61話「クラスメイトどもへの報復」



 クィンにゾルバ村へ帰るぞと促そうとしたところに焦りが混じった声で呼び止める奴が出てきた。無視しても良かったのだが、俺もあのクズどもには少々言いたいことがあるにはあったから、相手してやることにした。

 今更だが、ここには俺を含む異世界召喚組が全員揃っているわけじゃねーみたいだな。五人……いや六人か、ここにはいない。まさかさっきのモンストールどもに殺されてしまったのか?うーん、あまり考えられないな。ここにはいないことが分かっている藤原と高園あの二人があの程度の敵に殺されるとは思えないし。国外へ出ているのか?まあいいや、後で確認しよう。

 で……俺を呼び止めたのは、クソクズ野郎の……大西だ。


 「何なんだよお前……あの力は何なんだ!?あんな雑魚ステータスだった甲斐田が、一人でGランクモンストールの群れを倒しただと?どんなズルしてそんな力を得たんだよ!?」

 「…………」

 「というかお前……あの状況からどうやって生き延びた!?おかしいだろ!?俺たちよりはるかに弱かったくせに、弱いくせにまだ上から目線だったクソ野郎のお前が、ハズレ者のお前があんな…!」

 「…………」

 「教えろよ!?あんな雑魚だったお前がそこまでの力を得たって言うなら、この俺がお前と同じやり方で力を得たら、間違いなく最強になれる!ほら教えろよ!この不正野郎!!」


 相変わらず好き勝手に俺を罵って、力を手にした経緯を教えろと命令するという、立場を全く分かっていないこのクズに、俺は今日初めて大西と目を合わせる。虫けらを見る目でその汚い面を見る。


 「今の俺と同じ力が欲しいのか」

 

 俺の冷淡な声に大西は一瞬怯んだ様子を見せるも、すぐに強気な態度に戻す。


 「そ、そうだ!さっさと話せよ!その後に俺もお前以上の力を手にして…………」

 「だったら死ねばいい」


 大西の耳障りな声を遮って俺は相変わらず冷淡な声で切り込んだ。


 「は……?」


 大西は何を言われたのか分からないって顔をしている。そんな大西に一瞬で接近して、髪を掴んで…


 ドゴォン!「あぐぇ!?」


 顔面から地面に叩きつけた。もちろん死なないように力をすご~~く抑えながら。突然の俺の行動にクィンも元クラスメイトどもも驚愕する。


 「黙って聞いてりゃテメー、誰に対して上から目線で口利いてんだ?テメーが今話しかけてる男はな、テメーらが束になっても勝てなかった敵の軍勢モンストールどもを一人で楽々殲滅させたチート野郎なんだぞ?なぁ、テメーは自分が安全地帯にいるって何勘違いしてんだ?俺がテメーの味方だとでも思ってんのか?あの時の俺だと思ってんのか?

 のぼせ上がんのも大概にしろよクソ野郎」

 「が……ぐぁ!?」


 手を放して今度はうつ伏せ状態で無防備の背中に足を置いて踏んづける。ちょっと力を入れただけでも大西の背中からミシベキと音が鳴り、悲鳴が出てくる。


 「げぁ…!や、め………!だ、ず、げ………!」

 「立場を弁えろよ、今はテメーが俺のはるか下にいる分際だってことをよく頭に刻んどけ。今の俺は、テメーら程度のゴミ虫なんか秒で絶滅させられるだけの力があるんだぞ?言葉に気をつけろ」


 ガン!「か…………っ」


 最後に大西の顔面を軽く蹴飛ばして元クラスメイトどものところへ飛ばした。奴の顔面は面白いくらいに凹んでいた。


 「こ、コウガさん……!」

 「安心しろ、殺したりはしないから」


 クィンは元クラスメイトどもを守るように俺の前に立ってくるが、殺さないと誓ってどかせてあいつらのところへ行く。殺気とかは飛ばせない体質なので代わりに全身から魔力を迸らせて威嚇代わりに使う。俺の超濃密な魔力を前に、山本も片上も安藤も鈴木も須藤も里中も、学校で俺をハブにしてこの世界で罵って虐げたクズども全員が恐怖する。

