105話「国王派と排斥派」
「国王派」と「排斥派」―――
そういや竜人族の長エルザレスから聞いた話だと、この国では最近内戦が勃発した魔族国だと…確かそう言ってたような。二つの派閥が対立して争ったとか。あのサバサバした竜人が言ってたのはこのことらしいな。
「聞いていい?お前の妻を殺した鬼族って……誰だったの?そして、排斥派の首領も誰か教えて」
しばらく何か考えていたアレンが、亜人の王妃を殺した仲間と現在鬼族を害しようとしている首領のことを訊いた。
「いいだろう。我が妻を殺した亡き鬼族の戦士は、お前と同じ金角鬼の戦士、歴代最強と言われていた女戦士だった」
「……!!お母さん、が」
「そん、な……っ」
「あの人だったのか………」
アレンはどこか納得したように呟き、センたちはまたも驚愕する。ディウルの妻もここにいる戦士ども並みもしくはそれ以外の実力を持つ戦士だった。そんな奴を討ちとった鬼の戦士、それが……アレンの母だった。
そして彼女は数か月前魔人族に殺されてしまって、今はもういない。たとえ復讐心があったとしても憎しみのやり場がないということ。複雑な心境だろう、アレンにとっても……ディウルにとっても。
「そして排斥派のトップに立つ者は、妻の弟にあたる男……私にとっての義弟となるな。名をダンクという。
彼は姉のことを大切に想っていた。彼女を殺した鬼族が死んだと分かっても、その憎悪が消えることはなく鬼族全てに復讐心を抱いたままだった。
あの時も、ダンクが暴走気味に鬼族たちの首を刎ねようとするのを必死に止めた。奴の怒りを鎮める手段として、捕えた鬼族を彼に理不尽を強いらない範囲で隷属させるという折衷案を通してどうにかあの場は鎮火できた。だが私とダンクとの間に深い溝が生じ、彼と彼に従う者らはこの王国を去り別に拠点を作った。その時に鬼族たちも連れてな。現在彼らはそこにいるはずだ」
「じゃあ、仲間たちは!今も、その男たちに虐げられている可能性があるってこと?だとしたら、赦せないっ!」
「アレンちゃん、まだそうと決まってるわけじゃ……!」
事情を全て把握したアレンは再び気を荒げ、藤原が再び怒りを鎮めさせる。場に緊張が走る。
「それともう一つ。私たちは今のダンクたちの動向を把握しきれていない。彼らが鬼族を殺していないかどうかは、保障しきれない。彼らの拠点地は、モンストールの住処を跨いだところにある故、うかつに近付けないのだ。ここ数日間連絡も取れていない、奴らがどうしているのかは現地へ行かなければ分からない」
ディウルは最後に、目を離してしまいすまないとアレンに謝罪する。アレンは悔し気に歯噛みするが、ディウルを責めることはしなかった。
「今までの話をまとめると……亜人族は現在、鬼族を殺すことは良しとせず、理不尽を強いらない範囲で隷属するところで手を打つべきだとしてる国王派、鬼族を憎悪し殺したいと思いながら別拠点で彼らを理不尽に隷属しているかもしれない排斥派、この2つに分かれている。
生き残りの鬼族たちに会うにはそこに行かなければならない。
排斥派の現在の動向はディウル国王でさえ把握出来ておらず、彼らがいるところへ実際に行かないと分からない、鬼族たちの安否も同様に。
以上そんなところでしょうか」
カミラが客観的に今のくだりをまとめた。目的地はこことは違う場所。アレンの仲間たちの安否は曖昧。不安はまだ拭えないな。
「お前たちがここに来た目的は十分理解した。そしてこれからしようとしてることも。それらを踏まえて聞きたい……アレンとやら。
お前はダンクたちに復讐しに行くのか?それとも仲間を解放しに行くだけなのか?」
ディウルはアレンを真っすぐ見つめて問う。アレンも嘘はつけない相手だと分かったのだろう。同じように真っすぐ見返して答える。
「お前の話だけでは排斥派を殺すかどうかはまだ決められない。実際に会って全て確かめる。だから今この場では殺さない、と答える。今は仲間と再会することが最優先だから」
「そうか…。言いたいことは分かった。なら…それを踏まえた上でお前にお願いしたい。もしダンクたちがお前の仲間たちを虐げていたとしても、殺さないでやってほしい。あれでも私の家族であることに変わりないからな」
「………。断れば?」
途端、ディウルから殺気を感知した。これはただの威圧か?殺気は本物だが動く気配はない。センたちはディウルを睨んで構える。藤原は慌てて両者の間に入る。
「もしダンクたちを殺したと分かれば、いずれお前たちを討伐しに動くとする。
アレンよ、そして他の鬼族たちよ。もし彼ら殺したその時は、覚悟してもらおう」
「好きにすればいい。もとからそのつもりで動いてるから」
アレンはそっぽむくように顔を逸らしてそう言い返す。ディウルはアレンを睨んだままでいるが彼女たちに対する殺気と威圧は解いた。それに倣ってセンたちも亜人たちも戦闘態勢を解いた。
「話は、もう終わりってことで良いか?」
「うん。色々答えてくれてありがとう。私たちはこれからお前……あなたが言ったところへ行こうと思う。場所は分かる?」
「モンストールの住処はここから東の方角へ進めば見つかる。そこを横断して行けばダンクたちがいるとされている」
「東、ね。分かった」
アレンは席を立って部屋から出ようとする。その際にディウルともう一度向き合う。
「戦いとはいえ、私のお母さんがあなたの妻を殺してしまったのは事実。そのせいで鬼族を恨んでいたことも分かった。それでもあなたは私たちを殺そうとはしなかった。そのことに、礼を言う。ありがとう」
ぺこりとお辞儀をして礼を言うアレンにディウルもアンスリールも他の亜人もそしてセンたちも驚く。
「………そう言うのなら、本当にダンクたちのことは頼む。赦せとは言わん。だが殺し合いになることだけは避けてくれ」
「………分かった」
アレンはなぜそんなことを言ったのだろう。分からないまま俺たちはディウルたちとの話を終えて部屋を出て行くことにする。
「冒険者オウガ、お前に聞いておきたいことがある。
魔人族が現れたというのは本当か?」
「ああ。あいつらはこの世界を滅ぼしてあいつらが望む世界をつくるつもりだ。あんたらも他の魔族も滅ぼすつもりでいる。人族もな。今から半年後にはあいつらは本格的に全てを滅ぼすと思う。戦う準備はしておきな」
ディウルは少し動揺したものの、すぐに返事する。
「そうか………忠告感謝する。それと、鬼族たちがダンクたちと殺し合わないようお前と……フジワラだったか、お前たちで止めてくれないか」
「うーん、俺はアレンたちの味方だから止めるというよりはむしろ――」
「任せて下さい!殺し合いには絶対にさせませんから!」
俺の言葉を藤原は遮ってはっきり答える。ディウルは頼むとだけ言って俺たちから離れて行く。俺も…藤原に叱咤されながら部屋を出ていく。こうして亜人族国王たちとの話し合いは終わった。
それにしてもディウルとアンスリール。二人の実力がどんなものか試してみたかったな。先日のモンストール戦も退屈はしなかったが、やっぱり対人戦の方が面白いと思うんだよなぁ。
「なあアレン、さっきは何でディウルに最後あんなことを言ったんだ?」
部屋を出るとギルスがアレンに質問をしていた。アレンは少し考えたがその答えは、
「どうしてか、私にもよく分からない」
というものだった。何だそりゃとギルスたちはそう言って外へ行った。
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