62話「王族どもへの報復」


 場所は変わって、ここはあの日…実戦訓練の日の朝にも来た、王の謁見部屋。その部屋の奥には大きな王座があり、そこには国王があの時と同じように偉そうに座っている。両隣には王子とお姫さんが、後方にはこの国の兵士団団長(確か名前はブラッドだったか)が立っている。さらに左右端にはこの国の王族や上層部も控えていた。

 俺とクィンは今、出入り口となる扉まで続いている赤い絨毯の上、部屋の中心に立っている。これから何を話すのかは分からないし興味もないしどうでもいい。つーか早くゾルバ村…アレンがいるところへ戻りたい。


 「まず…何から聞かせてもらおうか」


 要人が全員揃ったところで国王は話を始めようとする。俺とクィンを交互に見て、最終的には俺に目を向ける。その目は相変わらず人を見下して敵意を向けたもので、友好的な感情など微塵も含んでいない。


 「カイダコウガ…。貴様はどうやって生きて地上へ戻ってきた?マルスとブラッドからの報告によれば、当時の貴様はモンストールによって深手を負わされた状態のまま、モンストールとともに地の底へ落ちていったそうではないか」

 「それに地底には人族や魔族が死に至る瘴気が充満しており、強大な力を持つモンストールも多数いるとされている。あの時の貴様がそんな地獄から生還出来たとは思えぬ!言え、あの時いったい何が起こったのかを!」


 国王が偉そうな態度のまま質問した内容は、俺が如何にしてあの地底から生還したのかということ。王子もあの時の状況と地底の背景を思い浮かべながら同じように尋ねてくる。

 貴様貴様と鬱陶しく問うてくる二人は、俺のことをまだ下に見ているようだ。立場も権力も何もかもが俺より上で、自分らの命令に従って当たり前ーって思い込んでやがる。


 「どうした?さっさと話せ。貴様如きに時間を割いてきた他の者たちのことも考えろ。災害レベルのモンストールを数体討伐したと聞いたその力をどのようにして得たのかも、我らに話す義務が貴様にはある」

 「貴様が持っているであろう情報は、この世界に蔓延っているモンストールを殲滅する兆しとなり得るのだぞ!この国の為…世界の為に、知っていることを全て話せ!それとも何か?外道な行いでもして生還して得た力だと言うのか。迷う必要は無い。話すことが優先だ。もし外道な行いをしたというのなら後でその沙汰を考えるが」


 どこまでも勝手で上から目線の二人に対する俺は……


 スッ……「「「?」」」


 人差し指を赤い絨毯の下に向ける。そして俺も偉そうに人を見下した態度をとってこう告げる。


 「話して欲しければ、二人ともここで俺に土下座をしろ」


 部屋が数瞬沈黙に包まれた。隣にいるクィンが驚愕に目を見開いて俺を見て、お姫さんも彼女と似たようなリアクションをとっている。そして国王と王子の二人は呆気に取られ、何を言われたのか分からないって表情で硬直していた。何あの顔、キモいな。


 「今…何と言った?」

 「は?聞こえなかったのか?その耳は飾りですかー?だーかーらー。俺がどうやって地上に戻ってきて、さらにくっそ強くなってなったのかについて話して欲しいなら、この地に頭を擦りつけて手をついて『どうかお教え下さいお願い致します』って言えよ」


 悪い笑みを浮かべながら指を下に向けたままそう言ってやる。


 「な………な……っ」

 「ああ?第一声は“な”じゃなくて、“どうかお願いします”の“ど”だろうがクソ王子。余は貴様らの土下座を所望しているのだぞ、さっさとしろ」


 王子の自分呼称と口調を真似して馬鹿にしてやる。くくっ、王子の顔がここからでも分かるくらいに怒りで赤くなってやがる。国王も明らかに怒りの表情を浮かべてやがる。


 「貴様ぁ!!余と父上に対して何だその口の利き方は!?この国を統べる者だぞ!」


 王子の怒声を起点に左右に控えていた王族や上層部も同様に俺に怒りの非難を浴びせてくる。

 

 「片手剣士の分際で」「かつては最下層の戦士が」「立場を弁えろ」「王の冒涜罪だ、死刑だ」「この身の程知らずが」


 左右から耳障りな罵声がとんできて鬱陶しい。で、国王は怒り顔のまま片手を上げて合図を送る。同時に後方にいたブラッドと左右にも控えていた兵士どもが俺とクィンを囲んだ。

 

 「な……っ!?」

 「クィン兵士団副団長は下がられよ。即刻この不届き者を拘束せよ!」


 国王も王子程ではないにせよキレた状態で兵士どもに命令を下す。しかし兵士どもは俺に近づこうとはしなかった。理由は単純、俺が全身に魔力を迸らせ手足を「硬化」させて戦闘態勢に入ったから。それを見た彼らは近づくことが出来ないと悟った。クィンは額に冷や汗を滲ませながら俺から離れて武器を構えている。