 ある者は立ってられず尻もちをつき、ある者は全身を震わせ、ある者は顔を真っ青にさせていた。特に俺を虐げた連中は今にも逃げ出そうとしている様子だ。俺を散々貶めたっていう自覚はあるみたいだな。

 そんな小物どもに対する俺は、ゴミを見る目で見下すだけに止めておいた。


 「テメーらはあの時俺を見捨てる選択をした。ただ選択しただけじゃねー。テメーらは俺を罵倒しながら見捨てた。嗤いながら見捨てた。あの時の屈辱と怒り、そして憎しみ…昨日のことのように思い出せる。

 今すぐテメーらをここで皆殺しにしても良いなと考えてさえいる」


 俺の言葉を聞いた連中は全員顔を真っ青にさせる。安藤なんかはイヤイヤと呟きながらガタガタ震えている。


 「だがそこは安心しろ。依頼任務の縛りがある以上、今回はテメーらをここでぶち殺すようなことはしない。ただ…これ以上俺にヘイトを溜めさせることがあれば、気が変わるかもな」


 スッと手を前に突き出して魔法を発動する。直後数人が俺のところへ引き寄せられる。

 「ぐぇ!?」「なあ!?」「げぇ!?」「ひぃ!?」「うわぁ!?」「いやぁ!?」


 引き寄せたのは大西と同じく俺をリンチしたり学校でも色々貶めてきた奴ら…山本、片上、須藤、里中、小林、安藤だ。

 重力を操って六人を宙に浮かせる。そして順番に、体にギリギリ触れないところに拳を放って、全員を殴り飛ばした。こいつら程度の相手なら、空気を殴りつけただけの拳圧でもまるでぶん殴られたかのようなダメージを負わせることが出来る。直接当ててたらたぶんモンストールみたいに爆散させてたかも。

 空気越しにぶん殴られた六人はキモい悲鳴を上げながら大西と同じように無様に地面に転がり落ちて倒れた。それを見た元クラスメイトどもはさらに俺を怯えた目で見て震えだす。


 「あの時…初めの訓練で俺を囲ってリンチしやがった分だ。何が訓練だ、そう称してただ俺を虐げたかっただけのくせに。

 おい、この程度で倒れてんじゃねーよ。テメーらはあの時…骨が折れるまで殴って蹴って、魔法も容赦無く浴びせてきたよな。俺をズタボロのぼろ雑巾にさせてくれたよなぁ?」


 須藤の胸倉を掴み上げながら、平坦で冷淡な声で恨み言を吐く。山本と片上はパニックを起こし、安藤は泣き出し、里中と小林は心が折れた様子でいる。須藤を乱暴に投げ捨てて再び六人を浮かび上がらせる。


 「山本純一…テメーも大西と同じように見た目だけイキってるだけで、自分はクラスでカーストトップに位置していると気取ってる虚勢だけの野郎。テメーごときが何でこの世界の救世主の枠に入ってんだ?異世界主人公のが」

面汚し

 地面に叩きつける。


 「片上敦基…このクソ坊主が。テメーも以下同文だクソが」

 

 地面に叩きつける。


 「須藤賢也…ヤニカス野郎。テメーみたいな喫煙マナー守らないクズが何でまだ生きてんのかねぇ」


 空気越しに殴りつけて顔面を潰す。


 「里中優斗、小林大記…この世界に来てから堂々と暴行するようになったな。小物が力を持つとホントに調子に乗るよな。後の報復をロクに考えずにぶん殴りやがって」


 空気越しに脳天を殴って地面に打ち落とす。


 「安藤…クソ女、存在がブスのゴミカスが」


 歯を折って鼻を潰して髪を半分燃やしてから地面へ捨てる。中身だけじゃなく見た目もブスにしてやった。


 「ひ、酷い…!こんなの…いくら何でも……っ」


 顔に手をあてて泣き出した安藤を見ながら、奴と仲が良い女子…柴田あいりがそうほざく。


 「酷い?いいか、このクズどもはあの最初の訓練の時に俺を囲ってリンチしやがったんだ。それもズタボロになるまで。俺はあの時やられた分をそのまま返しただけだ。殺されないだけマシだと思ってほしいくらいだ」


