100話「vs九十数体の群れ/カミラの胸中」

※本編100話目! 今後とも読んでくれるとありがたいです!

 




藤原たちは王宮内にいた。彼女の護衛対象はここにいる王族と貴族全てだ。ニッズ国王も無事でいる。


 「よぉ、国内に現れたSランクモンストールどもは全部討伐してやったぜ」

 「なんと!あの絶望的な状況を完全にひっくり返してみせたというのか!?冒険者オウガ……いや、カイダコウガ。そしてフジワラ殿に鬼族の者たちよ、本当によくやってくれた。お主たちのお陰でこの国の滅亡はひとまず避けられた!」


 国王は俺たちに感謝の言葉をかける。他の王族や貴族も国王に倣って頭を下げて感謝してくる。


 「待って下さい!私たちだけじゃなく、カミラさんにも感謝して下さい!彼女の軍略があったお陰で私たちはあの修羅場から無事で戻って来られたんです」


 藤原はやや怒った様子でカミラを示してそう主張する。それを聞いた国王たちは戸惑いの反応を見せる。


 「ミワの言う通り。カミラが冷静に適格な指示と予測を出してくれたから誰一人欠けることなく勝利できた」

 「それにSランクモンストールなんて化け物がいる前で平静さを保つなんて中々できないと思うの。カミラは凄い軍略家よ。あんたたち彼女に酷いこと言ってたけど、まずは謝ったら?」


 アレンとセンもカミラを持ち上げて、国王たちを非難する。


 「そ、そうだったのか……。カミラ・グレッドがお主たちの勝利に貢献を…」


 国王たちの間に気まずい沈黙がおりる。


 「皆さん、私のことは良いんです。私も兵士団の方々のことを悪く言ってしまいましたから。私は軍略家であることを除けばただの非戦闘員ですから…」


 カミラは力無くそう言って後ろへ下がった。


 「ところで、外にいるモンストールどもはどうするんだよ?兵士団や冒険者どもだけで撃退できるのか?」

 「そ、そうだ…!まだ数十体ものモンストールが侵攻してきているのだった…!トッポが兵士団を率いて、ギルドからも緊急クエストを発令しているとはいえ、あの規模は彼らにとっては荷が重すぎる……いや、全滅する可能性が高い。

 かくなる上は――」


 国王は俺たちを見て縋るように言ってくる。


 「カイダコウガ殿。いや、冒険者オウガとしてお主たちに頼みがある!外にいるモンストールの群れの殲滅をどうか、お願いしたい!!報酬はお主たちが望むものを可能な限り出すと約束する!どうか頼む、この国を、民を兵を冒険者たちを守ってくれ!!」


 国王は再度頭を下げて俺たちに群れの殲滅依頼をしてきた。


 「だってさ。みんな、体力と魔力残ってるか?」


 受ける受けない以前にみんなけっこう疲弊してるんだよなぁ。俺はゾンビだから平気だがみんなは違う。今の状態でGランクモンストールと戦えるかどうか…………あ、そういえば―――


 “回復”


 俺が話しかける前に藤原はアレンたちに「回復」をかけていた。


 「体が、軽い!」

 「魔力も回復している!凄い!」

 「疲れがとれてる!これならもう一戦できそうだ!」


 アレンたちはSランクモンストールと戦う前の状態にほぼ戻っていた。藤原の「回復」は体力や魔力をも治せるらしい。マジで万能だな「回復」は。


 「これならみんな戦えるはず。みんな、国王様の頼みを受けましょう!この国を救ってみせましょう!」


 藤原は俺たちを見回して強くそう言った。


 「あんたは大丈夫なのか?今ので魔力を使ったんじゃないのか」

 「………ごめんなさい。今の私が出来ることはこれくらいしか出来ないわ。外で戦っている兵士さんや冒険者さんたちを癒すしか私は出来ない。だから私も、みんなに頼みます。モンストールと戦ってほしい!」


 藤原は俺をまっすぐ見つめてそう言った。まあこれだけ言われちゃあ仕方ないか。


 「だってよ。行くかそれじゃ」

 「うん、戦おう!」


 俺とアレンはそう言い合い、センたちも同意した。藤原は顔を明るくさせた。


 「じゃあカミラもついてきてくれ。またアレンたちに指示を頼む」

 「私も?いえ、分かりました。あなた方のサポートをいたしましょう」


 こうして残りの群れを討伐することになった。


 国外の戦況はかなり悲惨なものとなっていた。あちこちに兵士と冒険者の死体がある。冒険者どもは心が折れた様子で逃げ出そうとしている奴らもいる。兵士団は逃げるわけもいかず何とか戦おうとしているが、長くは持たないだろう。