 「何をしている!?早くその愚かな異世界少年を捕らえろ!殺しても構わん!」


 国王と王子以外の王族どもが俺を指差して兵士どもに命令をとばす。


 「おい…誰に向かって武器を向けようとしてるのか分かってんのか?この国に侵攻してきた数十のGランクモンストールの群れを単独で殲滅させたのが俺だってことを忘れたわけじゃねーよな?」

 「「「「「……っ」」」」」

 「テメーらが縋っていたあの弱っちい救世団(笑)が倒しきれなかった敵の軍勢をたった一人で全滅させたのが俺だってこと、現場にいたテメーらなら知らねーわけないよなぁ?」


 そう言って睨んでやると、兵士全員は顔を青くさせて俺から数歩引き下がる。今回の戦いの結果を知っている以上、こいつらはたとえ国王の命令だろうとうかつに俺に攻撃をしようとはしない。誰だって命は惜しいだろうからな。


 「おい何故引き下がる!?相手は一人だ、さっさと一斉に――」

 「うるせぇんだよさっきから」


 ヒュ――ゴッ「ぎゃあ!?」


 左から兵士どもにうるさく命令する王族の一人の顔面に拳圧を飛ばしてふっ飛ばして黙らせる。王族は壁に激突して昏倒した。それを見た他の王族や上層部どもは蛇に睨まれた蛙の如く身を固めて黙った。王子と国王も同様にしている。


 「テメーらも分からねーのか?今の俺があの時の俺だと思ってんじゃねーぞ。今の俺はGランクはもちろんSランクの敵だって苦労することなく殺すことができるんだぜ?そして…その気になれば今すぐここの全兵士とあの連中をも皆殺しにだって出来るんだ。何なら試してやろうか?テメーら自身で…!」

 「――っ!ぐ、う………」

 「ぬ、ぐ…………っ」


 俺にギロリと睨まれた国王と王子はようやく目の前の俺が途轍もない力…それこそこの国を簡単に滅ぼすことが出来る人間であることを理解したらしい。これ以上偉そうな口を利くことはせず、ただ歯軋りをして悔しそうにしている。

 

 「コウガさん、そのへんで――っ!?」

 「いいや止めねー。クィン、しばらくそうしていろ。大丈夫、殺したりはしねーから」


 俺を諫めようとしてきたクィンを、雷電魔法で麻痺状態にさせて座らせる。これ以上は我慢出来ねーからなぁ。奴らには分からせてやる必要がある。調子に乗りやがって。


 「まずさぁ。俺は一応この王国の危機を不本意ながら救ってやったんだぞ?なのにクズ国王…テメーの第一声は何だ?“何から聞かせてもらおう”だ?国を救ってくれたことへの礼の一つも言わないどころか自分が知りたいことを優先しやがって!テメーそれでも王国を統べる国王か?礼儀知らずにも度が過ぎてんだろ」

 「ぐ……!それは、貴様が本当にあれだけの敵をたった一人で殲滅したのかどうかが定かではなかったから……」

 「下らねー言い訳だな、しょうもない。じゃあ今すぐテメー自身で俺の力を受けてみるか?それなら本当か嘘かハッキリ出来るんじゃねーか?そこのクソ王子でも良いんだぜ?」


 硬化した両腕を見せつけて牽制してみせる。その時王子が怒りの形相で飛び出してきた。


 「余らを虚仮にするのも大概にしろ!!貴様のその力は所詮ハッタリだ!その化けの皮を剥がしてくれる!!」


 そう叫びながら武器らしき錫杖をこちらに向けて魔法を放った。


 「“悪魔の口腔デビル・ゲート”砕けろ!!」 

 

 闇属性の魔法か。絵本でよく見る死神を思わせるような化け物の巨大な口が、俺を嚙み砕こうと向かってくる。

 そんな魔法攻撃を、俺は硬化状態の左拳でパァンと消し飛ばした。


 「は……?」

 「まさ、か……!?」

 

 その光景を目の当たりにした王子と国王は思いっきり動揺していた。お姫さんも息をのんで見ている。


 「そんな……余の魔法が、ただの拳一つで……破られただと!?」

 「ただの拳?これがか?よく見ろよ、かなりレアな固有技能を纏わせてるんだぞ。テメー程度の魔法くらい簡単に破れるっての」


 そう言いながら王子のステータスを鑑定してやる。ついでに国王も。



マルス・ドラグニア 19才 人族 レベル30

職業 僧侶

体力 900

攻撃 900

防御 900

魔力 900

魔防 900

速さ 900

固有技能 光魔法レベル5 闇魔法レベル5 重力魔法レベル5 魔力障壁 堅牢 魔力光線(光 闇) 回復 加速



カドゥラ・ドラグニア 56才 人族 レベル45

職業 召喚術師

体力 1000

攻撃 600

防御 1500

魔力 2000

魔防 1500

速さ 300

固有技能 光魔法レベル7 炎熱魔法レベル6 雷電魔法レベル6 召喚術(神獣クラスまで召喚可) 魔力障壁 堅牢  



 「はっ、二人とも元クラスメイトどもくらいには戦える強さはあるみたいだな。腐ってもこの国を統べる奴ってことか。まあ俺にとっては雑魚なんだけど。なあ、僧侶と召喚術師よぉ?」