 再び地面に這いつくばっている六人を見下しながら俺はまた手を掲げる。


 「とはいえまだズタボロって状態じゃねーな全員。もうちょい遊んでやろうか……………」

 「コウガさん!いい加減にして下さい!!」


 重力魔法を発動しようとしたところに、クィンが立ち塞がる。いかにも怒ってますといった顔をして俺を睨みつけてくる。


 「強大な力を持つあなたがこんなことをしないで下さい!いくら何でもこれはやり過ぎです!」


 チラと安藤を見て悲しそうな顔をする。


 「あなたの過去は以前に聞いています。だからあなたが彼らに対して尋常じゃない怒りを抱いている理由も分かっているつもりです。ですが私は……コウガさんにはこんな復讐紛いの行為をして欲しくありません!!」


 必死の形相で俺がしていることを非難する。そんなクィンを俺はめんどくさそうな顔で見返す。


 「これ以上彼らに何かするようであれば……任務は失敗ということにさせて頂くことになりますよ…」

 

 しまいにはそんなことを言い出すから、俺も冷めてしまう。


 「ちっ……もういいよ。このクズどもにそれなりの痛みと恐怖と屈辱を与えることが出来たし。もうこのクズどもの顔見るのも不快だ。帰ろう」


 魔力を霧散させて何もしませんよのポーズを取りながら、元クラスメイトどもから離れて今度こそ帰り始める。


 「化け物…」「顔を見たくないのはこっちも一緒だよ」「早くいなくなれ」


 背中越しに奴らの陰口を受けながら俺は振り返ることなくドラグニアから出て行こうとしたのだが……



 「カイダさん!!」



 俺の名を引き止めるように叫ぶ声にまた立ち止まってしまう。声からして少女。そしてこの声には憶えがある。振り向くと予想通りの人物がいた。


 「お姫さんか」

 「カイダ、コウガさん……!」


 ミーシャ・ドラグニア。お次はこの国の王女が現れた。ついでに武装している男二人も一緒にいる。

 

 「カイダコウガ…だと!?」

 「死んでなかったのか奴は…!?」


 国王と王子。二人とも殺していい、というか殺したいと思ってる害悪どもだ。何せ国王は元クラスメイトどもと同様に俺をゴミ扱いしやがったし、王子に至ってはあの実戦訓練の時に俺を切り捨てることを真っ先に提案して実行したクソ野郎だからな。


 「老害国王とクズ王子が…」


 そんな二人に俺は不遜でゴミを見る目で睨み返してやった。


 「貴様……久々の再会早々に、余と父上に対して何だその言葉と目は!?」

 「マルス、奴の言動と態度については今は置いておけ。それよりも……これはまさか、あのモンストールの群れはもう殲滅したというのか!?」


 王子は相変わらず俺に侮蔑の意を込めた目(今は怒りもあるな)を向け、国王はこの地を見渡して信じられないといった様子で誰かに尋ねるように喋る。


 「貴方は…ドラグニア王国国王カドゥラ様ですね?私はサント王国兵士団副団長、クィン・ローガンと申します」


 国王のところにクィンが片膝をついて敬う姿勢をとりながら名乗り上げる。


 「色々な理由でこの大陸に滞在してました。そして先程まで発生していたモンストールの群れがここに侵攻していたことを知り、微力ながらこの国の危機を救うべく参りました。もう意味が無いことになりますが、本日中には我が国の兵士団からさらに増援が来ることになっています、ご了承ください」

 「おお、サント王国から…。わざわざ大儀であった。ではまさか、そなた…クィン兵士団副団長がモンストールの群れを、救世団と共に掃討してくれたのか?」


 クィンを見た途端に国王と王子は彼女に親しげな態度を取る。俺に対してだと見下したり侮蔑の目を向けてたくせに。気持ち悪いくらいの猫かぶりだな。


 「いえ。あの群れを殲滅したのは私でもなく救世団でも…なく、ここにおられるカイダコウガさん。彼が一人で残りの敵を全て討伐されました。彼がこの国の危機を救って下さったのです!」


