第4話 ドアの向こうの渇望
※性描写有り・R15
ㅤㅤㅤㅤㅤ―― Side
――答えが出せず悶々と数日送った。
どうしても
相談もあるが、何よりしばらく会っていないので会いたかった。
同じクラスだけど、避けられててまともに顔も見ていない。
「
学校、昼休みになって早々席を立ち教室を出る
入り口で待っていたのか、わたしより先に声をかけたのはなんとなく見た事がある男子だった。
こいつ授業の最後どうしたんだ?
抜け出したのか?
声を掛けられた
楽しそうに笑う
なんでこいつが
なんで親しそうに話してんだ
誰なんだそいつは。
例の紹介するって言われてた奴か。
付き合う事にしたのか?
わたしには一言もなしで?
わたしは一応報告したのに。
クラスメイトの女子が以前言っていたのを思い出した。
確かに
容姿もだけど、全体が可愛い。
親友の贔屓目で見ても学年で上位5本の指に入るだろう。
性格も真面目で、かといって近寄りがたい訳でもなく誰彼構わず差別なく均等に接する当たりが色んな男子に人気の理由らしい。
その上成績も良い。
器用で何事もそつなくこなせるけど、運動が苦手な所は寧ろ好感が持てるんじゃないだろうか。
え?
いやいや、客観的視点です。
そのはず。
そう考えれば、寧ろ今まで
それとも、今回みたいに、わたしが一緒でないところで告白とかされていたのだろうか。
ラブレターなんて貰ってたりして?
むむむ。
許せん。
今のところその顔を知っているのはわたしだけだ。
付き合うまでも普通に可愛かったけど、付き合い出してわたしに見せるようになったあの顔たるや!
それがわたしだけに見せた顔だということがもう堪らない。
わたしを超える奴でないと
って、わたしは何を優越感? に浸ってるんだ。
結局この日学校で
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ≫≫≫≫≫≫
その日、わたしは避けられていると解っていながら、
それまでしょっちゅう入り浸ったその家は、勝手知ったるなんとやらで、夕飯時を終えた夜に押しかけたにも関わらず、
因みに
避けられているのが解っている以上、声を掛け辛い。
わたしは静かに
しかも、相談内容は彼氏との情事の事となれば尚更だ。
ここまで衝動的に来てしまったけど、どうすればいいんだと悩んでいると、部屋の中から微かに声が聞こえた。
「――ふ、ん、はっ、はっ、
んん、ーあ、ふん、あ、ん」
その声が何なのか直ぐには分からなかったけど、分かった時には固まった。
「――」
これは、もしかして......。
声・気配から察するに部屋に彼女は一人。
一気に顔が熱くなる。
聞いてはいけない、知ってはいけない親友の自慰行為。
そりゃぁ皆やってるだろうけど、多分。
わたしもたまにやる。
でも、他人が知って良いものじゃない。
『わたしに聞かれた・知られた』と彼女に気付かれる前にここを静かに立ち去らないと。
そう思うのに足が動いてくれない。
耳はより一層研ぎ澄まされ、何故か彼女の声に釘付けだった。
体まで熱くなる。
下半身が疼く。
何をやってるわたし!
聞いちゃいけない。
直ぐここから離れるんだ!
そう思うのになぜわたしは動け無いのだろう。
彼女の声に聞き入る。
って、聞いちゃいけない。
でも聞きたい。
もっと・・・・・・。
“そういう行為” の時、人は想い人の名を呼ぶものだろうか。
わたしの名は呼ばれない。
名前を・・・・・・言って欲しい。
え?
わたしは何を考えているの。
なぜ彼女に自分の名が呼ばれるのを望んでいるの?
気付けばドアノブに手をかけている。
少しでも回せばドアが開く。
鍵は元から付いてないから。
ここを開ければ、
見たい。
触れたい。
「うっ、ん、うう」
喘ぎ声の他にくぐもった声が混ざる。
何を乱入しようとしてんだわたし!
ダメに決まってるだろ!
「う・・・・・・うう〜、ヒック」
時折「ズズ」っと、鼻を啜る様な音も聞こえる。
まるで泣いているみたいだ。
行為中に泣くことなどあるだろうか。
わたしはない。
泣いて?
なぜ?
もしかして泣いているのかと思うと身体が凍り付いた。
それでもドアの向こうの声は止まない。
「っ・・・・・・んっ、ん――――――!!」
っつ。
彼女が達した事に気づいて、一気に心臓が跳ね上がる。
さっきまで凍り付いていたのが嘘のように動悸が激しい。
ズズッ、と未だに聞こえる鼻を啜るような音に焦燥感が掻き立てられる。
「はっ、はっ、う、うう、ヒック、う~~~~っ」
声を押し殺した呻き。
「はぁ、はぁ、うう、ヒック、っつ、う゛う゛、~~~~っ」
思想も気持ちも荒ぶって治まらない。
まずい。
一旦落ち着こう。
冷静になれわたし。
このままここにいるのはまずい。
今迄動かなかった足が嘘のように今度は急いでその場を離れたがった。
出来るだけ音をたてないようにしてリビングに移動する。
「――」
「――男に生まれていれば、ヒック、
最後にボソりとしたつぶやきが辛うじて聞こえた。
その欲求の先に確かにわたしがいる。
――っつ、〜〜〜〜っ!
呼吸が止まりそうになった。
胸が強く締め付けられる。
ついさっきわたしの名を呼ばれることを自分で望んでおきながら、いざ呼ばれたら呼ばれたで何も出来ない自分に気付く。
わたしは何を・・・・・・。
しばらく待って
何も知らない態で、今来たという態で。
黙って帰るのはまずいから。
わたしは勝手知ったる親友宅のリビングのソファーに腰を落ち着かせる。
今尚強く早鐘を打つ心臓と、下半身の疼きと、何故か行為の最中に自分の名を呼ばれる事を望んだ理由を考えた。
なぜ。
彼とキスをした時にも、望まれた時にも、その先を想像した時にも何も起こらなかったのに。
なぜ?
――そして、泣いていたようにしか聞こえない呻き。
正直言って、あれほど一緒にいたのに、今まで
まして声を上げて泣いていたことなんて幼い頃を除けばほぼない。
でも、泣かない訳じゃないのなら、自分の部屋でさえ声を殺して泣くのなら、今までどれ程感情を押し殺してきたのか測り知れない。
ずっと、見せないようにしてきたのだろう。
わたしにすら。
ならわたしに何が出来る?
泣かせたくない、泣いて欲しくない。
今すぐ部屋へ入ってその口を私の口で塞ぎたい。
泣く理由がわたしにあるのなら、わたしも背負う、背負いたい。
わかってる。
これ以上は親友と言えど踏み込めない、踏み込まなかったパーソナル
長年掛けて測ってきた二人の距離のその先。
土足で踏み越える事はしたくない。
ㅤ――でも、触れる事を許してほしい。
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