 

 職業を見破られたことでまた驚愕する国王と王子の体を、重力魔法で引っ張り出す。

 

 「ぐお!?」「何ぃ!?」


 二人を俺の前まで引っ張り出し、宙に浮かせる。国王はそのままにして、全身をギリギリと締め付けているクソ王子の顔面を掴んで、重力を解くと同時に力一杯地面にぐしゃりと叩き落した。


 「げばぁああ……!!」

 「げばあって、王子がそんな汚い声を出して良いのかよみっともねぇ!」


 地についたクソ王子の顔面に足を乗っけながら罵ってやる。うつ伏せ状態で倒れているから見ることはできないが、きっと怒りと屈辱で顔を歪めているんだろうな。そう思うと心底笑えてくる。


 「きさ、ま……!マルスに何をしている!?その足を、どけ…ろぉ!!」

 「テメーも黙れよ老害クズ国王」

 ガンッッ「ごふぅ!?」


 怒声を上げて俺に吠えてくる国王に逆切れ返事しながら顔面を蹴り上げる。重力で縛っているので天井へ吹っ飛ぶことはなくその場で停止したままだ。

 改めて二人を地面に這いつくばらせる。顔だけ自由にさせてやると二人とも怒りと畏怖が混ざった表情を浮かべて俺を見上げてくる。


 「カイダ、さん……っ」


 お姫さんは王座の傍から動くことなく怯えた目でこっちを見ているだけだ。他の王族や上層部どもは何人かこの部屋から逃げ出して行ってる。戦士ではなくとも俺が得体の知れない凄く強くてヤバい奴だってことくらいは理解したようだ。


 「馬鹿な……貴様にこんな、力が……っ」

 「悪夢でも、見ているのか…!?こんな……こん、な………」


 この二人もようやく俺が異次元に強くなってることを認め理解したようだ。同時に脅威認定もして以前の俺とは別人だということも認識したみたいだ。


 「さっきの続きだが…テメーらの国をあの化け物どもから守ってやった俺に、何の礼も言わねーのはどうなんだって言いたいんだよこっちは。まあこっちは?テメーらゴミカスどもに恩を着せたいとか感謝されたいとか思ってねーからどうでもいいんだけど。こっちは依頼されてこの国に侵攻してきたモンストールどもを駆除しただけだしな」

 「ぐ……!」

 「おのれぇ…!」

 「まあそれでも、さっきのあの態度にはムカつかされたから…ここは一つ、テメーらの誠意ってやつを見せてくれねーと腹の虫が治まらねーかもな」


 スッと手を左右上下に振って、二人の体勢を変えてやる。うつ伏せから正座体勢へと無理矢理変えてやった。


 「さあ、誠意を見せてもらおうか、クズ国王とクソ王子」


 正座させたまま手を地につけさせて、さらに頭も地に擦りつけさせてやる。土下座の完成だ。


 「ぐぅぉおお、やめろぉ!!」

 「くそ、くそぉぉお!!」


 重力で縛っているため二人は土下座体勢から逃れることが出来ない。何か喚き立ててることしか出来ない二人を、俺は笑いながら見下している。

 

 「ほら、国を守ってくれてありがとうございますって礼を言ってみろよ!それとも俺がどうしてこんな力を持ったのか教えて下さいって頼む方が良いか?好きな方を選べよ!その汚い頭を地に擦りつけながら礼を言うか教えを乞うか、どっちかやってみろよ、ほらぁ!!」


 今度は国王の頭を踏みつけてやる。窒息しかけたのかゴホゴホと咳き込んで苦しそうにする。いい気味だ、楽しくて仕方がない。


 「図がたけーんだよ。弱くて大した能もないくせに偉そうに国王とか王子とか名乗りやがってよぉ。最初から俺のことを見下しやがって。そして、真っ先に俺を切り捨てやがって!」


 再びクソ王子の頭を踏みつける。勢いよく踏んだせいで王子の鼻がぐちゃりと折れた。


 「ぐおおお、おお…!!」

 「が、あああっ!!」

 

 二人とも俺が提示した文句を言うことなくただ呻き声を出すだけだ。俺に礼を言うのも教えを乞うのも嫌みたいだ。プライドが許さないってやつか。ここまで面子を汚されておいてまだ抵抗するのは、王国としてのプライドか…下らない。


 「や、止めて下さいカイダさん!!」


 ここでお姫さんが制止の声をかけてくる。彼女は目に涙を溜めて悲しそうな顔をしていた。


 「どうか……その怒りを鎮めて頂けないでしょうか。お願いです、どうかこれ以上は…!」


 両手を組んで祈るように懇願してくるお姫さんを冷めた目で見る。


 「コウガさん、そこまでにして下さい…」


 さらにはチャキ…と背中に何か刺さる気配がした。

 半分振り返るとクィンが険しい顔をして、こっちに剣を向けていた。ブラッド兵士団長たちも同じように剣を向けている。

 おやおや、これが四面楚歌ってやつかな?



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