 「カミラ、指示を」

 「はい。まずミワさんは出来るだけ多くの兵士と冒険者たちを癒しに回ってもらい、そしてアレンさんと―――」


 指示を聞いたアレンたちと藤原は早速動き出す。アレンたちは二手に分かれてモンストールの殲滅に向かう。俺は一人で色んなところを飛び回ってはモンストールどもを瞬殺しまくった。


 俺たちが到着してからは、兵士も冒険者も一人として死者を出すことなくモンストールの群れ総数90体程を殲滅したのだった――




                  *


 いつだったか、父様と母様は私に言った。


 (私たちは武家の人間。成人すれば王などの上の者に仕える身となっている。私たちがニッズ国王様に仕えているように。だが勘違いしないでほしい。私たちには選ぶ権利がある。この者に仕えたいと思った者につくべきだと私は考えている。だからニッズ国王様についているのだ)

 (カミラも大人になって、あなたが本当に仕えたいと思った人に出会ったら、その人を選ぶのです。あなたにも当然選ぶ権利はあるのだから。カミラのその優れた知恵・知略は、必ず役に立てる。主の助けに必ずなれる。自信持ちなさい)


 奉仕の精神。世の中をまだよく知ってはいなかった私は、二人の言葉を、あの時理解できないでいた。それは二人がいなくなってしまった後も同じだった。

 二人が仕えていた国王。私は彼につきたいとは思わなかった。彼は私のことを見てはいない。ただの道具としか見ていない。他の人間だってそうだ。私を見ていない…そんな人たちなんかに、奉仕しようなどと微塵も思わなかった。

 どんなに知略を出して、策略を展開して、成果を上げても、誰も私を褒めてはくれなかった。心の無い空虚な言葉しかもらえなかった。仕える価値など、皆無だった…。


 だけど私は、今日とても変わった人と出会った。

 「彼」は敵である私に、今まで誰にもかけてくれなかった言葉をかけてくれたのだ。


 (戦えない身でありながら、たくさん努力してそうとう場数踏んでそこまで上ってきたんだろ?認めるよ。テメーは世界トップの軍略家だって!)

 (何だよ、やっぱ有能じゃねーかテメーは。役に立つ忠告だ)

 (あんたは十分凄いよ。優秀で強い軍略家だ)


 戦いの最中に、追い詰められている(実際は手加減していたようだが)にも関わらず突然敵の私を褒めて、しかもこれまでたくさん努力してたくさん経験積んできたことをあの場で見抜いてくれた…。さらには私を「強い軍略家」って言ってもくれた。

 初めてだった。誰かにあんな風に言ってくれたのは。私を見てくれたのは…。

 あの時から、「彼」に興味を抱いた。両親以外で初めてくれたああいった言葉。

 父様と母様のあの言葉が脳裏に浮かぶ。今なら分かる。あの言葉の意味が。

 本当に仕えたいと思える人。私を見てくれる人。

 「彼」なら、きっと―――



                  *


 モンストールの死骸を全て焼却したことを確認した俺たちと兵士団と冒険者どもは、ボロボロになった体を引きずって(アレンたちは比較的傷が浅かった)国内へ戻っていく。

 今回襲撃してきたモンストールの群れは110体にも及んだ。そのうちSランクモンストールは10数体もいた。これは明らかにハーベスタン王国を滅ぼしにきたと考えて良いだろう。さらには俺も狙ってのことだったともとれる。Sランクモンストール10体以上だもんな…。まあ全部返り討ちにしてやったが。

 滅亡は免れたもののハーベスタン王国は今回の件で大打撃を受けてしまった。兵力や冒険者ギルドといった軍事力は大幅に下がっただろうな、気の毒に。

 一方の俺たちは大幅に戦力がアップされた。アレンたちは少なくともレベル100は超えているはずだ。藤原も70数はいってるかもな。俺自身も「過剰略奪」のお陰でレベルが上がりやすくなっている。レベルは今615。いい感じだ。半年以内であと100は上げたいな。


 王宮に戻ると国王たちが俺たちを手厚く迎えてきた。礼がしたいとのことで俺たちやクエストに参加して生き残った冒険者どもを王宮の部屋に泊めてくれた。今日はさすがにもてなすのは無理だという理由で、礼をするのは明日ということになった。

 用意された部屋で俺とアレンがくつろいでいると、ドアをノックしてきたので開けると、藤原と……


 「話が、あります」


 カミラ・グレッドが訪れてきた。


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