がけで』じゃなかったのか?」


「あ〜もう! 勝手にしろ!」


 さすがにここで待機とはいかない。この船で世話になっている以上、何か出来ることをするべきだ。


「今の音は砲弾の音なのか?」


「ああ間違いねえ! グールの砲撃音だった!」


 どうやらこちら側が攻撃されているようだ。


 話を聞く限り、どちらにも因縁があるのだから出会えばすぐに戦闘になるのだろう。話し合う気もないはずだ。


「おお! ここに居たかリン!」


「チビルか 見張りをしていたんだろ 状況は?」


「あの時の海賊だよ! 奴らが先に攻撃を仕掛けてきやがった!」


「それは知ってた」


 やはり直接見に行くしかないようだ。


 それにこちらには借りがある。折角の豪華客船の旅を邪魔したあの時の借りを返さなくては。


「お前は戦えるのか?」


「海賊が戦えなかったら生きていけねえよ」


 そう言って手馴れて付きで銃を取り出す。物心ついた時から海賊のレイには、今のは無粋な質問だったようだ。


「いいか? 絶対に足手まといになるなよ」


「努力する」


「オレ様もたいした魔法は使えないから援護に専念させてもらうぜ」


 海賊との再戦だ。前回と違うのは、こちらは海賊との共闘で戦うということだ。


「全員戦闘に備えろ! グールをぶっ潰すチャンスだ! 気合い入れろ!」


「「はい!」」


「兄ちゃん!」


「おうレイか それにリン お前も来てくれたか!」


「このことを予想してたんだろ?」


「まあな 聖剣使いの実力 頼りにしてるぞ」


「あまり期待はするな」


「これは海賊の問題なんだからな! あんまでしゃばんなよ!」


「だったらそうならないよう頑張ってくれ」


 艦上に出ると海賊達が集まっていた。離れたところには別の海賊船が見えた。あれが海賊グールの船なのだろう。


「グールは今?」


「最初の一発だけで後はただ近づいて来るだけだ」


「最初から当てる気は無かったて感じだな」


「お前もそう思うか」


「じゃあ話し合いにでも来たのか? あのグールが?」


「引退宣言である事を祈ろうか」


「そんな律儀な奴らじゃあねえよ」


 血の気の多そうなグールの奴らのことだ、ただの話し合いではないはずだ。何か裏があるだろう。


「まあ戦いの準備はしておいて間違いないだろうな」


「そのつもりさ」


 海賊達はすでに戦闘準備を整えていた。


 犬猿の仲海賊同士が無事で終わるとは思えない。


「さあて 裏切り者の登場だ」


 近づいてきた船に、他の船員と明らかに違う雰囲気を醸し出す男の姿が見える。


「ご機嫌いかがかなアレク?」


「お前が来る前は良かったよ」


「そいつはすまなかったなぁ?」


 互いに挑発をし合っている。鎧袖一触とはまさにこの雰囲気の事かと、一人で納得する。


「テメェ何しに来やがった!?」


「落ち着けレイ」


「兄ちゃん……」


 現れた男はガタイの良い、髭を蓄えた大男だった。


 こいつが話に聞いていたエドという男だった。身体は傷だらけで、いかにもな悪人ヅラは海賊と言われれば納得するだろう。


「今回はテメェらに交渉ってやつをしに来たんだよ」


「ほう? それはどういう風の吹き回しだ? 今日の海は猛烈に荒れそうだな」


「そこの聖剣使いを渡せ 渡せばテメェらの邪魔を今後一切行わない事を誓おう」


「なにぃ?」


 グールの目的は聖剣使いを渡して貰う事だった。


 理由は簡単である。魔王軍の賞金首である聖剣使いを、自分達のものにする為に交渉しに来たのだ。


「お前らは知らないかもしれないがコイツを魔王様に差し出せば高値で売れるんでね」


「魔王軍に加わったと聞いてはいたが……本当だったんだな」


「長いものには巻かれていた方が何かと楽でね 今までの経験上な」


「……断ったら?」


「海賊は奪ってなんぼだろう?」


 二人の海賊は睨み合う、見ているだけで息苦しくなる緊張感に誰も手を出せなかった。


「ソイツは他所者だろ? ここで争って無駄な犠牲を出したくないのはお互様だ 大人しく渡してくれりゃあどちらも問題ない……違うかい?」


「残念ながらコイツはうちの船員なんでな 『仲間』を渡すわけにはいかない」


 迷う事なく言い放つ。


 強い意志を持って、己が信念と『仲間』の為に、アレクは断ったのだ。


「そうか ならば仕方がない」


「おいおい? お前今のこの状況わかってのんか?」


 レイや他の海賊達がエドに銃を向ける。エドは敵の船に護衛もつけず一人で乗り込んで来ていた。


 これでは『どうぞ好きにしてください』と言っているようなものだ。


「お前ら忘れたか? オレがどういうやつか」


「そうだったな"爆弾男"」


「爆弾男?」


「あいつは身体中に爆弾を仕込ませてんだ どこ撃っても爆発する」


「そういう事さ聖剣使い それじゃあオレは船に戻らせてもらうぜ まだ死にたくないしな」


 エドは手を上げながら自分の船に戻る。元々コイツは殺される気などなかったのだ、だから護衛も必要ない。


「どうする? このまま逃すのか」


「まさか 奴が船に戻ったらすぐに戦闘さ 奴らもそのつもりみたいだしな」


 グールの船を見てみるとあちら側も戦闘態勢に入っている。船が離れた時、すぐに砲撃戦になるだろう。


「別に俺を渡してもよかったんだぞ」


「仲間を売る海賊はいないさ」


「新人でもか?」


「例外はない それにあいつらの言うことなんて信じられん」


 まあ実際グールの奴らが約束を守るとは思えない。多分誰でもそうしていただろう。


「いくぞヤロウども! グールの奴らをぶっ潰す!」


 望まぬ戦いに、再び巻き込まれてしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る