 クィンは俺の方を見て紹介するように手を伸ばしてそう主張しだした。あーもう別にそんなこと言わなくてもいいのに。


 「…………今の言葉は、真実か?」


 国王は額に微かな汗を滲ませながらクィンに問いかける。王子はハァ?と言いたそうなリアクションを取り、お姫さんは…ん?そんなに驚いてはいないな。予め何か知っていたような感じだな。


 「真実です。さらに申し上げますと、ここに来る前からも彼は大陸各地で発生したモンストールの群れを全て殲滅してきています。それによって多くの村と町が救われました。彼がいなかったら、領国内にあった村と町は全てモンストールに蹂躙されて滅んでいたことでしょう…。そしてこの国も無事で済むことはなかったでしょう、全戦力を投入していたにもかかわらず…」 


 最後の部分を言っていた時のクィンは、国王たちを非難するような口調で話していた。目も非難の意がこもっていた気がした。実際に国王は言葉に詰まっていたし、お姫さんも罪悪感を抱いているような感じだった。そういえばクィンは情報屋コゴルが提供してきた情報内容を聞いて激怒していたっけ。だからこうして非難するような言い方をしてるのだろう。


 「………失礼致しました。とにかく、モンストールの脅威はもう無くなりました。これ以上新たな敵の軍勢が現れることもないと確信しています。もう大丈夫です」


 帯びていた険を失くして再び敬った態度で敵が完全に消失したことを宣言するクィン。それを聞いたお姫さんはホッとした顔になった。


 「あの脅威が去ったのは僥倖だ。だがしかし……その敵を消し去った者が、あの男だと言うのは、いささか信憑性に欠けるな」


 国王は再び俺に目を向ける。疑心に満ちた目で、まだ見下した態度で。


 「その通りだ!クィン殿は知らぬかもしれないがな、あの男…カイダコウガのステータスは救世団の誰よりも劣っていた!上位レベルの敵を倒すことすら叶わないレベルだった!そんな奴が一人で十を超える数のGランクモンストールを討伐することなど、信じられぬ!!」


 王子もこっちに敵意と侮蔑を込めた目で睨んでくる。


 「ですが、真実です!コウガさんがいなければこの国が本当にどうなっていたか……っ」

 「“コウガ”、さん……?」


 別に擁護しなくていいのにクィンは俺が敵を殲滅したと二人に食い下がろうとする。そしてお姫さんはよく分からないところに反応している。


 「………。本当はクィン殿と救世団の彼ら、そして我が国の兵士たちの活躍がほとんどではないのか?」


 国王は元クラスメイトどもに目を向ける。奴と目が合った男子…たしか鈴木貞三郎だったか?は、気まずげに、そして悔しそうに目を逸らした。その反応を見た国王はますます難しい顔をする。


 「…………詳しい話は、王宮内で行うとしよう。クィン兵士団副団長、そして……カイダコウガ。王宮に来てもらおうか」

 

 また俺に対してだけ見下した態度でそう言ってくる。


 「は?誰がテメーらの言うことなんか聞くかよ。俺には帰るところがあるっつってんだ――」

 「コウガさん。お願いします。私と一緒に王宮に行きましょう。この件ついてもう少し話しておきたいことがあるので。あなたも交えた状態で」

 

 俺がやってられるかっていう感じで立ち去ろうとするが、クィンにまた止められて、しかも一緒に行こうとか言い出す。

 

 「はぁ?何で?」

 「お願いします…」

 

 疑問をぶつけるもクィンはひたすらお願いしてくるので、「分かったよ」と言ってついていくことにした。俺は何回この女の言うことを聞かされる羽目にあってんだか…。

 

 不本意だがクィンとともに、嫌な思い出しか残っていないあの……ドラグニアの王宮へ移動する。

 その道中お姫さんが俺をジッと見てくるのだが、俺は知らんふりを通した。








*心情としては殺すまでには本気で至らなかったもよう。

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