88話「side3年7組とミーシャ/sideザイート」
アルマー大陸とベーサ大陸の間の海域を、ミーシャ元王女とクィン、シャルネ元王妃などを乗せた船が快速で進んでいく。
道中飛び出してきた魔物やモンストールは幸いにもクィンたちサント兵士団だけで難無く対処できる程度のものしか現れなかったので、安心して海路を進んでいた。
やがてベーサ大陸の海域まで進んだところで、一行は左方から同じくらいの大きさの船が近づいてくることに気付く。
「あの大型船……
ミーシャが双眼鏡で船を見るや、彼女はその大型船がデルス大陸にあるラインハルツ王国のものであると確信する。そしてその船には故ドラグニア王国が結成させた対モンストール組織「救世団」のメンバーがいることも確信した。
程なくして両船は合流して状況を報告し合うことに。ラインハルツの船からは5人の若い男女がミーシャがいる船へ駆けつけた。
「ミーシャ様!無事に再会できて良かったです!道中ケガはありませんでしたか?」
「こちらこそ、タカゾノさんたちの無事を確認出来て安心しました。大丈夫です、サント王国の兵士団はとても強くて優秀ですからケガのことは全く気になりません。ご心配ありがとうございます。
それよりも、この海路を渡っているということは、フジワラさんから事情と指示は聞いたということですね」
「………はい。全て、聞きました…」
救世団――3年7組の生徒の一人でラインハルツ王国に滞在していた女子、高園縁佳はミーシャに挨拶と無事を尋ねる。
無事に再会出来たことを喜び合うのも束の間、縁佳は暗い表情を浮かべてしまう。
「あ、あの…王女様。聞きたいことが…。この船には、里中や小林……他のクラスのみんなは……いないんですか?」
縁佳とともにラインハルツに滞在していたクラスメイトの堂丸勇也は、ミーシャに恐る恐るそう尋ねてくる。彼はその答えは本当はもう分かっているはずなのだが、まだ納得していないからこそ尋ねたのだろう。それを察したミーシャは申し訳なさそうに答える。
「………ごめんなさい。本当に、ごめんなさい…。ドラグニア王国にいたあなた方のお仲間の方々は皆……モンストールに殺されてしまいました…。この船には、救世団のメンバーは一人もいません」
「………!!」
声を絞るように発したミーシャの言葉を聞いた堂丸も、縁佳たち4人のクラスメイトたちも、頭を殴られたかのような衝撃を受ける。
「ちくしょう…!里中、小林……青木も……!くそっ、くそぉ……!!」
「あいり……久美……そんな……………うぅ……っ」
堂丸と中西晴美はやり場のない怒りや悲しみを嚙みしめながら慟哭する。縁佳も曽根美紀も米田小夜も顔を青ざめさせて涙を浮かべていた。
「私や国王だったあの人が不甲斐なかったばかりに、出すべきじゃなかった犠牲を多く出してしまったこと、王妃だった私、シャルネ・ドラグニアが深く謝罪致します。守れなくて、本当にごめんなさい…!」
シャルネが切実な顔で縁佳たちにそう言って深く謝罪をする。しかし誰一人といして彼女の謝罪に対応出来る余裕はなかった。5人とも美羽から聞いたことが真実であったことを改めて認知したことでより動揺して深く悲しんでいた。
そんな彼らを、ミーシャもクィンもサント・ラインハルツの兵士たちも悲しげに見ていた。
「異世界召喚された者たちで現在残っている者は、あなた方5人。そして、現在ともに旅に出ているフジワラさんと…動死体となったカイダコウガさんの2人となります」
ミーシャの言葉に最初に反応したのは縁佳だった。皇雅の名に特に反応していた。
「そうだ……!ミーシャ様!甲斐田君は、結局生きているんですか?死んでいるんですか!?」
「それは……私にもよく分からないんです。どっちとも言えるとしか…。けどこれだけは言えます。あの人は間違いなくコウガさんでした!」
「っ!そっか………そうですか……っ」
縁佳の顔色がほんの少し明るくなったと、ミーシャはそう思った。
「あいつ、今は藤原先生と一緒にいるのかよ。何で旅なんかしてんだよ…!仲間たちがたくさんいなくなってしまったって時に…!」
「そうよ!何で二人はこの船に乗っていないのよ!?」
「甲斐田……」
他のクラスメイトたちも口々に主に甲斐田に対する疑問と不満を発する。
「あの!コウガさんは遊び目的で旅に出たわけではなく、彼の仲間の為に……」
