99話「優秀で強い軍略家」
モンストールは私たち目がけて無数の脚を叩き込んでくる。
が、私たちの姿は霞のように揺らめいて消えた。モンストールは消えた私たちに困惑している。
「“幻術”のタイミング、ばっちりです……センさんガーデルさん」
カミラが小さく微笑んでそう言う。そう、モンストールが攻撃した私たちは幻。本物は――真上!
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真上からモンストールの頭部目がけて私はクロー・刺突・蹴りを際限なく浴びせ続ける。まさに篠を突く雨。激しくも正確に急所を突く無駄が無い刺し拳闘武術。
センとガーデルは両手で貫き手の連打を浴びせている。
私はさらに「雷電鎧」を全身から両手両足に集中的に鋭く纏わせている。よって一撃一撃のキレが倍増して、よりダメージを与えることに成功している。
攻撃を続けていると次第に頭部の鱗や皮膚が破れていき、血もたくさん出てきた。私たちの手はモンストールの血で赤く染まっていたが気にすることなく刺して斬り続ける。
「っ!アレンさん、そこから離れて下さい!」
けれどモンストールはここにきて反撃してくる。体を撓めて頭を勢いよく地面に叩きつけてきた。ギリギリのところで私たちは回避に成功。カミラのお陰。
「まだです!広範囲に攻撃が来ます!全員対応を!!」
カミラの予測通り、モンストールが体を起こして全身にある脚を全て私たち目がけて鞭のように叩きつけてくる。一撃でもくらうと体を潰されるであろうその攻撃を、私とセンとガーデルは渾身の拳闘武術で、ギルスとルマンドは魔法攻撃で脚攻撃を相殺しにかかる。
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ドドドドドドドドドドド……!!
あちこちで激突音が鳴り響く。私は何とか脚を破壊することに成功した。他の皆は――
「ぐ、うぅ」
「あ、ぶなかった……けどもうキツい、かな……」
センとガーデルが負傷してしまっている。血が出ているものの深くはないみたい。
「ぐ……ってーな……!まぁ回復するんだけど」
ギルスもかなりダメージを負わされているけど「自動回復」で治しているから大丈夫そう。
「く………カミラさん?大丈夫?」
「は、はい……ありがとうございます」
「よし。じゃあ指示をちょうだい。モンストールを倒す為に!」
「はい、では――」
ルマンドはカミラを庇いながらも防御に成功している。そしてカミラが私たちに指示を出す。
「みなさん、敵はまだ攻撃してきます。捨て身の突進がきます!アレンさんがいる方角へきます!!」
カミラがそう言ってすぐに、モンストールは全身を撓めて脚もたたんで、勢いよく突進をしかけてきた。事前にそうくると知った私たちは全員上へ跳んで躱した。
「決める――」
突進の勢いが止んだところに、私は急降下しながら最強の一撃を入れる準備をする。
「金剛撃」を発現し、今度は右脚のみに「雷電鎧」を集中して纏わせる。今まででいちばん濃い色となった鎧をさらに鋭利にさせていく。
そしてがら空きとなった胴体に渾身の右回し蹴りを放つ!!
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ズバンンンンン!!
モンストールの胴体は真っ二つに切断された…!
「や……った…!これで…………」
いちばん強い技を出した私は、疲労に襲われてどさりと倒れてしまう。「限定進化」も解除され元の体型に戻る。疲労で苦しいけど、達成感があって嬉しくも思う。
が―――
「……………えっ?」
千切れた胴体の半分―――頭部が残っている方が大口を開けて突進してくるのが見える。まだ……絶命してないなんて――!
「「させないよ(ぜ)」」
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突進するモンストールの頭上に、ルマンドとギルスが現れて、「神通力」と魔法攻撃が私とセンとガーデルが攻撃した頭部に放たれる。
ギャアアアアアアアアアアアア……………………ッ
モンストールは断末魔の叫びを上げて絶命した。
「ふぅ……間一髪だったね」
「そうか?カミラの予測通りだったから問題無かったろ」
「二人とも、ありがとう……」
どうやら最後の突進もカミラは予測していたらしく、前もってルマンドとギルスに指示を出していたらしい。凄い、何でもお見通し。
カミラのお陰で、私たちはSランクモンストールを討伐できた!
「アレンさん、体は大丈夫ですか!?意識はありますか!?」
「うん、助かった。二人と、カミラの軍略のお陰だよ……」
「………!私の、軍略が…」
「うん、カミラがいたから、私たちは勝てたんだよ…」
「だな。全て的確な指示と分析と予測だった。凄過ぎるぜ!」
「そうだね。みんな助けられたって思ってるよ、カミラさん……ううん、カミラ」
私もみんなもカミラに感謝して彼女を褒める。私たちの言葉を聞いたカミラは戸惑っていた。その理由はさっきこの国の人たちから酷いことを言われたからなんだと思う。
「俺の手は一切要らなかったな。よくやったな、みんな」
「コウガ…!」
後ろからコウガに声をかけられる。コウガとミワも終わったみたい。二人の方には一体どころか九体ものSランクモンストールがいたはずなのに全部討伐したんだ。やっぱりコウガは凄いなぁ……。
私もいつか、コウガと並べる戦士になりたい。もっと強くなろう。
コウガと並び、魔人族に復讐出来るくらいに……!!
*
良い連携だった。そして優れた司令塔だった。アレンたちとカミラ。彼女らが上手くやれたことで凄い力が発揮された。
アレンはまだ一人でSランクモンストールを討伐出来るレベルではないがそれは大した問題ではない。彼女には頼りになる仲間がいる。彼女らが団結すればSランクモンストールも出来るようになっている。このままああいう戦闘を経験して乗り越えていけば、Sランクモンストールどころか魔人族とだって互角に戦えるようになるはずだ。これからがますます楽しみになるな。
「藤原がいる王宮付近へいったん戻ろうか。彼女と合流してこの後どうしようか決めようか。一応まだ終わってないからなこれ」
そう言って国の外を見る。国外には上位レベルとGランクのモンストールが九十数体もいる。今頃兵士団と国の冒険者どもが奴らと戦っているだろうが、このままだと全滅は避けられないだろうな。まあこれについては藤原と話して決めよう。
「カミラ。アレンたちのサポート、サンキュな。テメーがいたから誰一人として深い傷を負わずにSランクモンストールを討伐できた。テメーの軍略と“未来完全予測”、そして冷静さがあったお陰もあってみんな無事でいられた。いきなり戦いに繰り出したのにこの本番の強さ。テメ……あんたは十分凄いよ。優秀で強い軍略家だ」
「………強い?私が?」
「ああ。Sランクモンストールの近くにいながら取り乱すことなく適格な指示を出して敵の行動もしっかり予測する。それらをこういった場面で発揮できる奴はそういない。だからあんたは優秀で強いってこと」
「ですが、そんな私でも、あなたには全く歯が立ちませんでしたが…」
「そりゃ俺が相手だったからだ、気にすんな。Sランクモンストールを単独でいくつも討伐するこんな奴を倒したいなら、俺と同じレベルの戦士を連れてこなきゃな。たかだか大国の兵士団だけじゃあ俺は倒せない」
「ふふ、そうでしょうね」
カミラは何か吹っ切れたかのような緩い笑みを浮かべた。さっき見た諦めの笑みとは違う、何か救われたような感じの笑みだ。
疲弊しているアレンたちとカミラを連れて、王宮へひとまず戻ることにした。
背後からカミラが俺を慕うように見つめていたことに気付くことはなかった。
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