「クィンさん。コウガさんのことも、ドラグニア王国で起きた惨事も、サント王国に着くまでの時間で全て詳しく私がお話しします。皆さん、落ち着いてから私の話を聴いて下さい―――」
こうして縁佳たちはミーシャからドラグニア王国滅亡のこと、皇雅がどういう意図で旅に出たのかについて、そこに美羽がついて行った理由、そして真なる敵の魔人族のことを、サント王国へ着くまでの間で全て聴いたのだった。
話の途中で縁佳だけがこんなことを気にしていた。
(ミーシャ様とクィンっていうサントの兵士さん、“コウガさん”って名前で……)
話を聴きながらも彼女は二人が皇雅を名前呼びしていることに少し悶々としてしまっていた。
*
名も無き陸地のはるか地下深く…地底。
その地帯には瘴気という人と魔族にとって猛毒同然の気体が充満しており、誰も住めるようなところではない。
しかしその地帯には、人らしき生物が興したであろう里か集落のような住処が存在する。こんな危険地帯で住処をつくって暮らしている生物など限られている。瘴気に対する耐性が十分な種族だ。
それは――魔人族。彼らはこの地帯に彼らの根城を築いていた。
その地帯に一匹の巨大なモンストールが出現して、口から一人の魔人族を出した。
「ふぅ……着いたか、我がホームに」
ザイート。今の魔人族を統べていて、人族や魔族にとって倒すべき巨悪の長である。そのザイートの体は今、血だらけでボロボロとなっている。そうなった原因は、数日前に皇雅と戦ったからである。
「傷もそうだが、体力の消耗も問題だな…。当面は療養槽で暮らす羽目になりそうだ…カイダめ、分裂体だったとはいえこの俺をこんな様にするとはな」
忌々しそうに独り言を吐きながら自身の足で魔人族の住処へ移動する。モンストールにはある命令をとばして移動させた。
ようやく自分の部屋がある施設に着いたところで、目の前に一人の少年らしき人物が待ち構えるようにして立っていた。
「勝手に出て行ってしばらくしてからやっと帰って来たかと思ったら、何だよその体は!?何があったのか当然話してもらうからな………父上」
「ふ……やっぱりバレてしまったか。分かった、ちゃんと話すから今回の無断外出の件は不問にしてくれよ………我が息子ヴェルドよ」
齢十代後半の見た目をしている魔人族…ヴェルドは、半目でジトッと見つめながら話す。
「ふん、話の内容によるな。以前あんたと同じように無断で地上で暴れた同胞たちを厳しく罰したこともあるからな。長のあんただろうと罰は受けてもらうぜ」
「ったく、100年程経ったお前は随分厳しくなったなァ?愚痴なら回復しながら聞いてやるから、療養槽を起動させておくよう連絡しろ」
「………手を貸そうか」
「いい。自分で歩ける」
ザイートはふらつきながらも自分がいつも利用している施設へ向かい、その中へ入る。
目的の部屋に向かう途中でとある魔人と会う。
「………ネルギガルドか」
「あらら~~~~!?ザイート様じゃない!帰ってたのねぇ?んまっ、どうしたのよその体!?あなた程のお人がどうしたらそんな状態になるのかしら!?」
「(相変わらずデカい声だし気分悪い喋り方をしやがる)外で面白い奴と戦ってきてな。それでこうなった」
「なぁんか失礼なことを心の中で言われた気がするけどまあいいわ。それにしても大した子がいるものねぇ?ザイート様をそんな状態にさせるなんて。まあ今のあなたは分裂体なんだけど」
巨漢だがオカマ口調で話すこの魔人…ネルギガルド。彼こそがアレンの家族を殺し鬼族の里を滅ぼした魔人であり、アレンの復讐相手になるであろう男だ。
「俺はこれから療養槽へ入る。ベロニカの魔術で回復する。半年はかかるだろうな」
「あらそうなのォ?」
「それに……良い機会だ。回復すると同時に“成体”になる準備もする。俺の残りの分裂体をそこに持ってこい」
ザイートのその言葉にネルギガルドと、たった今彼らのところへ来たヴェルドはピクリと反応する。一瞬だけ空気がピリついた気配がした。
「……“成体”に、なるのか?ということは………」
「ああ。そろそろ動き出すことにするぞ。この世界を滅ぼして支配する為の準備の仕上げに入る……!」
ザイートはくつくつと邪悪に笑いながら宣言するのだった―――
*この話で物語は大体折り返し地点まできたところです。これからもよろしくお願いします!
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